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[イギョラ杯]謙虚な自信家が目指す「恐怖のドリブラー」。武南MF山田藍大はスペースを飄々と切り裂き続ける

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スペースを切り裂くドリブラー、武南高MF山田藍大

[3.20 イギョラ杯 近畿朝高選抜 0-1 武南高 帝京北千住G]

 飄々とした雰囲気を纏いながら、獰猛な武器がひとたび発動されると、対峙するディフェンダーはある程度の破壊を覚悟しなくてはいけない。そのぐらいの威力が、この男のドリブルには秘められている。

「もちろん注目はされたいですし、『武南にはコイツがいるんだ』『武南の左サイドは危ないぞ』と思われるような、みんなから怖がられる選手になりたいです。自信はあります」。

 謙虚な自信家。ゆえにその恐怖は、より増大する。武南高(埼玉)の左サイドを任されているドリブラー。MF山田藍大(2年=A.C.アスミジュニアユース出身)の疾風感、一見の価値あり。

「自分の持ち味はドリブルで運んだり、スピードを上げて相手の間を割っていくというところなんですけど、そういう部分はこの試合では出せたかなと思います」。冷静な口調で自らのプレーを振り返る。イギョラ杯の予選リーグ最終戦で近畿朝高選抜と対戦した武南。この日の1試合目となった帝京高(東京)戦でも持ち味のドリブルを遺憾なく発揮し、相手を困惑させていた山田だが、2試合目でもその能力は眩い輝きを放つ。

 それは後半のあるシーンだった。自陣の深い位置でボールを持った瞬間、間違いなく「行くな」と誰もが思ったタイミングで山田のドリブルがスタートする。止まらない。止まらない。寄せてくる相手の間をすり抜け、グングンと50メートル以上を独走し、そのままフィニッシュ。軌道は枠を外れたが、わかっていても制止できない強烈な武器が、ピッチの上で炸裂した。

「ああいうところも決定力がまだまだだなって。決定力が上がらないと、その前のドリブルも意味がないので。スペースを見つけながら相手の前に入ったり、進行方向に入って、相手が自分を追い掛けられないようにドリブルして、最初にコースを取ってしまってから、シュートに繋げるイメージですね。スペースがあれば行く自信はあります」。淡々とパワーワードを口にするあたりに、アタッカーらしいメンタルが見え隠れする。

 中学時代を過ごしたA.C.アスミではボランチが本職。2年生だった昨シーズンも、夏前あたりからはボランチを務めていたが、本人は左サイドで勝負したい気持ちが強いという。「右利きということもあって、右足でボールを扱えますし、縦にも行けて、中にも行けて、シュートも打てるので、左サイドがやりやすいです」。ただ、結果的に選手権予選では“後輩”の壁を超えられなかった。

「やっぱり同じチームですけど、(松原)史季は凄いですし、選手権でも自分ではなくて史季が出ていて、悔しい思いをしたので、本当に上手くて尊敬していますけど、負けたくないなという想いはありますね。後輩にそういう選手がいることは刺激になります」。

 だからこそ、今シーズンの自分がこのチームで居場所を確立するためには、2人のアタッカーの“良いとこどり”を真剣に目論んでいる。「櫻井(敬太)は本当に縦にゴリゴリ行けるタイプで、決定力も高いですし、史季は本当にテクニックも高いので、自分は2人の役割を両方できるような、パスもシュートもゴールも決められるような役割を担いたいと思います」。ドリブルだけではなく、パスも、ゴールも、すべてで輝く。いわば代えの利かない存在になることが、チームの総和を大きくすることに繋がると信じている。

 明確にこの選手という目標は掲げていない。だが、もちろん周囲から学ぶ意識がないわけではない。むしろ、その逆だ。「自分はそんなに海外サッカーも見ないんですけど、自分で試合中に上手い人のプレーを見て、『ああ、ここだったら間を割っていけるな』とか『この状況だったらドリブルできるな』とか考えて、試合中もそのイメージでスペースを見つけたらドリブルしている感じですね。常に考えながらやっています」。すべての局面は、自分の新たな気付きになる。自身の成長にはどこまでも貪欲だと言っていい。

 タレントは揃っている。あとは、勝利。自分たちが有している可能性を、山田もチームメイトも確信している。「去年は惜しいところまでは行ったんですけど、1回もタイトルを獲れなかったので、惜しいではダメなんだなと。埼玉で優勝しないと全国には出られないので、優勝だけを目指して、練習から意識を高めて、試合で勝つことにこだわってやっていきたいです」。

 白いジャージに紫のパンツは、高校サッカー界にその名を轟かせてきた伝統のユニフォーム。復権を期す埼玉の実力者、武南の躍進には“恐怖のドリブラー”へと進化を遂げる山田の成長が、必要不可欠だ。

(取材・文 土屋雅史)

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