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被シュートゼロ、失点ゼロでアウェイ完勝。青森山田は首位をキープして優勝の懸かった最終戦へ向かう

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青森山田高はFW渡邊星来(17番)の先制点に歓喜の輪を作る

[12.5 プレミアリーグEAST第18節 FC東京U-18 0-2 青森山田高 FC東京小平G]

 両サイドバックの負傷離脱。主力選手のコンディション不良。遠い関東アウェイでの連戦。そういう要素をすべてひっくるめて、力にするだけのエネルギーがこのチームにはある。

「常に自分たちらしいサッカーをすれば、勝ちは絶対に付いてくると思いますし、そこがブレてしまうと、勝利の神様は相手チームの方を向くので、このベースを切らすことなく今後の試合をやっていきたいです」(青森山田・松木玖生)。

 被シュートゼロ、失点ゼロで、勝利の神様を振り向かせる完勝劇。5日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第18節、FC東京U-18(東京)と青森山田高(青森)が激突した一戦は、前半31分にFW渡邊星来(3年)、45+1分にMF藤森颯太(3年)がそろって2戦連発弾を沈めた青森山田が2-0で勝利。リーグ優勝に向けて、また一歩前進している。

「ここに入ってきた時からFC東京のホーム感が凄くあるなとは思いました」と、来春からこの小平グラウンドが“ホーム”になるFC東京内定のMF松木玖生(3年)が振り返ったように、条件付きとはいっても、FC東京U-18のホームゲームでは今シーズン初の有観客試合。ピッチの周囲にはこの日を待ち侘びていた観衆が集まり、サポーターから3年生へ贈られたゲーフラもお披露目。わずかながら日常が帰ってくる予感を思わせるような環境下で、ゲームはキックオフを迎えた。

 ファーストチャンスは前半5分の青森山田。負傷離脱中のDF多久島良紀(2年)から、ロングスローワーの座を引き継いだ藤森が右から投げ入れたボールがエリア内でこぼれ、DF丸山大和(3年)が詰めたシュートはFC東京U-18のGK彼島優(3年)がキャッチしたものの、まずはアウェイチームがセットプレーで惜しいシーンを創出する。

「良くない時は変なPKを与えたり、変な失点をしてしまって、試合をやりにくくさせることが結構あったので、10分から15分のところは入り方を間違えないように入りました」と黒田剛監督も話した青森山田は慎重な立ち上がり。加えてFC東京U-18もきっちり守備からゲームに入ったことで、動きの少ない展開に。25分はFC東京U-18。MF加藤大地(3年)が左サイドの高い位置で奪ったFKを、DF大迫蒼人(3年)が得意の左足で蹴り込むも、シュートには至らず。29分は青森山田。中央右寄り、ゴールまで約25メートルの位置から、松木が直接狙ったキックはわずかに枠の右へ。観衆からもため息が漏れる。

 31分。絶好調のストライカーが吠える。「相手の顔が上がった瞬間に寄せるところで、しっかりボールを取り切れました」という松木は、すぐさまスペースにスルーパス。受けた渡邊は冷静にボールを左スミのゴールネットへ送り届ける。「最初はキーパーがニアにいて、打とうと思ったらディフェンダーが足を出してきて股が見えたので、そこにシュートを打ったら、うまく流れていったかなという感じです」という17番は、前節のハットトリックに続き、この大事な一戦でもきっちり結果を。青森山田が1点のリードを奪う。

 45+1分。チーム屈指のハードワーカーが輝く。中央でのスムーズなパスワークから、「藤森が後ろから良い形で入ってきたので、シュートという選択肢もあったんですけど、一番効率の良い選択ができたかなと思います」と松木は丁寧にラストパス。藤森の豪快なシュートがゴールネットを貫く。「自分たちには青森山田の選手としての責任だったり使命感がある」と言い切る11番の貴重な追加点。2-0。点差が広がった。

 後半は両チームを通じて、1本のシュートのみ。ホームチームは90分間を通じてフィニッシュまでボールを運べなかった。「そんなに相手と差があるとは個人的に感じなかったですけど、相手の方がどんどん追い越していくところとか、コンビネーションが上手かったですね。それで2失点ともやられましたし、自分たちはそこで運んで行った後のアイデアがなかったので、もう1個押し込むところまで行かなかったのかなと思います」と口にしたのは、青赤のキャプテンマークを巻いたMF梶浦勇輝(3年)。トップ昇格内定のFW野澤零温(3年)、MF安田虎士朗(3年)も後半から登場したが、大きく流れを変えるまでには至らず。2点差のままでタイムアップのホイッスルを聞くことになった。

 終盤には語り落とせない“交代”があった。後半45+2分。タッチラインにオレンジ色のユニフォームを着たGKが現れる。「後ろを振り返って、『誰を出そうかな』と思った時に出たそうな顔をしていたしね(笑)」と指揮官も言及した青森山田のGK鈴木尋(3年)は、FC東京U-15深川出身。GK沼田晃季(3年)とハイタッチを交わし、ピッチに笑顔で駆け出して行った鈴木は「ずっと深川の時代から憧れていたピッチでしたし、そこで相手がFC東京というチームで、こういう環境でできたことには本当に感謝したいし、嬉しいものがありました」と試合後も笑顔。時間にして数分ではあったものの、忘れられないプレミアデビューを飾った鈴木。こういうシーンがサッカーの大きな魅力であることも、蛇足ながら付け加えておきたい。

 ホームで清水エスパルスユース(静岡)との首位攻防戦に敗れてから2週間。柏レイソルU-18(千葉)、FC東京U-18と続いた関東アウェイを連勝で切り抜けた青森山田。「今回は田澤も昨日まで歩ける状態ではなかったし、名須川も体調不良で、両サイドバックが前十字を切ってしまって、満身創痍じゃないけど、本当に大変な状況で今日を迎えたので」とは黒田監督。それでもきっちり勝ち切るあたりに、今年のチームの総合力が垣間見える。

 この日もマネージャーとしてベンチに入ったDF大戸太陽(3年)、前節の柏U-18戦には帯同していた多久島の離脱を受け、右サイドバックに入ったDF中山竜之介(2年)、左サイドバックを務めるMF小野暉(3年)も完封勝利に貢献。2人に対しては「結構ボールにも厳しく行けていたし、少しずつ慣れてきているかなという感じはあります」と黒田監督も一定の評価を。「一緒のピッチでずっと青森で練習してきて、彼らの特徴も分かりますし、足りない所ももちろんあると思いますけど、そういったところを克服することができる2人だと思うので、そこは何も心配していないです」と松木も言及している。

 好調を維持している渡邊星来の言葉が印象深い。「残りはあと1か月しかないですけど、チームとしてはまだ全然レベルアップできると思いますし、たぶん自分たちが一番成長しているという実感があります」。

 奢らず、謙虚に、目の前のトレーニングと向き合うことで、一歩ずつ成長を続けてきた日々の集大成。インターハイに続く2つ目のタイトル獲得へ。青森山田はこの1週間も最高の準備を重ね、横浜FCユース(神奈川)と対峙する優勝の懸かったリーグ最終戦に、堂々と挑む。

(取材・文 土屋雅史)
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