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幕を開けた日本一へのリスタート。インハイ決勝以来の公式戦に臨んだ帝京は三菱養和SCユースとドロー決着

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帝京高三菱養和SCユースの激闘はドロー決着!

[9.3 高円宮杯プリンスリーグ関東第10節 帝京 1-1 三菱養和SCユース 帝京北千住G]

 一躍脚光を浴びた夏の全国準優勝は、もちろん自信にはなったけれど、もう過去のこと。最大の目標である選手権予選での東京制覇と、冬の日本一を成し遂げる戦いがより厳しいものになることは十分承知。その上で、再びカナリア軍団の名を全国に轟かせてみせる。

「夏は『決勝まで勝ったね』ではなくて、『最後に負けたから、このままじゃ足りないな』というのは凄く思っているところです。だからこそ、練習試合とか練習の紅白戦でも甘いプレーは許されないですし、練習1つでももっと集中力が必要ですし、1つのプレーの重みというのは凄く自分の中で感じていますね」(帝京・伊藤聡太)。

 東京の名門同士が激突した“再開初戦”はドロー決着。3日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープリンスリーグ関東第10節、帝京高(東京)と三菱養和SCユース(東京)の対戦は、三菱養和SCユースが前半にFW秦優太(3年)のゴールで先制したものの、帝京も後半に完璧な崩しからFW齊藤慈斗(3年)が同点弾をゲット。スコアは1-1で終了し、勝ち点1を分け合っている。

 オープニングシュートは前半3分の帝京。「全国の決勝で1人では何もできなかったですし、課題はたくさん見つかりました」と話すキャプテンのFW伊藤聡太(3年)が左カットインから枠の左へ逸れるシュートまで。一方の三菱養和SCユースも10分にはMF奥山誠幸(3年)のフィードを秦が収め、MF児平陽大(3年)のシュートはゴール右へ外れるも、まずはお互いにゴールへのトライを繰り出し合う。

 ただ、少しずつゲームリズムを掴んだのは「相手が良いのはもちろん理解した中で、しっかり堅くやりながら、空いた所を攻めるイメージ、速い攻撃でフィニッシュまで行けるイメージを狙っていました」と庄内文博監督も話した三菱養和SCユース。7月から始めたというDF田中涼大(3年)、DFシーバーアガスティン優人(3年)、DF平工雄大(3年)で組んだ3バックを中心に、きっちり守備に軸足を置きながら、秦とFW竹岡創(2年)の馬力で縦に速いアタックを徹底し、相手ゴールに迫るシーンを創出していく。

 すると、先にスコアを動かしたのもアウェイチーム。28分。ここもシンプルに裏を狙ったボールは前線に繋がらなかったものの、相手DFのバックパスが小さくなると、見逃さなかった秦がかっさらってそのままフィニッシュ。ゴールネットが鮮やかに揺れる。

FW秦優太のゴールで三菱養和SCユースが先制!


「夏からやってきたことが良い雰囲気で出せて、先制点を獲れたのは良かったですね」とキャプテンマークを巻くGK町田佳祐(3年)が話せば、「前半は1-0で行ければという感じでしたし、点を獲った形は、向こうのミスもあるんでしょうけど、狙っているようなイメージではありましたね」とは庄内監督。プラン通りの45分間をデザインした三菱養和SCユースが1点をリードして、前半は終了した。

「ハーフタイムにボールを動かそうということを徹底的に言いました。『前を向けるのに何で下げるの?もっともっと行こうよ』と話しましたね」と日比威監督に発破を掛けられ、後半のピッチに送り出された帝京は、すぐに“らしさ”全開のアタックで成果を手繰り寄せる。

 後半2分。左サイドでMF松本琉雅(3年)が時間を作り、上がってきたDF島貫琢土(3年)が繋ぐと、伊藤はライン際までえぐり切って中央へラストパス。ここに飛び込んだ齊藤のシュートがゴールネットへ到達する。「仲間が良い崩しでサイドからえぐってきてくれたので、自分は中でフリーになれる場所を見つけて、あとは来たボールを流し込むだけでした」というエースの貴重な同点弾。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

「できれば後半の最初の10分は点を獲られたくないと。そこを乗り切ったらと言っていたら2分で獲られたので、『おい!』という感じでしたね」と庄内監督も苦笑した三菱養和SCユースは、それでも10分に決定機。児平のパスから左サイドを抜け出した秦が枠内シュートを打ちこむも、ここは三菱養和SC調布ジュニアユースで腕を磨いた帝京のGK川瀬隼慎(2年)がファインセーブ。“古巣”相手にインターハイ優秀選手の力を見せ付ける。

