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[プレミアリーグWEST]突き付けられた「ボールの価値」。世界への道に足を踏み入れたC大阪U-18が首位の鳥栖U-18を撃破!

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セレッソ大阪U-18は首位のサガン鳥栖U-18から3ゴールを奪って勝利を引き寄せる

[5.28 高円宮杯プレミアリーグWEST第9節 C大阪U-18 3-1 鳥栖U-18 C大阪舞洲G]

 キーワードは『ボールの価値』だ。そのボールにどれだけの価値があるか。そのパスにどれだけの価値を持たせられるか。そして、そのゴールにどれだけの価値を乗せられるか。もちろんすべては自分次第。若き桜の勇者たちは、その道に足を踏み入れたのだ。

「僕らの言い方でいくと、今日も『ボールの価値』が低いなと。『安っぽいボールや』という話になりますね。『だって、10円とか100円の価値のボールを持っているから、別に取られてもいいって話になるんやろ』と。『2億、3億のボールを持っていたら、オマエらどうする?』と。その2億、3億のボールを僕らは家の金庫にしまうのでもないし、目の前にさらけ出して、『取りに来い』ということができるか、できないかであって、そこを楽しめるヤツじゃないとその先に行けないよと。これは風間さんの名言ですけど、丸々パクらせてもらっているので、僕が言うたことにしておいて下さい(笑)」(C大阪U-18・島岡健太監督)。

『ボールの価値』に重きを置いたホームチームが、堂々の首位撃破。28日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第9節、セレッソ大阪U-18(大阪)とサガン鳥栖U-18(佐賀)が激突した好カードは、DF白濱聡二郎(2年)とFW皿良立輝(2年)の2ゴールで3点を先行したC大阪U-18が、鳥栖U-18の反撃を注目FW鈴木大馳(1年)の1点に抑え、3試合ぶりの白星を手にしている。

 最初のチャンスはアウェイチーム。前半3分。この日はセンターバックに入ったMF林奏太朗(2年)がピッチ中央、ゴールまで20メートル強の位置から得意の左足で直接狙ったFKは、左ポストをかすめて枠外へ。まずは惜しいシーンを作り出す。

 だが、ホームチームは同様にセットプレーから試合を動かす。7分。左サイドで獲得したCK。高精度の右足を持つMF清水大翔(2年)がファーに蹴り込むと、192センチの長身が宙を舞う。「昨日も練習後にセットプレーの確認をして、そこで自分がファーに逃げてみようという話はしていたので、その通りにできました」と振り返る白濱の完璧なヘディングが揺らしたゴールネット。C大阪U-18が先制に成功した。

 畳み掛ける桜色。12分。「監督から『前は狙っておけ』と言われていて、相手が後ろ向きの状況やったから、これは狙えると思って行きました」という皿良が高い位置で相手ボールをかっさらうと、そのまま独走。飛び出したGKも冷静にいなして、ゴールへとボールを流し込む。抜け目ない狙いから、きっちり成果まで。点差は2点に開く。

 あっという間に小さくないビハインドを負った鳥栖U-18だが、これでようやくスイッチが入る。「2点目を決められた時に、自分も『負けてないから。まだリードされてるだけだから』ということは言って、そこから少しリズムが戻りましたね」とDF大里皇馬(3年)が話したように、2失点目以降はボールも回り出し、強めた攻勢。22分に高い位置でボールを奪ったFW楢原慶輝(3年)がシュートを放てば、29分にはFW増崎康清(2年)が打ち切ったシュートはクロスバーに跳ね返り、MF坂井駿也(3年)が続けたミドルは、C大阪U-18のGK春名竜聖(3年)のファインセーブに阻まれたものの、反攻の姿勢を打ち出して、最初の45分間は終了した。

 後半もやや鳥栖U-18の押し込む時間が長い中で、「技術で繋がったかなと。もっともっとああいうシーンが出てほしいですよね」と辛口の指揮官も称賛する一撃が。26分。MF伊藤翼(3年)からパスを受けた清水は、「身体の向きを作って待っているリツがいたので」ターンのアイデアをキャンセルし、「あとはリツの足元に届けるというところだけを考えて」丁寧なラストパス。抜け出した皿良のシュートが左スミのゴールネットを打ち抜く。

