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[プレミアリーグEAST]勝ち点1にどういう意味を持たせるか。連勝を止めた大宮U18が、止められた川崎F U-18が見据える「この次」の重要性

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川崎フロンターレU-18大宮アルディージャU18の一戦はドロー決着

[7.9 高円宮杯プレミアリーグEAST第12節 川崎F U-18 1-1 大宮U18 富士通スタジアム川崎]

“先輩”にも意地がある。開幕戦でも敗れた相手だ。そう簡単に何度も勝利の歓喜を味わわせるわけにはいかない。“後輩”にも意地がある。重ねた連勝は実に8つ。多くの観客が詰めかけたホームゲームで、自分たちの実力を証明したい。そうやって、お互いが意地と意地をぶつけ合い、さらなる成長の萌芽が生まれてくるのが、このプレミアリーグの何よりも大きな意義だ。

「この引き分けは私の中では凄く大きなプラスだと思っています。トップと一緒で、前半から圧倒する、チャンスを決められないのであれば、倍のチャンスを作る、と」(川崎F U-18・長橋康弘監督)「引っ繰り返せるところまで行けたら良かったんですけど、選手たちは最後まで本当によく頑張ってくれたなと思います」(大宮U18・森田浩史監督)

 プレミアの“先輩”が、“後輩”の連勝を執念でストップ。9日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第12節、川崎フロンターレU-18(神奈川)と大宮アルディージャU18(埼玉)が激突した一戦は、前半12分にFW岡崎寅太郎(2年)の先制ゴールで川崎F U-18が先制。以降も攻勢を続けたが、大宮U18は後半28分にFW高橋輝(3年)がワンチャンスを決め切って同点に。以降は双方に勝機があったものの、結果は1-1のドロー。勝ち点1ずつを分け合っている。

 スコアは早々に動く。12分。左サイドの高い位置で、好調をキープしているMF志村海里(2年)がボールを奪うと、すぐさまFW五木田季晋(3年)は中央へ。受けた岡崎は冷静に、GKの届かないゴール左スミへ丁寧にシュートを流し込む。チームの大きな特徴であるハイプレスでの即時奪回から、きっちり得点まで。川崎F U-18が1点をリードする。

 いきなりビハインドを負った大宮U18も、18分に決定機。この日は2トップの一角に入ったFW石川颯(2年)のパスから、高橋が右サイドを抜け出すも、放ったシュートは川崎F U-18の絶対的守護神・GK濱崎知康(2年)がビッグセーブで仁王立ち。すると、決定機を逃したこのシーンが、大宮U18にとっては前半のラストチャンス。以降はホームチームがじわじわと相手ゴールに迫り続ける。

 25分にはMF尾川丈(2年)が左へ振り分け、運んだ志村のシュートは大宮U18GK海本慶太朗(3年)がファインセーブ。29分にも志村のクロスから小川のヘディングは枠の左へ外れたが、「前半の攻撃は、ライン間で受けて、運んで、空いている選手に出してという、ある程度全員が共通した意識を持てていたので良かったと思います」とMF由井航太(2年)が話したように、スムーズなビルドアップから、ライン間に差し込む縦パスと、サイドアタックを高次元でミックス。

 38分にもMF大瀧螢(3年)、由井と繋ぎ、岡崎の反転シュートは海本がキャッチ。39分には右サイドで鋭い出足のインターセプトを敢行したDF江原叡志(2年)のクロスから、志村のシュートは枠の上へ。40分にも岡崎がGKと1対1を迎え、ここも海本にキャッチされたものの、「前半から凄くフロンターレが上手くて、難しかったですね」とは高橋。1-0で最初の45分間は終了した。

 ハーフタイム。森田監督は、選手たちに語り掛ける。「守備はちょっと中途半端に行っていて、ボール保持者にもプレッシャーが届いていないし、ディフェンスラインと中盤のライン間のところで上手く選手に受けられてというところが難しい状況を作っていたので、だったらもう行かないで、3ラインをコンパクトにして、そこから入ってきたボールに行ったり、相手がボールを下げた時にプレッシャーに出ていくという形で、後半は行こうかという話をしました」。

 行っても外され、奪っても奪われ、とにかく自分たちの時間が作れなかったチームに、“割り切り”という薬が処方されると、少しずつ全体のバランスが整っていく。「大宮さんも前半より後半の方が組織的な守備に私には見えて、結構コンパクトにしてきて、間延びしている部分があまりなくて、ウチの選手たちがそれに気付けずに、どうするかと見ていたら、全部後ろに下げて、後ろ回しで長いボールみたいなところを狙い始めたと」(長橋監督)。川崎F U-18は“ライン間”での起点が作れなくなり、フィニッシュは大半がミドルレンジから。前半に披露していたスムーズな連携が影を潜めてしまう。

