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[イギョラ杯]生粋の「闘将」は学校生活も100パーセント。近畿朝高選抜DFキム・ユウの類稀なリーダーシップ

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近畿朝高選抜のキャプテンを務めたDFキム・ユウ(神戸朝鮮高)

[3.20 イギョラ杯 近畿朝高選抜 0-1 武南高 帝京北千住G]

 選抜チームのキャプテンを任される男だけあって、リーダーシップはもとより持ち合わせている。この大会に参加する意味を、このチームで戦う価値を、十分に感じながらピッチに立ち続けることのできる、文字通りの『闘将』と言っていいだろう。

「自分たちは神戸と京都と大阪の朝高から選ばれた選抜チームで来たんですけど、イギョラ杯という大会は東京朝鮮高OB会の主催ですし、自分たちも同じ在日として臨むという中で、みんなも気持ち的に他のチームより懸けていた部分もありますし、対戦相手も強いチームがたくさんいる中で、自分たちも相手が強いからと言って恐れずに、相手が強いからこそ自分たちの気持ちのこもったプレーで、OB会の方々への感謝の気持ちも忘れずに、謙虚に取り組もうという想いがありました」。

 近畿朝高選抜を束ねるディフェンスリーダー。DFキム・ユウ(2年=神戸朝鮮高)が醸し出すオーラで放つ存在感は、ピッチの中でもとにかく際立っていた。

 今回のイギョラ杯に出場する20チームの中で、唯一の選抜チームが近畿朝高選抜。「セレクションは何回かあったんですけど、選抜が決まってからは練習試合を1試合やっただけですね」とキム・ユウも明かしたように、大半が以前から顔見知りの選手同士とはいえ、実際に肌を合わせてみて気付くことが少なくないのは、あえて言うまでもないだろう。

 ただ、キム・ユウは冷静にこのチームを分析していた。「難しさで言えば、それぞれの学校ごとに戦術が違うので、初めて一緒にやるチームメイトも多い中で、攻撃にしても守備にしても噛み合わない部分はありました。ただ、逆に良さもあって、普段のチームメイトとは違う特性を持った人たちとサッカーをすることで、お互いに刺激を与え合えますし、それを見てお互いが成長し合えるというか、もっと自分たちが魂のこもったプレーをしていこうという刺激はありましたね」。

 3連敗で迎えた予選リーグ最終戦の武南高(埼玉)戦。序盤からチャンスは作りながら、なかなかゴールが遠い中で先制点を献上。以降はキャプテンを中心に粘り強く守りながら、逆襲のタイミングを狙い続ける。後半はきっちり相手のアタックを無失点に抑えるも、最後まで得点は奪えず。スコアは0-1。2日間で最も僅差ではあったが、結果的に4試合でゴールを手にすることはできなかった。

 悔しい形になったものの、チームとして活動していく中での収穫を、キム・ユウはこう口にする。「日常生活を見ても意識の高い選手がたくさんいて、そういう部分を見て学べるというか、自分たちのものにできる部分もありますし、各選手たちが自分の持っている目標を話し合って、そこでもお互いに刺激を与え合えるというのは凄く良い経験で、感謝しています」

 普段は神戸朝鮮高でプレーしているキム・ユウだが、実は高校でも教職員からの指名で、大役を任されているという。「自分は学校でも、今年は神戸朝高の『常任委員長』(生徒会長)になっているので、サッカー以外でもリーダーシップが養われた部分もありますね」。まさに文武両道。日常から周囲を引っ張っていく役割は、既に経験済みというわけだ。

 とはいえ、もちろん一番力を入れて取り組んでいることがサッカーであることは間違いない。「神戸朝高は県2部リーグに所属していて、去年は残留という結果に終わったので、今年は去年からの目標である1部昇格と、選手権での全国出場ということを目標にしています。自分たちはサッカー以外の部分で、私生活の面でもしっかりとやるべきことをできているチームが強いチームだと思っているので、そこにこだわろうという話はしていますね」。

 目標としているのは、同じポジションの“大先輩”だ。「ハン・ホガン選手(全南ドラゴンズ/韓国)を参考にしていて、自分が中学3年生の頃に朝鮮学校に通っている人たちの全国選抜に選んでいただいて、そこでハン・ホガン選手と一緒にセンターバックを組む機会があって、いろいろな刺激を受けましたし、実際にJリーグでも活躍されている姿を見て、魂のこもったプレーや誰にも負けない気持ちに自分も凄く刺激をもらっていますし、憧れています」。だが、憧れているだけではない。あの人と同じステージへ上がっていくため、さらにやるべきことを真摯に究めていく。

「やはり自分は目の前の相手に絶対に負けないということと、勝ちにこだわりたいという想いはありますね。今日の試合もそうなんですけど、惜しいとか良い試合をしたで終わるのではなくて、最終的に勝ち切って、そこで成長したいという想いはあります。将来的な目標はプロサッカー選手になって、在日同胞に夢と希望を与えることなので、まずは神戸朝高の中でも自分がいなければ試合が成り立たないというか、絶対に必要とされるような、ビッグな選手になりたいです」。

 クールな思考と、ホットな情熱を溶け合わせた、まさに『闘将』。キム・ユウの類稀なリーダーシップは、どんな場所でも、どんな人にも、常に必要とされるだけの大きな武器になることに、疑いを挟み込む余地はなさそうだ。

(取材・文 土屋雅史)

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