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3年生の執念が手繰り寄せた久々の歓喜。関東一は桐蔭学園に競り勝って3か月ぶりの公式戦勝利!

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関東一高は3か月ぶりの公式戦に歓喜爆発!

[10.1 高円宮杯プリンスリーグ関東2部第11節 関東一高 1-0 桐蔭学園 駒沢補助]

 結果が出た次の代なんて、苦しいに決まっている。注目され、比べられ、負ければ「今年のチームは……」と囁かれる。特に3年生はそのプレッシャーと1年間に渡って戦い続けなければいけないのだ。でも、きっとそれと向き合った者だけが得られるものが必ずある。彼らは本当に少しずつ、それが何なのかが見え始めてきているのではないだろうか。

「自分たちの代が世間から弱いと思われるのが一番悔しくて、結果だけ見たら本当に弱いのかもしれないですけど、自分たちは全然弱くないと思っていますし、挑戦してきた結果がうまく行かなかっただけであって、別に後ろは向いていなかったんです。そこで今日はやってきたことと結果が合致した部分が少しあったのかなって」(関東一高・本間凜)。

 3年生の執念が際立った、3か月ぶりの公式戦勝利。1日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープリンスリーグ関東2部第11節、昨年度の選手権全国4強の関東一高(東京)と桐蔭学園高(神奈川)が対峙した一戦は、関東一が前半21分にFW本間凜(3年)が挙げたゴールを、まさに全員守備で守り抜き、1-0で勝利。リーグ戦での連敗を3でストップし、貴重な勝ち点3をもぎ取った。

「今日のゲームの入りは、パワフルに力を持って入れたと思います」とFW杉山諄(3年)が話したように、立ち上がりから関東一が攻撃への意欲を打ち出す。右のDF川口颯大(2年)、左のDF矢端虎聖(3年)の両ウイングバックも高い位置に押し出し、2トップの本間と杉山を生かしつつ、サイドの深い位置へと侵入。15分には本間が単騎で抜け出す決定機を迎え、ここは桐蔭学園のGK入江倫平(3年)のファインセーブに阻まれたものの、ゴールの香りを漂わせる。

 すると、先制点を奪ったのもホームチーム。21分。左サイドの連携からMF湯田欧雅(3年)のパスを受けた矢端は、鋭い切り返しから絶妙のクロス。ニアに潜った本間は「センターバックのブラインドみたいな形になって、ちょっと目をつぶりながら頭を振ったら、たまたま肩のあたりに当たって、気持ちで押し込んだ感じです(笑)」という“肩シュート”をゴールにねじ込んでみせる。悩めるストライカーが公式戦で得点を挙げるのは実に3か月ぶり。3年生の連携で関東一がスコアを動かす。

 ビハインドを負った桐蔭学園は、繋ぐ意識も持ちながら前線のFW山形真之(3年)をシンプルに裏へ走らせるアタックも。加えて右サイドハーフのMF菅沼仁徳(3年)、ヒールリフトも披露した左サイドハーフのMF阿部大輝(3年)が繰り出すドリブルもアクセントにチャンスを窺うも、なかなか手数を繰り出せない。最初の45分間は関東一が1点をリードして終了した。

 後半はリーグ5試合無敗中の桐蔭学園が、攻勢を強める。7分にはMF中村荘太(3年)のパスを菅沼が繋ぐと、ポケットに潜った右サイドバックのDF三須友喜(3年)がクロス。ここは関東一のDF倉持燿(3年)が懸命にクリアするも、複数人の関わる好アタックを。19分にも左サイドからクロス気味に阿部が放ったシュートが枠を襲うと、関東一のGK中村颯斗(1年)にファインセーブで回避されるも、惜しいシーンを作り出す。

「中盤の選手からのフォワードへの縦パスはなくそうという感じだったので、サイドをある程度高く取られてしまうのは仕方なかったんですけど、そこの統一感だけはハッキリ持っていました」と小野貴裕監督も話した関東一は、劣勢の中でも右からDF池田歩柊(3年)、倉持、DF鹿子島尚人(2年)で組んだ3バックと中盤アンカーのMF栗栖晴己(2年)を中心に、守備の強度を保ちながら中央を閉じて対抗。入ってくるクロスもきっちりと跳ね返し、ゴールに鍵を掛け続ける。

