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[プレミアリーグWEST]3度のビハインドに執念で食らい付いた“聖地”の激闘。清水ユースは首位・鳥栖U-18と打ち合って3-3のドロー!

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“聖地”アイスタの激闘は打ち合いの末に3-3でドロー決着

[10.8 高円宮杯プレミアリーグWEST第17節 清水ユース 3-3 鳥栖U-18 アイスタ]

 首位相手に2度だけでなく、3度も追い付いてもぎ取った勝ち点1。とりわけ最後は後半のアディショナルタイムに勝ち越されながら、そこからまた同点弾を叩き出したのだ。どう考えても普通のゲームではない。その理由は、誰よりもそれを理解している“レジェンド”が力を込めてこう語る。

「やっぱり“ここ”じゃないですか。この場所が力を出してくれていると。当然クラブの聖地ですし、ここに立つ意味というのは選手たちももちろん感じていますし、『喜びもあるだろうけど、責任もあるよ』ということは彼らに伝えています。『ここでは絶対に負けちゃダメだよ』と。だから、引き分けで勝ち点1かもしれないですけど、凄く大きかったんじゃないかなと思います」(清水ユース・澤登正朗監督)。

 聖地・日本平で繰り広げられた白熱のシーソーゲームは、激しく打ち合ってのドロー決着。8日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第17節、11位の清水エスパルスユース(静岡)と首位のサガン鳥栖U-18(佐賀)が激突したゲームは、アウェイの鳥栖U-18が3度に渡ってリードを奪ったものの、ホームの意地を見せた清水ユースがすべて追い付く執念を披露し、ファイナルスコアは3-3。勝ち点1を分け合っている。

 先にリズムを掴んだのは鳥栖U-18。「自分たちが使いたいスペースはうまく使えていて、攻撃のところは良くできていた部分の方が多かったかなと思います」とチームの心臓、MF坂井駿也(3年)が話したように、スムーズにパスを繋ぎつつ、スペースへと差し込む時は一気呵成に。5分にトップチーム昇格内定のFW楢原慶輝(3年)が枠へ収めたシュートは、清水ユースのGK北村風月(2年)がファインセーブで凌いだものの、惜しいシーンを創出すると、10分にもセットプレーの流れからDF林奏太朗(2年)の左クロスに、こちらもトップ昇格内定のDF大里皇馬(3年)が合わせたヘディングはクロスバーにヒット。ゴールへの意欲を前面に押し出す。

 良い流れそのままに生まれた先制点は18分。丁寧なビルドアップから一転、DF山本楓大(3年)のパスを受けた坂井はダイレクトでラインの裏へ。走ったFW堺屋佳介(2年)が完璧な折り返しを中央へ流し込むと、楢原のシュートは綺麗に左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「この試合の前のシミュレーションから、あそこが相手のウイークポイントだと話していて、ずっと狙っていました」(坂井)。狙い通りの形から生まれた美しい一撃。鳥栖U-18が1点のリードを奪う。

 ただ、ビハインドを背負った清水ユースも、少しずつ守備時の対応が整理されていく。「相手のビルドアップに対して、前のところの行き方はいろいろ修正しました」とは澤登監督。効果的に使われていたアンカーの“消し方”も含めて、徐々にプレスもハマり始めた中で、34分にはセットプレーのチャンス。MF星戸成(2年)が蹴り込んだ左FKに、最後はゴール前の混戦からDF和田晃生(3年)が蹴り込んだボールが、カバーに入ったDFを弾いてゴールラインを越える。ホームチームは前半唯一のシュートが同点弾に。最初の45分間は1-1でハーフタイムへ折り返した。

 1度のピンチで追い付かれた鳥栖U-18は、後半開始早々にその攻撃力を見せ付ける。4分。坂井が鋭い縦パスでスイッチを入れると、顔を出したFW與座朝道(1年)はスルー。右へワンタッチで流したFW山崎遥稀(2年)は楢原からのリターンを受け、DFともつれながら左スミのゴールネットへボールを流し込む。まさにトレーニングでの積み重ねが窺えるような一発。2-1。再び鳥栖が前に出る。

 畳み掛けるアウェイチーム。8分。ここも坂井のクサビを山崎がダイレクトで落とし、楢原がパーフェクトなスルーパスを與座へ。最後は必死に戻った清水ユースのDF渡邊啓佳(3年)が間一髪で凌いだものの好トライ。10分。與座のパスからMF松岡響祈(3年)が打ち切ったミドルは北村がキャッチ。14分。途中出場のFW木戸晴之輔(3年)が浮き球でラインの裏へ落とし、走り込んだ堺屋の左足ボレーはわずかに枠の上へ外れるも、漂う追加点の空気。

