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貫くのは「諦めない才能と自信を育てること」。成長を続ける大津は名古屋U-18に劇的な逆転勝ちで“全カテゴリー勝利”も達成!

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大津高は2度のビハインドを跳ね返して堂々の逆転勝利!

[10.9 高円宮杯プレミアリーグWEST第17節 名古屋U-18 2-3 大津高 トヨタスポーツセンター 第2グラウンド(人工芝)]

『最後まで戦う』『最後まで走る』と口にするのは簡単だが、実際に最後まで戦い切り、走り切るのは、決して簡単なことではない。ただ、このチームはいつだってそれをやり切ろうと、タイムアップの瞬間まで決して諦めずに、最後の一滴を絞り出す覚悟を携えている。

「僕が一番大事にしているのは『諦めない』という才能なので、それを体現してくれている子供たちを見ていて、凄く頼もしく見えてきました。帝京魂だけじゃなくて、大津魂もあるんですよ(笑)」(大津高・平岡和徳総監督)。

 煌めいた“大津魂”で気合の逆転勝利、完遂。9日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第17節、6位の名古屋グランパスU-18(愛知)と10位の大津高(熊本)が対峙した一戦は、名古屋U-18が2度リードしたものの、2度追い付いた大津が後半41分にFW山下基成(3年)の決勝弾で3-2と逆転勝ち。Jクラブユース勢相手に堂々の連勝を飾っている。

 9月25日にも両者は第6節延期分のゲームを戦っており、その時はアウェイの名古屋U-18が1-0で勝利を収めている中で、その14日後に迎えたリターンマッチ。先に決定機を掴んだのは大津。前半6分。「特に前半は自分の持ち味を結構出せたかなと思っています」という10番のMF田原瑠衣(3年)が右サイドから得意の左足でピンポイントクロス。飛び込んだFW小林俊瑛(3年)のヘディングは枠の左に外れるも、ホットラインから好機を創出。アグレッシブな形でゲームに入る。

 ピンチの後にチャンスあり。7分。名古屋U-18は右サイドをMF牧嶋波亜斗(3年)が駆け上がり、入れたクロスが大津の選手の手に当たると、主審はPKを指示する。キッカーは牧嶋。左に蹴ったキックは、U-17日本代表にも選出された大津のGK西星哉(3年)も方向は合っていたものの、わずかに届かず。1-0。名古屋U-18が先制点を奪った。

 ビハインドを負った大津も「先制されてもチームとして士気が落ちなかったですね」と小林が話したように、右のDF坂本翼(3年)と田原、左のDF田辺幸久(2年)とMF中馬颯太(3年)と、両サイドが果敢に仕掛ける形を貫きつつ、守備でも個の力の強い相手に粘り強く対応。21分には名古屋U-18もMF鈴木陽人(2年)のラストパスから、FW貴田遼河(2年)が枠内シュートを放つも、ここは西がファインセーブで応酬。追加点は許さない。

 すると、突き付けたのはセットプレーでの優位性。32分。左サイドで獲得したCK。180センチオーバーの選手を4人揃える中から、MF浅野力愛(3年)の高精度キックに後方から飛び込んだのは187センチのMF碇明日麻(2年)。高い打点から叩いたヘディングが右スミのゴールネットを揺らす。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

 やられたら、やり返す。ホームチームも黙っていない。DF西凜誓(3年)のヒールパスに抜け出した貴田のシュートは西に阻まれたが、直後の左CK。鈴木が丁寧に蹴り込むと、貴田のフリックに反応したDF大田湊真(2年)はマーカーを巧みな駆け引きで出し抜き、ボレーをゴールへ流し込む。42分。名古屋U-18が再びリードを手にして、最初の45分間は終了した。



 後半もホームチームは「オールタイムでアクションを起こしてプレスをということを求めている」と古賀聡監督が掲げるスタイルを体現。MF野田愛斗(2年)がことごとくセカンドボールを回収すれば、MF宇水聖凌(3年)は左右にパスを散らしつつ丁寧にゲームメイク。右SB小嶋健聖(3年)と左SBの西も、相手のサイドアタックに粘り強く対応し、着々と時計の針を進めていく。

