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[プレミアリーグWEST]「奪う」という絶対的な評価基準を掲げた履正社が大津に競り勝ち、6戦ぶりのリーグ戦白星を奪取!

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「奪う」履正社高がリーグ戦6試合ぶりの白星を奪取!

[7.2 高円宮杯プレミアリーグWEST第11節 履正社高 3-1 大津高 J-GREEN堺 天然芝フィールド(S5)]

 7年ぶりとなるプレミアの舞台で、学びの時間を過ごしているチームは、あるスローガンを掲げている。部室にも書道の先生に書いていただいた文字が貼ってあるという、シンプルかつ力強いメッセージ。それは『奪』=『奪う』だ。

「オレたちが掲げるこの『奪う』ということはネガティブなことではなくて、『勝利を奪いに行くぞ』『ゴールを奪いに行くぞ』『ボールを奪いに行くぞ』と。『そのために相手の自由を奪いに行くぞ』『スペースを奪いに行くぞ』『時間を奪いに行くぞ』と。『それってオレたちからアクションを起こさないといけないことだよな。だから、「奪う」ということをやっていこうぜ』ということを常々言いつつ、明確にしていますね」(履正社・平野直樹監督)。

 3つのゴールを奪って、勝ち点3を奪取。2日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第11節、履正社高(大阪)と大津高(熊本)が激突した高体連対決は、大津がキャプテンのFW小林俊瑛(3年)のゴールで先制したものの、履正社も同じくキャプテンマークを巻くFW古田和之介(3年)の同点弾で追い付くと、後半にMF川端元(3年)とMF名願斗哉(3年)のゴールで3-1と逆転勝利。リーグ戦6試合ぶりの白星を引き寄せた。

 ゲームはわずか3分で動く。大津は左サイドを駆け上がったMF古川大地(2年)が正確なクロスを送ると、飛び込んできた小林は左足で巧みなボレー。ボールは左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「最近はクロスの入り方をもう一度見直してやっているので、少し練習の成果は出たかなと感じています」という世代屈指のストライカーが一仕事。まずはアウェイチームが1点をリードする。

 だが、この先制点が試合の構図を逆にハッキリさせていく。「せっかくリードしているのに重心が後ろに掛かって、相手もどんどんエンジンが入ってきましたよね」と大津の山城朋大監督が話せば、「ちょっと入りが悪くて先に失点したんですけど、焦ることなく徐々に自分たちのやりたいことを出せるようになっていったと思います」とは履正社のCB平井佑亮(3年)。5バック気味で構える大津を、徐々に履正社がポゼッションと果敢なセカンドボール奪取で押し込み始める。

 すると、29分の一撃は頼れるナンバー9。ボランチを務めるMF徳山亮伍(3年)から左サイドでパスを受けた古田は、カットインしながらマーカーを外して素早くフィニッシュ。ボールはゴールネットを鮮やかに貫く。「いつもだったら最後に力んでしまうんですけど、今日は練習通りにリラックスして、落ち着いてコースに蹴れました」と笑ったストライカーの同点弾。履正社がスコアを振り出しに引き戻す形で、最初の45分間は推移した。

 一転して、後半は大津が勝利への執念を前面に打ち出す。4分に右サイドでMF井伊虎太郎(3年)が粘り、上がってきたDF田辺幸久(2年)のシュートは履正社GKジョンカミィ信バー(3年)にキャッチされたものの、ダイナミックなアタックを繰り出すと、18分には決定機。小林が前線で時間を作り、途中出場のジョーカー・MF中馬颯太(3年)が右サイドから絶妙のコースに折り返すも、飛び込んだFW山川柊(3年)のシュートは枠の左へ。さらに24分には右から中央へ潜ったMF田原瑠衣(3年)がフィニッシュまで持ち込むも、DFをかすめた軌道はわずかにゴール右へ。「良い距離感での崩しは意図的に作り出せるようになってきているんです」という指揮官の言葉を証明するようなラッシュを続ける。

 耐えたホームチームの一刺しは26分。古田が右サイドへ丁寧に流し、FW梶並笑顔(3年)はピンポイントクロスを中央へ。ファーサイドへ走り込んだ川端のヘディングはゴールネットへ到達する。後半に入って、お互いのポジションを入れ替えていた2人のアタッカーで強奪した逆転弾。履正社が一歩前に出る。



