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見えてきた「2022年のチーム」の輪郭。阪南大高は大阪産大附に4発快勝でリーグ8戦ぶり勝利!

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阪南大高はリーグ戦8試合ぶりに勝利を掴む!

[9.18 高円宮杯プリンスリーグ関西第13節 阪南大高 4-1 大阪産大附高 J-GREEN堺 S5]

 去年のチームの影を追い求めるのは、もうやめた。自分たちには、自分たちの良さがある。同じ方向を向いて、今やるべきことを1つずつやっていく。その先にしか、今年の“阪南らしさ”は出てこないと気付いたから。

「去年みたいに飛び抜けた選手はいないので、全員で守って、全員で走ってということを、今年のチームはやるしかないと思います。去年のチームの結果が良かったので、多少はプレッシャーもあったんですけど、もう自分たちのやるべきことをやるしかないなって」(阪南大高・保田成琉)。

 実に8試合ぶりに味わった勝ち点3の歓喜。18日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープリンスリーグ関西第13節、阪南大高(大阪)と大阪産大附高(大阪)が対峙した一戦は、MF脇田大和(3年)とFW福井旺(2年)、FW上山蓮太(2年)のゴールで阪南大高が前半だけで3点をリード。大阪産大附もFW三政響希(3年)が1点を返したものの、終盤にキャプテンのDF保田成琉(3年)も追加点を奪った阪南大高が、4-1で約5か月ぶりとなるリーグ戦勝利を飾っている。

 あっという間の先制点は前半3分。阪南大高は左サイドを抜け出したMF茅野裕太(2年)がクロスを上げると、福井が丁寧に落としたボールを脇田は思い切りよくミドルにトライ。軌道は右スミのゴールネットへ突き刺さる。

 畳み掛ける阪南大高。9分。右サイドで獲得したFK。DF今西一志(3年)が巻き気味に蹴り込んだキックに、走り込んだ福井が合わせたヘディングは、絶妙のコースを辿ってゴールネットへ吸い込まれる。「チームとして『右からの“イン巻き”はファーを狙っていこう』と話していて、そこにしっかり蹴って、味方がしっかり合わせてくれたので、そこは狙い通りでした」と今西。早くも両者の点差は2点に開く。

「前節も立ち上がりのコーナーでやられたので、それは避けたゲームの入り方をしようと。相手コートでのプレーを優先して、シュート本数を最初から増やしていこうという入り方をしたかったんですけどね」と中西幸司監督も話した大阪産大附は、DF石岡治樹(3年)とDF佐藤星夜(2年)の両CBに、MF橋本悠海(2年)とMF上野晃蓮(3年)のドイスボランチも関わって、丁寧にボールを動かしていくものの、相手陣内に良い形で侵入するまでには至らない。

 39分に生まれた次の得点も追加点。右サイドを単騎で運んだ今西のクロスを、茅野が懸命にボレーで合わせ。最後はゴール前に詰めていた上山がプッシュする。「今年は立ち上がりにやられて、自分たちが崩れてしまっていることが多いので、今日は前半の飲水タイム前までに試合を決めるつもりでやっていました」と保田も話した阪南大高が3点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了した。

 小さくない点差を追い掛ける展開となった大阪産大附。「前半はサッカーをしている位置が守備も攻撃も低かったので、後半はサイドバックを上げて、センターバックもスライドして、まずボールサイドに攻撃も守備も人数を掛けようと修正しました」と中西監督。右SB橋本渉夢(3年)と左SB三浦吏玖(3年)を前に押し出し、右SH松隈海翔(3年)と左SH矢戸彪凱(2年)との連携を狙いつつ、全体のスイッチを入れ直す。

 後半3分にはGKの位置を見たMF浅尾晴大(1年)が45mロングにチャレンジ。ここはよく戻った阪南大高GK松本勝利(2年)がキャッチしたものの、あわやというフィニッシュを繰り出すと、22分にも橋本のパスから上野が右クロス。突っ込んだFW金谷黎騎(3年)はわずかに届かなかったが、徐々に生まれ始めた攻撃の芽。

 守護神も必死に耐える。23分に茅野が放った阪南大高の決定的なシュートは、大阪産大附のキャプテンマークを巻くGK堤奨悟(3年)がビッグセーブ。31分にも10番を背負った左SB宮崎悠大(2年)のクロスにFW辰巳悠河(3年)が競り勝ち、FW山内颯太(3年)が枠へ収めたシュートは、ここも堤がファインセーブで応酬。意地を見せる。

