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“天国と地獄”を味わった夏。米子北はインハイ決勝以来の公式戦で感謝の思い込めて走り抜く

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米子北高はCB鈴木慎之介主将らが砂埃舞うグラウンドで前日練習

 今夏のインターハイで09年大会以来となる全国2位。躍進を果たし、決勝(8月22日)で絶対的な優勝候補・青森山田高(青森)を追い詰めた米子北高(鳥取)が9日、その青森山田戦以来約1か月半ぶりの公式戦に臨む。

 Jクラブ注目の10番、MF佐野航大(3年)が「一戦一戦戦ってきて、決勝まで行った」と振り返る米子北は、インターハイ初戦で伝統校・帝京高(東京2)戦をPK戦の末に突破するなど8強入りすると、準々決勝では強力攻撃陣の神村学園高(鹿児島)をハイプレスと速攻で撃沈。準決勝では星稜高(石川)に2点差を追いつかれながら、MF牧野零央(3年)の劇的な決勝点で勝利した。
 
 そして、準決勝までに大会新記録となる28得点を叩き出していた青森山田と決勝で対戦した。青森山田優位の予想を覆し、佐野のPKで先制した米子北がリードして試合を進める。青森山田のセットプレーに対して強さを発揮した佐野らがファーストディフェンスで奮闘。CB鈴木慎之介主将(3年)をはじめスピードのある4バックの我慢強い守備もあって1点を守り、逆にカウンターから追加点のチャンスを作り出していた。

 1-0のまま残り時間は5分を切り、初優勝を手中に収めかけていた米子北だが、後半34分に左スローインの流れからヘディングシュートを決められてしまう。それでも、まだ同点。延長戦も“ラスボス”青森山田に食い下がった米子北だが、PK戦突入直前の延長後半ラストプレーでCKから再びゴールを破られ、涙をのんだ。

 中村真吾監督が「天国から地獄」と表現した決勝戦。決勝点のCB丸山大和(3年)をマークしていた鈴木は「甘くないな」と実感したという。勝敗は紙一重と言えるようなゲームだったが、自力の差を見せつけられての逆転負け。鈴木は「(強さは)相手の方が何十倍も。サッカー面全てのところでも、もちろん人間性の部分でも優れていたと思う」と認める。

 もちろん、準優勝は悔しい。だが、彼らは“勢いだけで勝利しなくて良かった”という思いも抱いている。鈴木は「選手権に向けて考えると、もっと成長しなければいけないと感じられる試合になったかなと自分は捉えています」と語り、佐野も「守れていたんですけれども、本当に最後の最後であの1点という大きな差だった。全国でやられた分は全国で返すしか無い」。自力をつけ、“日本一に相応しいチーム”になって最大目標の選手権へ。今年はインターハイ前から選手間の厳しい声が飛び交っていたというが、準優勝後のトレーニングはさらに各選手のモチベーション高く、充実した時間を過ごせていたという。だが、その矢先、チーム内で15名のクラスターが発生し、9月半ばまで活動休止となってしまった。

 非難、厳しい指摘を受けた一方、全国各地から本当に多くの激励の声や支援物資が届いたという。米子北サッカー部が大事にしていることは「背後の(サポートしてくれる)選手たちや、支えてくれている人たちのことを考える」ということ。それがインターハイ準優勝の原動力だった。選手、スタッフは今回、改めて多くの人に支えられていることを実感。活動再開後は感謝を胸に、屋外のミーティングでもなるべく距離を取るなど、感染予防対策をより徹底しながらトレーニングを続けてきた。

 そして、いよいよ迎える公式戦。プリンスリーグ中国・作陽高(岡山)戦(9日)を控えた前日練習後、中村監督は選手たちに「最後まで諦めずに走る、戦うということはできる。それで周りが元気になる。オマエらの元気が証明される」とメッセージを送っていた。ブランクが長かったため、思うような戦いはできないかもしれない。それでも、自分たちらしく走る、戦うこと。それで周囲を元気づけることはできる――。

 鈴木は「期間が空いてしまった分、不安の思いは強いですけれども、インターハイ含めて、コロナで大変な時期に色々な人に応援してもらっていることをより実感することができたので、その人たちに対して感謝の気持ちを表せるような試合にしたいと思います。走ったり、最後まで諦めないで戦うことが米子北らしさを表せるところだと思っているので、そういうところをやっていきたいと思っています」と力を込めた。

 全国上位校のほとんどが人工芝グラウンドでトレーニングする中、土のグラウンドで他校以上に人間力と戦う力、そして栄養の摂り方、身体の動かし方など細部までを磨いて全国ファイナルまで勝ち上がった米子北。「“天国と地獄”」を経験し、多くの支えを再確認した夏から再び日本一、プレミアリーグ昇格へ走り出した米子北が、まず公式戦のピッチで元気に走り、戦い抜く。 

土のグラウンドから全国ファイナルへ進出

感染予防対策を取りながら練習に取り組んできた


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(取材・文 吉田太郎)
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