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トップ昇格内定の10番でキャプテン。浦和ユースMF堀内陽太は3つの“プレッシャー”に打ち勝ってプロの世界へと飛び込む

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トップ昇格が決まった浦和レッズユースの10番でキャプテン、MF堀内陽太

[9.24 高円宮杯プリンスリーグ関東第13節 浦和ユース 1-0 東京Vユース 埼スタ第2]

 浦和の10番。浦和のキャプテン。ただでさえプレッシャーの掛かる役割に、夏以降は『浦和のトップチーム昇格内定』という要素も加わった。ただ、もちろんそのすべてを乗り越えるだけの力があるからこそ、そのすべてを背負ってプレーしている。それがこのクラブのエンブレムを纏って、プロのステージで戦うことに、そのまま繋がっていくのだから。

「プロに入ったらまたイチからのスタートなので、1年目から試合に出るつもりで入りたいですし、足りないところは自分から監督やコーチや身近にいる選手に聞いて補いながら、しっかりいろいろなものを吸収して、試合にどんどん絡めていけたらなと思います」。

 常に100パーセントの力を出し切れる、とにかく真面目なナイスガイ。浦和レッズユース(埼玉)の10番にしてキャプテン。MF堀内陽太(3年=クラブ与野出身)は小さい頃から憧れていたクラブで、いよいよプロサッカー選手としての人生を歩み出す。

 “4連敗”だけは許されなかった。この日の相手は東京ヴェルディユース(東京)。今シーズンはプリンスリーグ、クラブユース選手権の関東予選と本大会、3度対戦してすべて負けていたが、「今週は練習が終わった後にみんなでヴェルディとどう戦おうかと話す時間も凄く増えて、それと同時に結構グラウンドに早く来たりとか、サッカーに対する気持ちも強くなっていって、今回こそはという気持ちで臨めました」と堀内はチームの雰囲気に手応えを感じていた。

 試合は浦和ユースが押し気味に展開。ただ、何度も決定機を掴みながら、なかなか1点を奪えない。それでも終了間際の後半45分にCKを得ると、堀内のキックをFW清水星竜(2年)がヘディングで合わせ、劇的な決勝ゴール。「気持ちが前面に出て勝てた試合なのかなと思いますし、個人的にも目に見える結果が欲しかったので、そこは良かったです」。堀内のアシストもあり、因縁の相手に競り勝った赤い歓喜が、試合後のピッチに広がった。



 今シーズンはキャプテンに指名されている。元来が真面目な性格。加えて前期はなかなかチームの結果も出なかったことで、池田伸康監督は堀内の苦悩を感じてきたという。「良いプレーをしなくてはいけない、チームを勝たせなくてはいけない、という責任感が強いので、本当に抱え込んでいるなと。それに『あの選手がトップに上がるんだよ』と言われていることに対しても、やらなくちゃいけないということで空回りしている部分もありますけど、それは関根(貴大)もそうでしたし、高校3年生でトップ昇格が決まっている選手というのは、僕たちが思っている以上に重たいものを背負っているんです」。

 本人も「考えることはだいぶ増えました。チームがうまく行っていない時に自分がどうしたらいいかとか、うまく行っていてもチーム内で何かがまとまらない部分は見られたりもするので、そこでチームとしてどう1つにまとめていくかとか、そこをどうして行こうかというのは常に考えるようになりました。阿部(勇樹コーチ)さんやノブさん(池田監督)とも話すんですけど、また家に帰って考えて、解決して、考えて、の繰り返しという感じです」。抱える想いを正直に吐露しつつ、少しずつ見えてきたキャプテンとしての振る舞いについても、こう語っている。

「もともと僕は人と積極的にコミュニケーションを取れるタイプではないんですけど、できるだけいろいろな人と喋るような“会話”を意識する中で、試合中にうまく行っていない人に声を掛けたり、うまく行っている人にも『ナイス、ナイス』と声を掛けることは意識していて、それによってチームの雰囲気も少しは良くなってくれているのかなとは思っているので(笑)、そこは積極的にチームを鼓舞する声だったり、細かいところを伝えるコーチングの声を出すことは意識しています」。



 指揮官はキャプテンの想いもわかった上で、ここからの成長に向けて温かいまなざしを向けている。「今週は彼とマンツーマンで練習をずっとやったんです。彼はやれて当たり前で、こんなに陽太と時間を過ごしたことが今までなかったんですけど、少し寄り添ったことで彼は笑顔になったし、ここを乗り越えて成長していってほしいなと。彼は来年からトップの世界に入るわけですけど、ここがゴールではないし、今の苦労が来年からの良いステップになる材料になってくれればと思います」。

 来年からは浦和レッズでプロの世界に足を踏み入れる。もともとサッカーを始めたきっかけも、両親がレッズファンだったから。小さい頃から何度も埼玉スタジアム2002を訪れ、赤いサポーターに染まったスタンドを見て、心を震わせてきた。

「もう嬉しいですよね。お父さんとお母さんがレッズが好きで、その影響で幼稚園ぐらいからサッカーを始めたので、レッズのチームの熱とか、スタジアムの雰囲気に凄く憧れていて、自分も『あのピッチに立ちたいな』と思っていましたし、ずっと一番最初に叶えたい目標として『レッズでプロになること』を目指していたので、素直に凄く嬉しかったです」。

 昨年末に負ったケガの影響でキャンプには帯同できず、まだトップの練習にはそこまで参加できていないものの、参考にすべき選手のイメージは十分にでき上がっている。「役割的には岩尾(憲)選手と似ているところがあると思っているので、そこは参考にしていますし、伊藤敦樹選手のボランチからの攻撃参加は凄く魅力的だなって。ゲームを組み立てながらも自分が点を獲れれば一番理想なので、その2人は特に試合もチェックしています」。目指すは岩尾憲と伊藤敦樹のハイブリッド。何とも期待感の高まる理想像だ。

 話す言葉も実に謙虚。トップ昇格に当たって評価されたであろうポイントを尋ねられても、「頑張るところですかね。凄く技術があるとか、特徴的な何かがあるというよりは、『当たり前のことを当たり前にやる』ことをずっと意識してきていたので、そこがもしかしたら買われたのかなと思います(笑)」とのこと。だが、相手の懐深くまで飛び込める守備のアグレッシブさと、セカンドボールの予測の速さはこの年代のトップレベル。これからの成長次第で、レッズの未来を担い得る素材であることは間違いない。

 良い形で新たなスタートを切るためにも、ユースラストイヤーにチームで成し遂げたいことも明確過ぎるほど明確だ。「目標は今年の初めからAチームはプレミア昇格で、BチームもS2(埼玉県2部)リーグに昇格することなので、自力では難しいかもしれないですけど、まずはそこをひたすらに目指し続けて、自分たちができることを、勝つことを、1つ1つ丁寧に突き詰めていきたいなと思っています」。

 常にユニフォームを“パンツイン”する姿も、池田監督の浦和ジュニアユース時代の教え子で、その献身性がプロでも評価されている戸嶋祥郎(柏レイソル)を彷彿とさせる真面目さの現れ。サッカーと真摯に向き合う堀内の未来には、彼と時間をともに過ごしてきた多くの人の夢も、幾重にも一緒に重なっている。



(取材・文 土屋雅史)
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