 この日は守備陣も“いつもの展開”を回避すべく、高い集中力を保ち続ける。「2-1になった時に攻め込まれて危ないシーンもあって、今までだったらああいうところでポロッとやられて勝ちが逃げていっていたんですけど、あそこは何とかチーム全員で守れました」と平井。右からDF東尾大空(3年)、平井、DF加藤日向(3年)、DF西坂斗和(3年)と3年生で組んだ4バックにボランチのMF小田村優希(3年)を軸に、ボールとスペースの奪還を徹底。相手のチャンスの芽を1つずつ、確実に摘んでいく。

 41分に試合を決めたのはプロ注目のナンバー10。左サイドを西坂と加藤で崩した流れから、中央でボールをもらった古田は右へと完璧なラストパス。「古田がホンマに蹴るだけというボールをくれて、キーパーと相手がスライディングしてきたら、浮かせば入ると思ったので、イメージ通りでした」という名願のループシュートが、鮮やかにゴールへ吸い込まれていく。

「なかなかギリギリで勝てないという、“ちょっと”のところの差が自分たちにはあるということで、練習からその“ちょっと”を変えるために覚悟を持ってやろうということは自分を中心に発信していて、その“ちょっと”の部分の変化で、押し込まれていても今日はやられなかったのかなと思います。そう信じたいです(笑)」と古田も笑顔を見せた履正社が、2か月半ぶりとなるリーグ戦の白星を力強く奪い取る結果となった。

 履正社を強豪へと育て上げた平野監督が選手たちに求め続けていることは、いつだって明確だ。「ウチは常に勝利を目指します、ゴールを目指します、と。いかに効果的に、効率的にそれを目指すかで、それは牛丼屋と一緒で『早い、安い、美味い』じゃないとダメなのよ(笑)。『安いけど遅い』とか『美味いけど高い』じゃなくて、ちゃんと丁寧に『早い、安い、美味い』を提供すると。子供たちにはそういう言い方をするんだけれどね。ちょっと『安い』はサッカーっぽくないけど、わかりやすいでしょ」。

「ベースは前へ、ゴールへ、勝利へ、というのがあって、ウチはどんなゲームをやりたいかというと、躍動感に満ちあふれ、スピーディーでテクニカル、見ている人を魅了する、そんな痛快なサッカーをやりたいなと言っているんです。それは変わらない。でも、今年は守備のメンタリティを持っているヤツが少ないから、テーマは『奪う』だからねということにしたんです」。

「彼らの積極性をより引き出すためには、多くの言葉でああだこうだ言うのではなくて、評価として『今日のゲームはこれができていたかな?』という1つのテーマがあって、それさえうまくやっていればいろいろなものが繋がってくる、フットボールの勝利を奪うことに繋がってくるということで、そのテーマが『奪う』になってくるわけです」。つまりあらゆる『奪う』ができていたか否かが、“今日のゲーム”の評価基準になる。これは選手たちにとっても間違いなく自身の出来をイメージしやすいはずだ。

 キャプテンの古田も、チームの成長に手応えを感じている。「今年のテーマである『奪う』というところで、『ゴールを奪うこと』『ボールを奪うこと』をアグレッシブにやるということが少しずつ具現化できてきているのかなと思います」。それを伝え聞いた指揮官は、「古田がそういう話をしたのも浸透しているからですよね。そこに乗っかっていけない子、トライできない子は良いものを持っていても、なかなか試合には出ていけないかな」ときっぱり。ポジションを『奪う』競争も、このチームの中ではよりシビアなものになりつつあるようだ。

「プレミアは楽しいねえ。勝った負けたはあるんだけれども、ワンプレーのミスを逃してくれなかったりして、そのクオリティだから嬉しいんですよ。それで失敗するんだけれど、その失敗は子供たちの中に必ず財産として残っているんです。だから、凄く伸びていると思う。みんなサッカーが好きだから工夫する、上手くなりたいから工夫する、という構図だけは絶対に壊しちゃいけないことですよね。だから、勝っても負けても、良いものは良い、ダメなものはダメ、というそこのジャッジだけはしてあげて、できなかったことに対して叱るのではなくて、トライしなかったことに対して指導はする。その中でもっともっとアグレッシブに、サッカーを楽しみながらできればいいかなと思っています」(平野監督)。

 ベースは整い始めている。果たして彼らは何を、どこまで『奪う』のか。2022年の履正社が、いよいよ面白くなってきた。



(取材・文 土屋雅史)
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