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6年分の感謝を込めた「有言実行」。静岡ユースMF齋藤晴が実現させたゴールとヒーローインタビュー

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貴重なチーム3点目を決めて「有言実行」を果たした静岡ユースMF齋藤晴

[8.28 SBS杯第3節 静岡ユース 3-0 U-18ウルグアイ代表 エコパ]

 『有言実行』のゴールを決めると、一度はバックスタンド側で喜んだものの、思い出したかのように踵を返し、チームメイトたちが待つベンチの前へと走っていく。静岡ユースの大会ラストゴールをさらったのは、中学生になって初めて足を踏み入れた静岡生活も6年目を迎える、この男だった。

「途中からの出場だったとしても、スタメンの時と変わらずにやってやろうという気持ちで、同じメンタリティを持って、何か結果を残してやろうと思ってやってきましたし、自分の特徴を見てもらって選んでもらえたことはありがたいと思っているので、その期待に応えたい想いは強かったです」。

 U-18ウルグアイ代表に3-0と快勝を収め、2位という好成績で「2022 SBSカップ国際ユースサッカー」を終えた静岡ユース。3試合続けての途中出場にも自身の役割と向き合い続けた“スーパーサブ”、MF齋藤晴(3年=JFAアカデミー福島U-18)のゴールがチームの“大トリ”を飾ったのは、きっと偶然ではない。

 SBSカップ自体は2度目の出場だった。まだ高校1年生だった2年前。「2020SBSカップ ドリームユースサッカー」と銘打たれた大会に出場するU-16日本代表のメンバーに、齋藤は招集を受ける。北野颯太(セレッソ大阪)や福井太智(サガン鳥栖)、南野遥海(ガンバ大阪)などのタレントとともに2試合に出場したものの、「あの時は本当に何もできなくて、本当に悔しい想いをしたんです」とは本人。自分の中での手応えはほとんど掴めなかったという。

 今回のSBSカップに臨む静岡ユースに、所属しているJFAアカデミー福島U-18からただ1人選出された齋藤は、強い決意を携えてこの大会に意識を向けていた。「あれから2年後に、今度は静岡県選抜で出られたんですけど、代表の選手には同じ年代なので絶対に負けたくないですし、自分も食い込んでいきたいところだったので、何か少しでもアピールできたらいいかなと思って、気持ちが入っていました」。

 初戦のU-18ウズベキスタン代表戦はベンチスタート。後半26分から登場し、PK戦では4人目のキッカーとしてしっかり成功したものの、チームは無念の敗戦。2試合目のU-18日本代表戦は、より勝利のみが求められるシチュエーションとなったが、齋藤にとっては対戦相手に誰よりも意識せざるを得ない人がいた。

「相手のベンチにはコーチで“船越監督”がいたんですけど、やりづらいというよりは、『ここで良いプレーを見せたいな』という想いがありましたし、『ここでアピールしたらまたチームでも良い方向に行くんじゃないかな』って。なので、頑張ろうと思っていました」。

 U-18日本代表の船越優蔵コーチが普段指揮を執っているのはJFAアカデミー福島U-18。いつも指導を仰いでいる指揮官と敵味方に分かれて戦う上に、ここ2試合はプレミアリーグの試合でもスタメンを外れていた齋藤にとって、大いにアピールしたい一戦であったことは容易に想像できる。

 だが、この試合でもスタメンを外れると、後半19分から交代でピッチへ。終盤に先制を許した静岡ユースは、アディショナルタイムにPKで劇的に追い付き、2試合続けてもつれ込んだPK戦を制して、U-18日本代表を撃破したものの、個人として大きなインパクトを残すまでには至らなかった。

 2試合目と3試合目の間に設けられた休養日。チーム練習取材の前に偶然会った齋藤と話していた際、メディア対応に話題が及ぶと「僕もインタビューされたいんですよ」と笑顔で口にする。「ゴールを決めないとなかなかインタビュー対象には選ばれないかな」というこちらの言葉を受け、「じゃあゴール、決めたいですね」と再び笑顔。ポジティブなキャラクターが、短い時間でも顔を覗かせたことが印象深い。

 静岡ユースとしての最終戦。U-18ウズベキスタン代表戦も、スタメンリストの中に齋藤の名前はなかった。それでも腐るような様子は微塵も見せず、アップエリアで準備し続けると、終盤になってようやく声が掛かる。残された時間は10分程度。もちろん狙うのは自身のゴール。13番が気合を滲ませながら、ピッチへと走り出していく。

 後半36分。今大会の3試合の中でも、最大の決定機が齋藤に訪れる。同じタイミングで投入されたFW山藤大夢(3年=富士市立高)のスルーパスを受け、完全にGKと1対1の場面を作り出すと、冷静にボールをゴールネットへ流し込む。

「本当に良い形でボールを持てたので、意外と落ち着いていて、あとは決めるだけでした。本当に嬉しかったですね。ゴールを決めたかったので」。交代出場コンビで挙げた勝利を決定付けるゴールに、チームメイトも大喜び。殊勲の13番は歓喜の輪の中で、手荒い祝福を浴び続ける。



 試合後。テレビのインタビューがセッティングされると、静岡ユースの3人の選手が次々にカメラの前に現れる。その3人目として登場したのが齋藤。ゴールも決めて、インタビューも受ける。まさに有言実行。静岡への恩返しを見事な結果で果たし、誇らしげに受け答えする姿が、何だか微笑ましかった。

 もともとは福島県の出身。中学生になって、JFAアカデミー福島に入校したことで静岡で暮らし始めたが、もうすっかりこの土地にも愛着が湧いているという。「静岡での試合はやっぱりやりやすいというか、ホーム感は凄くありましたね。結構静岡に馴染んできました(笑)」。また、普段はライバルでもある他チームの選手たちと同じ目標に向かい、気持ちを1つにして戦った静岡ユースでの活動からも、小さくない刺激を受けたことは言うまでもない。

「静岡のレベルの高い選手たちと一緒にできて、自チームとはまた違う感じで新鮮ですし、みんな上手いのでサッカーもやっていて楽しいですね。もともと代表で会ったりしている子とか、昔から話したりしている子もいて、凄く仲良く楽しくできていますし、一緒にプレーすることで凄く自分も得られるものがあるので、吸収できるものはしっかり吸収して、もっと良い選手になりたいなと思います」。

 ここからはシーズンも後半戦。プレミアリーグでは、そのステージに残留するための戦いが待っている。「アカデミーは来年までしか活動期間がないので、プレミアを戦って終わるというのはチームの大きな目標で、ここで自分たちが残留して、来年に繋げるというところはみんなでずっと言いながらやっています。個人としてはしっかりスタメンで活躍して、チームを勝たせる選手になって、みんなの目標である残留を達成したいなと思います」。

 カウントダウンが始まりつつあるJFAアカデミー福島U-18が目標を達成し、晴れやかな笑顔でシーズンを締めくくるためには、この夏で大きな経験値を手にした齋藤の躍動が、間違いなく必要不可欠だ。



(取材・文 土屋雅史)

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