 乾坤一擲の絶好機は後半28分。後半から登場したFW前澤拓城(3年)が相手のミスを突き、丁寧なパスを送ると、オレンジの11番は一瞬でトップスピードに到達する。「スピードに自分は自信があるので、『これは絶対行けるな』と思って、身体を少し当てられたんですけど、そこは踏ん張って」マーカーをぶっちぎった高橋は、そのまま右足一閃。軌道はゴール左スミへ鮮やかに突き刺さる。「あそこまで行き切れるというのは凄いなと思います」と指揮官も絶賛の強烈なゴラッソ。まさにワンチャンスを生かし切った大宮U18が、力強く追い付いた。

「しっかり4-4-2のブロックを作って、誘い込んで、奪ってカウンターというところは前半から見て取れたんですけど、まんまとそこに自分たちが焦れてしまいましたね」と長橋監督も口にした川崎F U-18も、懸かっている9連勝を諦めない。36分。江原のパスから、途中出場のMF川口達也(3年)が鋭い枠内シュートを打ちこむも、海本が横っ飛びでファインセーブ。45+2分。江原の右クロスに、ファーへ飛び込んだ尾川のヘディングはわずかにゴール左へ。45+3分。こちらも途中出場のDF柴田翔太郎(1年)の左クロスから、川口が合わせたシュートは海本が丁寧にキャッチ。勝ち越しゴールには届かない。

 程なくして聞こえたタイムアップのホイッスル。「一巡した中でウチがどんなサッカーをやってくるかということをちゃんと考えた時に、しっかりと大宮さんは準備して、90分をデザインしてきたのかなと。妥当な結果だと思います」(長橋監督)「1点を返したことがチームの雰囲気を作ったし、もう1点獲りに行くというパワーを出せたと思うし、追加点に届かなかったけれども、負けなかったことを次に繋げられればいいかなと思います」(森田監督)。1-1。どちらも、それぞれに、意味のある勝ち点1を積み上げた。

 大宮U18は、この試合に懸けていた。「開幕するに当たって優勝という目標を立てて、今日試合の前に選手にも聞いたんですけど、『本当に優勝したいの?』って。『もし本当にしたいんだったら、今日がラストチャンスだよ』って」(森田監督)。相手は8連勝中で首位を快走するチーム。いろいろな意味で、このゲームの勝敗はここからのシーズンの方向性を左右する一戦だったことは間違いない。

 不甲斐ない45分を経て、オレンジの若武者たちはようやく目を覚ましたが、結果はドロー決着。「みんなとも『絶対に勝つぞ』とは試合前から言っていました」という高橋は、試合後も開口一番に「勝ちたかったですね……」とポツリ。中には泣いている選手の姿もあった。そのことを問われた指揮官は「そういう気持ちで彼らが臨んでくれたから、それが涙やそういう感想に繋がったのかなと思います」と話している。

 この勝ち点1がどういう影響をもたらすかは、もちろん自分たち次第。「次の試合で勝てれば、この勝ち点1は大きかったと思いますし、次の試合に負けてしまえば、ただの勝ち点1に終わってしまうと思います」とは高橋。これから始まるクラブユース選手権、そしてリーグ後半戦に、この日に手にしたモノの真価が問われていく。

 川崎F U-18は、とにかく悔しがっていた。リーグ中断前のラストゲーム。9連勝で締め括り、夏の全国大会へ最高のムードで挑もうという目論見は、大宮U18の意地の前に崩される。だが、試合後の選手たちが良い意味ですぐに前を向いていたことも、非常に印象深い。

 この日の試合は欠場していたMF大関友翔(3年)は「試合に出た選手たちは落ち込んでいましたけど、それはずっと勝ってきたのでしょうがないことだと思います。でも、負けていない引き分けの試合で、負け以上の悔しい想いができたのは、そこまで来ることのできた前半戦の自分たちの努力だと思うので、ここで引き分けてどんどん落ちていくのではなくて、クラブユースを挟みますけど、ここからどんどん後半戦も圧倒できるように、この引き分けで何か変われればなとは思っています」と語っている。

「チームとして、連勝中はいつも勝って嬉しい気持ちばかりを持ってずっと過ごしていたので、ここで1回悔しい気持ちを思い出せたのはクラブユースに向かうに当たって本当にプラスだと思いますし、しかもそれを負けずに味わえたのは大きいのかなと思っています」とは五木田。副キャプテンの2人がほとんど同じ感想を抱いているのも面白い。

 そこにブレない指揮官の言葉が、しっかりと響く。「選手たちは本当に勝ち点を積みながら成長してくれているなということを凄く感じます。相手チームの良さを学びながら、吸収しながら成長できている部分を凄く感じるので、そのあたりが非常に一巡目は良かったのかなと思います。ただ、相手も我々がどういうサッカーをしてくるかはもちろんわかってくるでしょうし、そこに対してどうやってそこを掻い潜ってやっていくかは、そもそも相手を見てサッカーをやろうということなので、相手が改善して来ようが何をしようが、『相手を見れば答えがわかるよ』というところまで持っていけたら、トップチームに近付くのかなと思います」(長橋監督)。

 大宮U18が、川崎F U-18が、この勝ち点1にどう意味を持たせ、どう『この次』へと繋げていくか。それこそが、プレミアリーグという世代最高峰のリーグで戦う意味ではないだろうか。



(取材・文 土屋雅史)
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