 すると、36分に生まれた緑の反撃弾。堤のフィードを起点に、左サイドを抜け出した途中出場の三政は、そのままドリブルで中央へとカットインしながら右足を強振。ボールはゴールネットへ力強く飛び込んでいく。「後半は多少修正できましたね」と中西監督も評した大阪産大附が、10番のゴラッソで1点を返すことに成功した。

「10番がストロングになることは1週間ずっと警戒していたので、そこでやられてしまったというのはまだまだ甘いなと思いました」と今西も口にした阪南大高も、このままでは終われない。39分に手にしたのは左CK。「リスク管理ができていなくて失点に繋がったので、『やり返したろ』と思っていました」という保田は、今西のピンポイントキックにニアへ飛び込み、鮮やかなヘディングでボールをゴールネットへ送り届ける。

 晩夏の大阪対決は4-1。「試合に向き合う準備、体と心の準備が今日はウチの方がちょっとだけ良かったのかなと思います」と濱田豪監督も語った阪南大高が、4月24日に開催された大阪桐蔭高戦以来、実に5か月ぶりとなる白星を掴み取り、試合後の笑顔を自分たちで力強く手繰り寄せた。

 この日の阪南大高のテクニカルエリアに立っていたのは、主に平野直人コーチ。「去年から平野は今年試合に出ている子たちの大半を見ていたんです。去年のウチの戦い方を今年もやっていたんですけど、この子らはこの子らのやり方を模索した方がいいと思ったんですよね」と話す濱田監督はベンチからゲームを見守っていた。

 リーグ戦でもインターハイでもなかなか結果の出ない時期を経て、スタッフ陣もさまざまなやり方を模索している。「子供らも“1つの目”で見られるより、そういうことで変化する子もおったら、それはそれで良いことですし、ちょっと僕が一歩引くことで、この子らを自由にさせるというのもありかなあと。同じ方向から突っ込むだけでは僕らスタッフもダメなので、今週は『思い切って僕らも変えたぜ』というのは表現したんですけどね」(濱田監督)。

 選手たちもこの苦境を打破しようと、アクションを起こしていた。「Aチーム全員でミーティングをやりました。今まで変わるチャンスは何回もあったんですけど、その日だけになってしまって、2日後や3日後にはまた戻ってしまっていたので、そういうところにもっとこだわって、これが最後ぐらいの気持ちでやろうという話になったんです」と明かしたキャプテンの保田は、「今までより練習の1つ1つの入りからてきぱきやることを心掛けていたので、良い雰囲気でやれました。今週1週間それをやってきて勝てたので、また来週もこのテンションでやり続ければ、良い結果になると思います」と手応えを口にする。みんなが何かを変えようと試行錯誤し、もがいていく。それが『シーズンを過ごしていく』ということなのだろう。

「今年は『まずはこれ』というものが掴み切れていない現状があるので、そういう部分がちょっとでも出たのであれば、チームとして良かったですよね。こうやって彼らも十分に良さもあるということに、このタイミングではあっても気付けましたし、そういうゲームが今日はできたので、残り試合も強い相手に食らい付きたいなと思いますね」(濱田監督)。見えてきた2022年のチームの輪郭。阪南大高の歯車が、ちょっとずつ、静かに、噛み合ってきた。



 試合後。大阪産大附の三浦が泣いていた。リーグ最下位と苦しい状況の中で、この日も4失点を献上して敗戦。ディフェンスラインに入りながら失点を重ねた悔しさからか、自分の出来に納得がいかなかったからか、声を上げて泣いていた。

「彼はウチに中体連から一般受験で入ってきてくれて、コツコツとやってきてくれた子で、チームで一番気持ち的には熱いものがあります。技術的な部分や戦術的なポジションの取り方はまだまだなんですけど、プレーにそのまま気持ちを乗せることができる選手なので、特に夏ぐらいからはずっと使っている選手なんです」と三浦のことを教えてくれた中西監督は、こう言葉を続けている。

「彼は本当に一戦一戦に力を出し尽くす気持ちでやってくれているんですけど、そこが今のチームに足りないところかなと思って、それが伝染してくれればなとは思っていますね。凄く熱い男です」。

 残されたリーグ戦はあと5試合。ここから彼らが浮上する可能性がないなんて、誰に言い切れるだろうか。その逆襲への鍵は、あるいは三浦が発していたような“熱さ”が握っている気がしてならない。

大阪産大附高を変え得る「熱い男」、DF三浦吏玖


(取材・文 土屋雅史)
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