beacon

[プレミアリーグEAST]夏冬連覇への鍵は「頭のインテンシティ」。インハイ決勝以来の公式戦に臨んだ前橋育英はFC東京U-18とドロー決着

このエントリーをはてなブックマークに追加

前橋育英高FC東京U-18の激闘はドロー決着

[9.11 高円宮杯プレミアリーグEAST第14節 前橋育英高 1-1 FC東京U-18 前橋育英高校高崎グラウンド]

 夏の全国制覇を経験したからこそ、最大の目標である冬の日本一を達成するためには、さらに個人もチームもステップアップする必要があることは、スタッフも選手もみんな理解している。ここから進んでいく先は間違いなく茨の道。それでもその先に待っている景色には、すべてを懸けてトライするだけの価値があることも、十分にみんな理解している。

「もうちょっと『頭のインテンシティ』を鍛えなければいけないなと。要するにスライドのスピードとか、立ち位置を取るスピードとか、ポジションの修正のスピードとか、ですね。僕の中でデュエルは1対1の球際の強さかなと。でも、インテンシティは連続性や連動性が大事だと思っていますし、そのためには頭のスピードが付いていかないとダメなんですよね」(前橋育英・山田耕介監督)。

 上州のタイガー軍団が、ここから掲げるキーワードは『頭のインテンシティ』。11日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第14節、前橋育英高(群馬)とFC東京U-18(東京)が対峙した一戦は、前半5分にこれがプレミアデビュー戦となったMF根津元輝(3年)が直接FKを沈め、前橋育英が先制したものの、後半38分にFC東京U-18もFW今野光希(3年)が執念の同点弾を奪い、1-1のドロー決着となった。

 試合は開始早々に動く。前半5分。FW高足善(3年)が仕掛けて獲得した前橋育英のFK。ペナルティエリアのすぐ外。ゴールまで約20メートルの位置。スポットにはレフティのDF山内恭輔(3年)と根津が立つと、「今週は練習から蹴っていましたし、あの距離だったらファーに突き刺せる自信はあったので、迷わず蹴りました」という根津は右足一閃。ボールは狙い通りの軌道で、ファーサイドのゴールネットへ突き刺さる。実に高校選手権準々決勝の大津高(熊本)戦以来、公式戦でのスタメンは8か月ぶりだという7番のゴラッソ。前橋育英が先制点を手にしてみせる。

 以降も「前半は育英のペースで、凄く良い距離感で、自分たちがボールを支配しながらやれました」とキャプテンのMF徳永涼(3年)も話したホームチームの攻勢は続く。14分には自身のボールロストから、果敢にチェイスし続けた徳永に相手のクリアが当たり、ゴールへ向かったボールはFC東京U-18のGK西山草汰(3年)が辛うじてファインセーブ。29分には根津が、32分にはMF青柳龍次郎(3年)が放ったシュートは、いずれもDFに当たって枠外へ逸れるも、追加点への意欲を前面に打ち出す。

「前育さんのビルドアップを自分たちが受けてしまって、そこから流れを持っていかれてしまいました」と今野も振り返ったFC東京U-18は、38分にその今野が直接FKを狙うも、カベに当たって枠の右へ。43分は再び前橋育英。MF山田皓生(3年)のパスから、高足が叩いたシュートは枠の上へ。直後にも高い位置でボールを奪った青柳がエリア内へ侵入するも、シュートは懸命に戻ったFC東京U-18のDF東廉太(3年)が間一髪でブロック。攻勢を続けた前橋育英が1点をリードして、前半は終了した。

「入りに失点してしまってからバックパスが増えて、プレスもあまり前から行けなかったので、そこが問題でした」と前半を振り返ったのはFC東京U-18のキャプテンを務めるDF土肥幹太(3年)。消極的な45分間を経て、ねじを巻き直したアウェイチームは、後半に入ると少しずつボールを動かしながら、相手陣内での時間を増やしていく。

 後半9分にはMF田邊幸大(2年)のパスからDF松本愛己(3年)が打ったシュートは根津にブロックされるも、直後に松本が蹴った左CKから、高い打点で東が当てたヘディングはクロスバーの上へ。18分には前橋育英も山内が鋭いボレーを枠内へ打ち込むも、西山がファインセーブで応酬すると、FC東京U-18も24分には松本の右CKに、MF生地慶多(3年)が合わせたヘディングは枠の右へ外れたが、相手も警戒していたセットプレーに同点への意欲を滲ませる。