「大翔から良いボールが入ってきた時に、『ここで止めるとディフェンスが来るかな』と思って、少し流しながら運ぶ感じで良いトラップができたので、右足で流し込むだけでした」という12番のドッピエッタは、自身にとってもリーグ戦5ゴール目。3-0。ゲームを左右する次の大きな得点は、C大阪U-18に記録された。

「正直メンバーも入れ替わる中で、恐らく今日は難しいゲームになるなということはわかっていました」と田中智宗監督の言葉通り、キャプテンのMF福井太智(3年)がU-19日本代表の活動で欠場し、最終ラインのDF竹内諒太郎(3年)とDF北島郁哉(2年)がメンバー外だった鳥栖U-18も、29分に意地を見せる。それまでも良いキックを蹴っていたDF今村元紀(3年)の右CKから、最後は途中出場の鈴木がプッシュ。1年生ストライカーのゴールで、2点差へ追い上げる。

 35分には鳥栖U-18に再びCKから得点機。ここも今村の正確なキックに、「『アイツ、どこのポジション?』と言われるくらい、動いて、点数も獲って、守れて、というのが自分の理想です」と言い切る大里がヘディングを枠内へ収めるも、春名がビッグセーブで回避。45分にはC大阪U-18も、途中出場のWEST得点ランクトップのFW木下慎之輔(3年)が決定的なシュートシーンを迎えたが、鳥栖U-18のGK栗林颯(3年)がファインセーブで応酬する。ファイナルスコアは3-1。2得点以降はやや相手にペースを握られながらも、粘り強く勝ち切ったC大阪U-18が勝ち点3を積み上げた。

 試合後。キャプテンのDF川合陽(3年)は少し浮かない顔で、90分間をこう振り返る。「試合内容自体も相手にボールを握られる時間が長くて、あんなに相手にボールを渡すことがなければもっと楽な試合になりましたし、良い部分はあったと思いますけど、課題の方が多かったです」。

 そのことを伝え聞いた島岡監督は「ゲーム後に彼らと話したのは、『ミスの回数の多かった鳥栖が結果的に負けたかもしれんけど、オレらもそれ以上にミスをしている。でも、勝ったというのはちょっと違うよな』と。相手がどうこうではなく自分たちの話で、これからどこでやりたいのという話なので、それはやっぱり『ボールの価値』が2億になってないなと思いますね」と話しながら、こう言葉を続ける。

「結局彼らにも言うことは自分自身にも言うべきことで、『人のせい、物のせいにしない』ということに尽きると思います。技術というのは逃げ場のない、それこそ議論の余地のないもので、『いや、ボール止まってないよ』と言うだけですし、そこから目を背けるのは違うよねと。立ち位置や戦術は悪いことではないけど、もっともっと個人に目を向けた時に、監督が代わろうが、コーチが代わろうが、グラウンドが変わろうが、自分さえちゃんとできていれば、やっぱり『オマエじゃなくても』じゃなくて、『オマエしかいない』になるじゃないですか。そういうプレーヤーにならなあかんし、これはサッカーに限った話ではないかもしれないですけどね」。

『オマエしかいない』11人がピッチに出て、それが有機的に関われば、無限の可能性が広がることは間違いない。そして、セレッソはそれを真剣に目指している。南野拓実がヨーロッパの舞台で証明している『ボールの価値』を、北野颯太がトップチームで証明しつつある『ボールの価値』を、同じ色のユニフォームを纏ってきた彼らが、証明できない理由はない。

 清水の言葉が印象深い。「島岡さんが言ってくれているんですけど、練習から世界を基準に考えていて、トップももちろん大事ですけど、トップで通用するプレーを考えるのではなくて、世界でやりたいなら、世界の基準でやっていかなきゃ、ということを考えながらプレーしています」。

 舞洲から伸びる遥かな道は、世界へ通ず。もちろんすべては自分次第。若き桜の勇者たちは、その道に足を踏み入れたのだ。

(取材・文 土屋雅史)

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