 以降はホームチームが攻勢に。「日比先生にも言われたんですけど、ボールが来る前の動きをしっかりして、ワンタッチやツ―タッチでなるべく剥がすようにしたので、後半は自分も生きつつ、仲間も生かせたかなと思います」と語った齊藤へボールが入った後のサポートをチームが意識したことで、攻撃の厚みが改善。16分には松本の左クロスに、こちらも「ナミちゃんは小学生の時にスクールで教えていますから(笑)」と庄内監督も明かした、三菱養和SC巣鴨ジュニアユース出身のDF並木雄飛(3年)が決定的なボレーを放つも、枠を超えてしまう。

 終盤には双方に際どいシーンが。34分は帝京。右サイドをドリブルで仕掛けた齊藤が、マーカーとの接触でエリア内で倒れるも、主審の判定はノーホイッスル。38分は三菱養和SCユース。試合を通じて左足のキックに冴えを見せていた奥山の好クロスに、途中出場のFW依田悠希(3年)が合わせたヘディングはゴールを陥れるも、副審のフラッグが上がりオフサイドに。ともに勝ち越しの2点目は奪えない。

 ファイナルスコアは1-1。「インターハイでも準優勝ということで今年の帝京高校さんは力があるので、我々もどれぐらいこの夏を超えたところでみんなやれるようになったのかなという、そこにチャレンジしようという中では、最後まで守備で凌ぎながら、カウンターを狙いつつ戦えたので、成長を感じたようなゲームでした。選手は本当に良く戦ってくれました」(庄内監督)「不運な失点からよく立て直したかなと思います。でも、最後のところでこうやって流れがどっちつかずになって、どっちが勝ってもおかしくない展開にしてしまったのは良くなかったですね」(日比監督)。意地がぶつかり合うような好ゲームは、双方が収穫と課題の両面を手にしつつ、ドロー決着となった。

 インターハイでは堂々の決勝進出。最後は前橋育英高に屈したものの、全国準優勝と同校にとっても久々に大きな成果を得た帝京は、この日の一戦がその決勝以来となる公式戦。各遠征で少し選手をシャッフルしながら、2週間ぐらい前からトップチームはリスタートを切ったという。

 日比監督は「準優勝して何が変わったかと言ったら、何も変わっていないですよ。彼らが浮き足立っているかと言ったら、そうではないと思うんですけど、やれるという変な余裕が生まれるのは嫌だなと。別に全国で優勝したわけでもないですし、『まだ何も残していないよ』と、どこかでもう1回締め直さないといけないですね」と今の心境を率直に語っている。

 キャプテンの伊藤は、周囲からの見られ方の変化も察しつつ、それ以上に自分たちのポジティブな変化を実感しているようだ。「相手が結構今までとは違う目をしてくるというのは感じますね。街中でもちょっと見られちゃったり(笑)。でも、そういう周囲の目を気にしている選手はいなくて、どちらかと言えば『自分たちがあそこまで勝ち上がったんだから、もう不甲斐ない試合はできないよね』という考え方で、決勝で最後に勝ち切れなかったことが、その後の遠征や練習試合で良い方向に動いているなとは感じていますね」。

 齊藤が話した言葉も印象深い。「日本一まであと一歩だったので、どのチームよりも悔しい想いをしましたし、まだまだ足りないこともあったんだなと思ったので、そこをしっかり見つめつつ、リーグ戦でどんどん相手を圧倒できるようなチームを作って、選手権でも頑張りたいです。ウチには良いメンバーが揃っていますし、日本一を獲れないことはないと思うので、みんなで切磋琢磨して、日本一という目標に向かって頑張っていきたいです」。

 まずは12年も遠ざかっている冬の全国出場を目指す自分たちは、あくまでもチャレンジャー。持ち前の明るさとリーダーシップでチームをまとめ続けてきている伊藤の決意が響く。「夏はあそこまで行っても、結局冬の全国を経験していない自分たちはチャレンジャーなので、絶対にまた全国に行かなきゃいけないということや、絶対に日本一にならなきゃいけないということはもちろんなんですけど、高いところを目指しながらも、地に足を付けて、一戦一戦慎重に、かつアグレッシブに戦わなくては、東京予選は今まで以上に厳しくなってくるなと。もっと自分たちでレベルアップしていかないといけないなと思っています」。

 夏に得た成果は、あくまでも最大の目標を達成するための過程。高校サッカー界きっての名門として知られるカナリア軍団。帝京の復権は、まだまだここからが正念場だ。

(取材・文 土屋雅史)
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