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苦しんだ日々からの再浮上。横浜FCユースMF井上輝に育ち始めている向上心と飛躍の芽

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横浜FCユースの主役候補、MF井上輝

[2.5 LIGA KANTO U-18 帝京高 1-1 横浜FCユース 帝京北千住G]

 一度“どん底”を見た男は強い。破り切れなかった自分の殻に、亀裂が入り始めていることも、間違いなく実感している。あとは、もうそこから抜け出すのも、抜け出さないのも、すべては自分次第だ。

「チームとしては去年の結果をすべて上回れるような1年にしたくて、個人としては自分の目標であるトップチーム昇格もそうですし、代表に選ばれることも含めて、結果にこだわってやっていきたいかなと思っています」。

 横浜FCユース(神奈川)の主役候補。MF井上輝(2年=横浜FCジュニアユース)が振るう左足は、チームと自分自身をさらなる高みへと導いていく。

 新チーム始動後、初めての対外試合となった『LIGA KANTO U-18』。帝京高(東京)と激突した一戦は、前半から横浜FCユースが主導権を握る。「最初は間に立ったところから背後に抜けたり、背後に抜けるところから落ちて足元で受けたりとか、そういうポジショニングのところは結構気にしています」という井上とMF許田新太(2年)の2シャドーがうまくボールを引き出しつつ、右のMF清水悠斗(2年)、左のMF高塩隼生(2年)の両ウイングバックをうまく生かすアタックが機能する。

 逆に1点をリードした後半は、押し込まれる展開が続く中、井上に千載一遇の決定機が訪れる。15分。高い位置で相手のボールを強引にカットすると、そのまま独走。懸命に戻ってきたマーカーを鮮やかな切り返しで外すと、得意の左足でフィニッシュ。しかし、軌道はわずかに枠の左へ逸れていく。終盤に追い付かれたゲームは、1-1のドロー決着。試合終了直後に浮かべた、悔しそうな表情が印象的だった。

 2021年は苦しい時間を過ごすことが多かった。クラブ初挑戦となったプレミアリーグでも開幕スタメンに指名され、以降も試合出場を重ねていったものの、徐々にベンチスタートが増えると、夏の中断明けからは井上の名前がリーグ戦のメンバーリストから消えていく。

「最初は結構落ち込んで、人に矢印が向いたりしましたね」。実力は間違いないだけに、認めたくない現状を突き付けられ、メンタルが蝕まれていく。そんな時に寄り添ってくれたのは、自分を信じてくれるコーチだった。

「結構喝を入れられて、そこで自分に火が付いたかなという感じです。『このままBチームにいていいのか』とか、『プロを目指すならここにいちゃいけないだろ』と言われたので、それが自分の中で変われるきっかけになったかなと思います」。井上は自己改革に着手する。結果を求め、向上心を燃やし、腐ることなく自分と向き合う。

 12月。プレミアリーグ最終戦の青森山田高(青森)戦。10試合ぶりにメンバー入りを果たした井上は、最後となる5枚目の交代カードとして、後半39分からピッチに解き放たれる。「まず自分がこの舞台に戻ってこられたことが凄く嬉しくて、その中でもっと自分がボールを受けたりできれば良かったんですけど、それは時間的にも若干キツかったかなと。でも、良い経験にはなったかなと思います」。

 当時のチームを率いていた重田征紀・前監督は、井上への期待を隠さない。「彼は技術的には間違いないんですけど、『もっとできるんじゃないか』とこちらが思ってしまうというか、自分を解放し切れていない所があるんですよね。最後の最後でやっとメンバーに復帰したという形で、彼も試合が終わった後に『また自分もこういうところに立ちたい』と強く感じたはずですし、彼にとっては浮き沈みのあるシーズンだったんですけど、最後に自分で勝ち獲って試合に出られたという想いもあると思うので、今シーズンに期待したいですね」。理解ある指導者に囲まれ、井上は再びピッチに立つことの喜びを改めて実感している。

「自分はスルーパスだったり、人を生かすプレーの方を結構得意にしています。最近は3-4-3の右をやることが多いので、チェルシーのメイソン・マウントは意識していますね。ボールの受け方とか上手いので、そこは参考にしています」と口にする井上が、上手い選手だということは周囲も十分に認めている。そこからさらに一歩踏み出すため、2022年はサッカー選手としても勝負の年になる。

「やっぱりシャドーをやるなら、ゴール前のクオリティは求められてくると思いますし、自分が試合に出られなくなった理由は決定力の部分で、もっとアシストやゴールという結果をしっかり残さないといけないなとは感じているので、そういう部分を出すことと、もちろん守備の部分でもハードワークしながらやっていきたいと思います」。

 もうあんな想いはしたくない。悔しい時間を経て、向上心を自身に植え付けた井上が期す飛躍への芽は、ゆっくりと、だが確実に育ち始めている。

(取材・文 土屋雅史)

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