関東一高DF池田歩柊が身体を張ってクリア


 負けたくない桐蔭学園は終盤まで攻める。45分。途中出場で違いを見せていたレフティのMF谷琉真(2年)の右クロスから、10番を背負うこちらも途中出場のFW中本竣介(3年)のシュートが枠を捉えるも、中村がビッグセーブで仁王立ち。45+3分はFKのチャンス。左寄り、ゴールまで約25メートルの距離から中本が直接狙ったキックは、三たび1年生守護神の中村がファインセーブ。関東一の高まるチーム全員の集中力。揺るがぬ堅陣。

 そして、5分のアディショナルタイムも経過すると、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。「本当に今日は勝つことしか考えていなかったので、ゴールを決めたのがたまたま僕だっただけで、守備陣が頑張ってくれたのも大きいです。守備陣に感謝したいですね」とは殊勲の決勝弾を叩き出した本間。リーグ最下位に喘いでいた関東一が、無失点で5試合ぶりの白星を手繰り寄せ、久々の歓喜に包まれた。

 関東一は最上級生が苦しんでいた。インターハイで全国大会のメンバーに入った3年生は、全体の半分に満たない9人。「インハイが終わって和倉(ユース大会)は3年生だけで行って、調子も良かったので、そのあとも監督はずっと3年生を使い続けてくれていたんですけど、僕らがプレッシャーに弱い集団になってしまっていたので、監督のことも裏切ったところもありましたし、コーチ陣にも期待してもらったのとは違う方向に行ってしまったんです」と明かすのは本間。夏までの彼らが難しい時期を過ごしていたことは間違いない。

 インターハイ後もプリンスでは結果が出ず、9月には悪夢の3連敗も。ただ、この苦境はむしろ逆に吹っ切れる要因を連れて来た。「これまで自分たちは流れが悪かったので、リーグ戦が1週空いたその時期に、全員で『もう1回元気よく、明るくやろう』ということを話したんです」。チームでの共通意識について語った杉山は、インターハイの“メンバー外”組。この日のスタメンではプレースキッカーとして存在感を示したMF井上樹(3年)も、3バックの中央で奮闘した倉持も、夏の全国はベンチにすら入っていない。高校最後の1年の“前半戦”で悔しい想いを味わった彼らが、このシーズン終盤も見えてきたタイミングで、ようやく巡ってきたチャンスを生かしつつあることは見逃せないポイントだ。

 小野監督の言葉が興味深い。「今までいいことがありすぎましたし、いい想いをしすぎましたし、絶対にもっと苦しかった人たちはたくさんいて、それを僕らは忘れていたんだろうし、本当に苦しくなってみないと、『こんなに勝てないんだな』っていう感情はわからないなって。勝つ難しさは今年の1年間で本当に経験できているので、やっぱり勝つことって素晴らしいことですよね。だから、これからの方がもっと苦しいし、難しいと思いますけど、選手権と残りのプリンスでちょっとだけ、去年の選手権ほどあんなにブワッとしたものではなくていいので、そのプラスアルファのエネルギーを他の人からもらえるように、もう1回自分たちがどこからそういう力を引っ張っているのかだけは、ちゃんと理解しないとなって思っています」。

 彼らが挑むのは選手権予選の東京3連覇。もちろんそれが簡単ではないことは百も承知。だからこそ、昨年度の大会のような“プラスアルファのエネルギー”をどう引き寄せるかが、間違いなく大きなカギを握ってくる。「先輩たちがこの2年間は全国に連れて行ってくれたので、今度はその光景を後輩に見せるだけですし、自分を含めて3年がもっともっと上を目指して追求していかないといけないと思います」(本間)。

 もっともっと、上へ。関東一のさらなる歴史を築いていくための挑戦には、チームを支える3年生たちの底力こそが必要不可欠だ。

関東一高の絶対的な中心、DF矢端虎聖


(取材・文 土屋雅史)
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