 ところが、次の得点はホームチームに記録される。30分。DF後藤啓太(3年)のフィードを胸トラップで収めた渡邊は、頭上を抜く“シャペウ”でマーカーを剥がし、そのまま運びながら右クロス。ニアに入ったFW斉藤柚樹(3年)がスライディングで合わせたボールはゴールネットに吸い込まれる。「相手が飛び込んできて、そこでうまくかわすことができたので、クロスは中のことは見ずに『ここにいるだろう』という信頼の元に上げました」(渡邊)「右の啓佳から来るボールは小学校の頃から変わらないので、昔から感覚が合っているなと思います」(斉藤)。小学生時代から同じチームで戦い続けてきた両者が阿吽の呼吸で同点弾を強奪。2-2。スコアは振り出しに引き戻された。

 右サイドバックは、その瞬間を狙っていた。終了間際の44分。山本は坂井のパスを高い位置で受けると、「縦にえぐったら行けるかなと思って」ペナルティエリア内へ潜り込む。たまらずマーカーが倒し、主審はホイッスルを吹く。土壇場でPK獲得。キッカーは坂井が名乗り出る。「PKは自分は蹴ると決めていましたし、決める自信はありました」。キックは左。北村も同じ方向に飛んだが、わずかに及ばない。3-2。鳥栖U-18がこの日3度目のリードを執念で掴み取る。

 それでも、試合はまだ終わっていなかった。45+4分。渡邊の縦パスに抜け出したMF加藤大也(2年)が右からクロス。40分に投入されたFW関口航汰(中学3年)がエリア内でマーカーともつれて転倒したのを見て、笛を鳴らした主審はここもペナルティスポットを指し示す。この夏に加入したばかりの“中学3年生ストライカー”も、自ら手にしたPKを蹴ると逞しく主張したものの、「中3であれは凄いと思いますけど、そこは自分が高3として、エースとして決めなきゃなと思っていました」という斉藤にキッカーは決まる。

 鳥栖U-18の守護神、GK栗林颯(3年)と斉藤が11メートルを挟んで向かい合うのは、この1か月半で3度目だった。8月末に開催されたSBSカップ。静岡ユースの斉藤はU-18日本代表の栗林相手に、試合中に蹴ったPKは決めたが、PK戦でのキックは止められている。その時はどちらも向かって右に蹴って“1勝1敗”。「さすがに意識しましたけど、今回は左に蹴ってみようと思いました」(斉藤)。キックは左。栗林は逆に飛び、ゴールネットが揺れる。

「何とか引き分けに持っていけたのは、選手たちが最後まで諦めずに頑張ったからだと思うので、そこは評価したいなと思います」(澤登監督)「最後の試合の締め方であったり、ゴールを決めた後の締め方であったり、そういうところで全員に隙があるのは自分たちの力のなさだと思います」(坂井)。ファイナルスコアは3-3。壮絶な打ち合いは両者に勝ち点1を振り分ける結果となった。

 冒頭で指揮官が話したように、“聖地”がホームチームへもたらしたエネルギーはやはり見逃せない。

「試合前からアイスタでできるということで気持ちも入っていましたし、去年からここでは負けていないので、そういう意味でも絶対に負けられないというプレッシャーもありましたし、アイスタでやれる意味はみんな理解しながらプレーできました」と斉藤が話せば、「ここは誰もがやりたいところですし、小学生からエスパルスに関わってきた自分がそこでプレーできているというのは本当に嬉しい気持ちもありますし、やっぱり責任も感じています。ここでやるのはいつもと違う雰囲気ですし、気持ちも入るので、素晴らしい環境でやれていますよね」と口にしたのは渡邊。勝負への強い執念をこのピッチが後押ししたことは間違いなさそうだ。

 清水ユースはここから戦うリーグ7試合のうち、ここまで3勝2分け1敗と好成績を残しているホームでの試合が、実に5試合も残されている。

「首位のチームにこうやって最後に追い付いたことは、間違いなく来週にも繋がりますし、あとはほとんどがホームゲームになるので、我々としてはホームで絶対に勝ち点3を獲って、少しでも良い順位に浮上したいと思います」とは澤登監督。この日の勝ち点1をプレミア残留へと結びつけるべく、終盤戦に向けて彼らはアクセルを踏み込めるか。王国のオレンジが3-3から期す逆襲、要注目。

(取材・文 土屋雅史)
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