 飲水タイムを挟むと、前橋育英には追加点のチャンスが立て続けにあった。29分。山田が右サイドを運んで打ったシュートは、DFがブロック。30分。根津のスルーパスに反応した高足が、右へ流れながら放ったシュートは西山がキャッチ。31分には高い位置でボールを奪い切った高足が、飛び出したGKを見ながら狙ったシュートは、ここも西山が懸命にキャッチ。「決定的なところも何本もありましたけど、追加点が獲れなかったですね」とは山田監督。その“代償”は終盤に待っていた。

 38分。FC東京U-18は右サイドの深い位置へ侵入すると、田邊が丁寧にクロス。「田邊選手と目が合って、自分の動き出しに綺麗に合わせてくれたので、あとは自分がしっかり当てて、決めるだけでした」という今野がダイレクトで叩いたシュートが、ゴールネットを鮮やかに揺らす。「本当にサッカーと向き合えているので、今は一番前目で信用のおける選手」と奥原崇監督も評した18番のファインゴール。スコアは振り出しに引き戻される。

「凄く課題が明確になる試合でした。残り10分や15分の運動量と、追加点を獲るまで気を引き締めるところと、個人のところの決定力が課題だというのはよくわかりましたね」と口にしたのは徳永。前橋育英は終了間際の45+2分に青柳が左FKを蹴り入れるも、ファーに飛び込んだDF齋藤駿(3年)のボレーはわずかに枠を逸れていく。

 結果は1-1。「シュート数が14対7なので、僕らは勝ち点1でもという感じなんですけど、どこかに勝ち点3を持って帰れるチャンスもあったかなと思います」(奥原監督)「チャンスを決め切れればもう自分たちのゲームだったんですけど、その中で集中力が切れて、セットプレーで相手に押し込まれて、最後は自分も絡んだ情けない失点をしてしまって、本当に勝ちゲームだったなって印象ですね」(根津)。お互いに課題が明確に見えた90分間は、勝ち点1を分け合う結果となった。

 インターハイ後は「和倉に行って、いろいろな選手を試し、札幌にはある程度選手を絞って行って試し、という感じでやってきました」と山田監督も話したように、いくつかの遠征を経て、この日のプレミア再開を迎えた前橋育英。周囲から日本一のチームだと見られることについて、徳永は「それは間違いなくありましたし、自分たちは『そのプライドを持ってやろう』という話はしたんですけど、なかなか難しいですし、そういうところにも慣れていかないといけないかなと思いました」と率直な想いを語っている。

 その中で、山田監督がより意識しているのは『根拠のある声掛け』だという。「大切なのは具体的に根拠のある説明ですよね。気合とか努力も確かに必要なんですけど、ちゃんと『こういうことだから、ここをしっかりやっていこう』ということを自分なりに言おうとしています。声の掛け方は一番重要ですよ。『オマエ、ふざけんな』は良くないなと思って(笑)。情熱ばかりでやっていても、根拠がないと僕は絶対ダメだと思います。そこをうまくコントロールしていかなくちゃいけないなと改めて思いましたね」。その1つが冒頭にあった『頭のインテンシティ』というわけだ。

 夏の日本一を経験したからこそ、選手たち同士も謙虚な『声掛け』を大切にしているという。「涼や元輝を中心に『まだまだだぞ』という声掛けはよくしていますよね。ただ、言うだけではなくて行動が伴わないと本物ではないので、目の前にある1試合1試合に全力を尽くして、また弱点が見えてくるようにして、それを克服していきながら、選手権に向かっていこうという話はしています。『これをやればいい』みたいなものがあればいいんですけど、そんなものはないので、『こういうところを直していこう』『だから、そのためにこうしていこう』と根拠を示しつつ。そこは指導者と選手たちの戦いというか、ぶつかり合いがやっぱり必要ですよね」(山田監督)。

 徳永は改めて抱いた決意を、こう口にする。「夏に一冠は獲れましたけど、自分を含めて全員が選手権で日本一を獲るために育英に来ているので、みんなと過ごせる時間も少なくなってきていることも意識しながら、楽しんでやりたいですし、いろいろなところで刺激し合えるのが育英の良さなので、残された時間をプラスに持っていきたいです」。

 同校初の夏冬連覇へ。前橋育英はさらなるバージョンアップにトライしながら、まだ見ぬ景色が待っているはずの未来へ向かい、再び力強く走り出している。



(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●高円宮杯プレミアリーグ2022特集

TOP