beacon

[MOM4004]東福岡MF保科鉄(2年)_3連勝を引き寄せた「2年生ルーキーの衝撃」。プレミアデビュー戦に臨んだ“転校生”が先制ゴールをゲット!

このエントリーをはてなブックマークに追加

プレミアデビュー戦でゴールを挙げた東福岡高MF保科鉄

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.17 高円宮杯プレミアリーグWEST第15節 C大阪U-18 1-2 東福岡高 南津守さくら公園スポーツ広場(人工芝)]

 多くの人が理解してくれて、励ましてくれて、後押ししてくれた。あとはもう自分がやるほかに、その決断が正しかったと証明する方法はない。だから、デビュー戦だろうと何だろうと、とにかくガムシャラにやるしかなかったのだ。そして、その姿勢はまさかの結果を連れてくる。

「初めてのプレミアの試合でしたし、『本当に入ったのかな?』みたいな気持ちが3秒ぐらい続いた後に、泣きそうになりました。バリ嬉しかったです!」。

 この4月に東京の国士舘高から転入してきた、赤い彗星の“2年生ルーキー”。東福岡高(福岡)MF保科鉄(2年)がプレミアリーグ初出場となった一戦で、いきなりゴールを奪う離れ業を披露し、鮮烈なデビューを飾っている。

 2連勝で迎えた、セレッソ大阪U-18(大阪)と対峙するアウェイゲーム。東福岡のスタメンリストには見慣れない選手の名前が記載されていた。保科鉄。2年生。前所属は国士舘高校。42番という大きな背番号が、シーズンが進むにつれて台頭してきた選手だということをよく表している。

 リーグ屈指の技術の高さを誇り、夏のクラブユース選手権では日本一に輝いたチームを相手に、中盤アンカーの位置に解き放たれた保科は「自分は今日が初めてのプレミアだったんですけど、チームの中でも一番下手なので、守備に重きを置いて、『目の前の相手には絶対にやらせない』という気持ちでゲームに入りました」と気合をみなぎらせてピッチに入る。

 多くのことは求められていない。狙いは明確に整理されていた。「試合前から『クサビのパスは間にどんどん当ててくる』と言われていたので、守備の時はそこをまず消すことを意識しながらやりましたし、攻撃の面ではどんどんサイドチェンジを使って、攻撃の幅を出していこうかなと思っていました」。

 序盤からC大阪U-18にボールを持たれる展開が続いたが、改めて言われなければ、プレミアデビューだとは思えないほど、落ち着いた雰囲気でゲームに馴染んでいく。そして、その時は唐突にやってきた。

 前半20分。保科は中盤で自らボールを奪うと、右サイドにそのまま展開。パスを受けたMF下川翔世(3年)が縦に運びながら中央へ折り返したクロスに、後方から42番が飛び込んでくる。「自分がカットして、10番の翔世くんに出して、もうあとは当てるだけという良いボールが来たので、ふかさないように落ち着いて蹴れました」。右足から振り抜かれた弾道が、綺麗にゴールネットへ突き刺さる。



 一瞬何が起こったのかよくわからないような表情を浮かべた保科は、すぐさま満面の笑顔で下川の元へと走り出す。次々に駆け寄ってくるチームメイト。意外な伏兵の先制弾に、チームを率いる森重潤也監督も「切り替えのところで、いち早く流れを感じてゴール前に行けたので、そこをチームとしてうまく使えた所もあったなと思います」と評価を口に。“2年生ルーキー”が大舞台で輝いた。

 後半はビハインドを負ったホームチームが一層攻勢を強める中で、「前半と同様にギャップの選手に当てられないことを意識しつつ、ボールを取った後のカウンターを狙ってやっていました」という保科は、足が攣って後半40分に交代するまで全力プレーを継続。チームも2-1で逃げ切って3連勝を達成し、その一翼を担った42番は多くの仲間に祝福されていた。

 もともとは福岡出身。地元クラブのCAグランロッサから東京の国士舘高へと進学した保科は、入学直後からトップチームでプレーしていたものの、腰のケガで選手権予選は欠場。新チームになって再びレギュラー争いに身を投じていたが、東京を取り巻く社会情勢による環境に息苦しさを感じるようになる。

「東京ではコロナ禍の影響でサッカーができない時期が長くあって、その中で『もっとたくさんサッカーしたいな』と思ったんです」。国士舘での日々にも慣れ始め、仲間との絆も深まってきた中で、熟考に熟考を重ねた保科は福岡に戻って、県内屈指の強豪校として知られる東福岡へと身を投じることを決意する。

「いろいろと東京にいる人にも迷惑を掛けることにもなりますし、いろいろな面でいろいろな人にこの決断を支えてもらいました、これだけわがままなことを言ったのに、今はここでプレーをさせてもらっているので、本当に感謝しかないです」。決して簡単な決断ではなかったが、自分のために動いてくれる周囲の人の温かさに触れたことが、保科の人間性に小さくない影響を与えたことは、あえて言うまでもないだろう。

 森重監督は「球際の強さもありますし、逃げずに守備ができるので、そういうところは彼の特徴かなと思います」と話しているが、自身でも持ち味は守備面だと認識しているようだ。

「中学生の頃のチームでは凄く守備のことを言われていたので、『守備だけは絶対に誰にも負けないように頑張ろう』と思っています。攻撃力や足元の技術は東福岡の部員の中でも下手な方なので、そこはみんなに教えてもらいながら、守備の面でチームに貢献したいです」。そんな“守備職人”がプレミアデビュー戦でゴールを決めてしまうのだから、その陰にサッカーの神様の存在を感じずにはいられない。

 この日は目に見える結果を出すことに成功したが、これからも活躍し続けることが、自分をさまざまな形で応援してくれている方々への恩返しになることも、保科はとっくにわかっている。「もちろんプレミアも優勝を目指してやりたいですし、選手権でも自分もチームの力になれるように頑張りながら、日本一を目指してやっていきたいと思います」。

 まさに彗星のように現れた、東福岡の2年生ルーキー。保科が扉を叩いた高校サッカー“第2章”は、最高の形でその幕が上がっている。



(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●高円宮杯プレミアリーグ2022特集

TOP