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[MOM3991]三菱養和SCユースGK町田佳祐(3年)_敵将も称賛する守護神は人間性抜群の「ポジティブワードメイカー」

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三菱養和SCユースを束ねるキャプテン、GK町田佳祐

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.3 高円宮杯プリンスリーグ関東第10節 帝京 1-1 三菱養和SCユース 帝京北千住G]

 とにかく、声が出る。ピッチに響き渡っていくのは、アグレッシブでポジティブな言葉。チームを最後方から鼓舞するその姿は、守護神と呼ばれるにふさわしい存在感を放ち続けている。

「今日の前半にもありましたけど、緩いプレーがあった時に厳しく言わないと自分が甘えてしまうのかなと。人に言うということは自分にも責任が付いてきますし、人に強く言うからには一番自分がしっかりやっていないといけないので、練習前もグラウンドに誰よりも早く来たりして、みんなから信頼されるようなことをやりたいなと。結局最後は人間性だと思っているので、そこは意識していますし、ポジティブな声掛けが多いのはみんなが頑張っているからで、その中でちょっと緩い選手にも声を掛けて、チームを引き締めるようなことが一番大事かなと思っています」。

 サッカー大好き集団として知られる三菱養和SCユース(東京)を、圧倒的なリーダーシップで束ねるキャプテン。GK町田佳祐(3年=三菱養和SC調布ジュニアユース出身)がチームに通す太くて強い1本の芯は、何があっても決して揺るがない。

 難敵の帝京高(東京)と対峙した一戦でも、三菱養和SCユースのゴールマウスにはいつもと変わらない町田が立っていた。1つ1つのプレーに的確な指示を飛ばしたかと思えば、集中を切らさないように個々へ向けるポジティブな声掛けも、もちろん絶やさない。

「僕たちのチームは守備が生命線なので、失点もリーグで2番目ぐらいに少なくて、庄さん(庄内文博監督)からも『先制点を決められても、連続失点さえしなければチャンスは来る』と言われていましたし、守備の時間は長かったですけど、慣れっこと言えば慣れっこなので、どこかでチャンスは作れると考えて、みんなでプレーしていました」。ある程度の劣勢は織り込み済み。その上で勝利を手繰り寄せるための“公式”を、綿密に組み立てていく。

 前半28分に三菱養和SCユースが先制したものの、「ゴールシーンは夏からやってきたことが良い雰囲気で出せたんですけど、後半の立ち上がりの失点がとにかくもったいなかったなって」と町田も振り返ったように、後半2分に綺麗なアタックを浴びて失点。以降は押し込まれる展開が続いたが、守護神の大きな声が選手たちに注がれる。「まだまだ走るぞ!体力は“気持ち”だぞ!行ける!行ける!」。

 終盤まで戦い抜いた一戦は、1-1のドロー決着。「今日の試合をポジティブに言ったら、『勝ち獲った勝ち点1』なのかなという感じですね」と口にした町田は、こう話を続ける。「帝京さんも2位のチームなので、そこに勝ち点1でも獲れたことは次にも繋がりますし、まだ8試合残っている中で、『残留する』というようなマインドではなくて、1個でも上の順位を目指していますし、みんなも弱気にならずにどんどん上を食っていこうと思っていますよ」。次々と出てくるポジティブなフレーズは、自身の中で大切にしている意識に貫かれているという。

「よく『心・技・体』と言いますけど、一番最初に“心”が来るのは、“心”が一番大事だからということを僕は意識しているので、どんなに自分のプレーがひどくても、どんなに自分がひどいミスをして失点しても、心のベースの部分だけは絶対に崩しちゃいけないと思ってるんです。やっぱり雰囲気は周りに伝染しますし、僕が下を向いていたり、心を乱したりしていたら、チームメイトの気持ちも下がっていってしまうと思うので、どんな時でも上を向いて、どんな時でもみんなに声を掛けることを、自分は一番大切にしています」。この話からもサッカーと、チームメイトと向き合う真摯な姿勢が窺える。

 実はこの日の町田には、絶対に負けられない“ある理由”があった。帝京のGK川瀬隼慎(2年)は三菱養和SC調布ジュニアユース時代の1年後輩。普段から交流もあるだけに、直接対決で“先輩”としての威厳を見せる必要があったわけだ。

「アイツはしょっちゅうLINEしてくるんですよ。帝京の日比監督がインターハイのインタビューで僕の名前を挙げて、『素晴らしい選手だ』とほめてくださったんですけど、その時にも川瀬から『練習中にもGKコーチから「これじゃあ町田くんに負けちゃうぞ」っていつも発破を掛けられています』って(笑)。前も巣鴨のグラウンドに遊びに来て、『町田くん!』とか言って肩を組んできたりして、かわいいヤツですけど、後輩なので絶対に負けたくないなという気持ちはありました。今日は川瀬より良いプレーはしたかなと思いますけど(笑)、ここからまた川瀬にも頑張ってほしいですね」。

 楽しみにしていた“再会”も経た今、もう長くはない高校生活のラストスパートに向けての決意を改めて問うと、少し考えながら町田はこう言葉を紡いでくれた。

「養和は上下関係もないですし、コーチも先輩もみんな良い人なので、ここにいたからこういう人間性が身に付いたと思っています。ジュニアユースの時から、僕がうまく行かない時期にも庄さんをはじめとしたコーチの方が本当に良く声を掛けてくれて、いろいろなことを考えて指導してくれたことが今に繋がっていますし、『サッカーは人とやるものだな』と感じることができて、『養和は本当に良いクラブだな』って。大学に行っても、養和には遊びに行きたいなと今から思っています(笑)」。

「だからこそ、後輩たちに何かを残せるとしたら、自分がどれだけ頑張っているかを見せることかなと。『町田はアレぐらいやっていたからな』と感じて、みんなが努力してくれれば嬉しいですし、そのためにも自分はここからも本当に努力するだけですし、その中で結果が付いてくれば一番嬉しいなと。養和のスタッフの方々、庄さん、チームメイト、家族、そういう人たちのためにまずは残された時間を全力でやるだけですし、僕たちには支えてくれる人たちがいるので、そういう方々に感謝しながらサッカーしたいなと思っています」。

 まさに“養和のリーダー”というイメージがピッタリの町田が、ここからの限られた時間でさらに後輩たちへと残していくであろうポジティブな空気が、きっとこのクラブの未来の欠かせない一部になっていくことに、疑いの余地はない。

(取材・文 土屋雅史)
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