 続いた一進一退の流れを打ち破ったのは、大津が切った途中出場のジョーカー。24分。右サイドに解き放たれたMF岩崎大翔(3年)が、果敢に相手の密集するエリア内へ飛び込むと、マーカーに倒されてPKを獲得する。スポットに向かうのは9番を背負うキャプテン。「PKはもう絶対自分が蹴るというのは決めていますし、試合中に何もできていなかったので、何かしないとなとは思っていました」という小林は、ゴール右スミヘ力強いキックを成功させる。2-2。譲らぬ両者の熱戦は、再びタイスコアに。



 その男は「ヒーローになろう」と思っていたという。ドロー決着も見えてきた41分。西のキックから、岩崎が仕掛けたこぼれ球が山下の目の前に現れる。「左サイドの(古川)大地と右サイドの(岩崎)大翔が追い越してきていましたけど、パスを出すことは考えていなかったです」。中央を左へ流れながら左足一閃。軌道は右サイドのゴールネットへ吸い込まれていく。

「今日も俊瑛が注目されていたんですけど、その中で『自分もやってやるぞ』という気持ちは陰ながらいつも持っています」と笑った11番が挙げた、執念の逆転弾で勝負あり。「2週間前にやられているところがあったので、僕以上に子供たちがリベンジという気持ちでしっかりやってくれましたし、個の上手さは当然Jリーグの下部組織の皆さんは持っているので、チームとして、組織として、良く対応してくれたと思います」とは平岡総監督。大津が“2週間前”にホームで敗れた借りをきっちりアウェイで返し、貴重な勝ち点3を上積みする結果となった。

「前期は失点が多くて、点が獲れないというのが課題でしたけど、夏の遠征で結構成長できたかなと思っていて、プレミアリーグにも全員が慣れてきたので、後期に入ってからはJユース相手にもやれている手応えがあります」と田原も話した大津は、インターハイ以降のプレミアで4勝2分け2敗と好調をキープ。その4勝はガンバ大阪ユース、セレッソ大阪U-18、清水エスパルスユース、名古屋U-18といずれもJユース勢。首位を快走しているサガン鳥栖U-18との一戦でも、2点のビハインドを追い付いてのドロー。確実にチームの奮闘を勝ち点に結び付けてきた。

 平岡総監督も「良いチームとたくさんゲームができていますし、僕たちの選手を育てるベースは『自信を育てること』なので、そういった中で自信を付けてきてくれたかな。この夏はゲームアレンジや山城(朋大)監督を中心にコーチングスタッフが組んだ素晴らしいメニューのトレーニングが充実したものだったと思いますね」と手応えを口に。選手たちが身に付けつつある自信は、この日の堂々たる90分からも十分に窺える。

 実はこの前日。セカンドチームはプリンスリーグ九州で、サードチームは県リーグで、1年生チームは球蹴男児U-16リーグで、すべて勝利を収めていた。「今週は全部のチームが勝っているので、『トップだけ負けられないな』とハーフタイムに話していました」と明かしたのは田原。小林も「プリンスでは鳥栖のセカンドに勝って、その中での今日だったので、やっぱりトップチームが負けられないという想いはありましたし、気持ちが凄く入っていたので、勝てて良かったなと思います」と言及している。結果的に今週末は全カテゴリーで勝利をゲット。この一連の“相乗効果”にも、好転しているチーム状況が垣間見える。

 昨年度のチームは高校選手権で全国準優勝を勝ち獲った世代。その次の代にもちろんプレッシャーがないはずはないが、「そういったネガティブなところではなくて、『素晴らしいお手本がある』というポジティブな材料にしながら選手たちは取り組んできてくれていますよ」と語る平岡総監督が続けた言葉に、今年のチームへの信頼が滲む。「去年もたくさんの方に期待されたチームだったんですけど、今年もそこに追い付いてきていますし、違った部分でストロングが明確になって、僕自身も楽しみなチームに成長してきています」。

 諦めない才能を伸ばしつつ、丁寧に自信を育んできた2022年の大津。苦しんで、もがいて、それでも着実に成長を続けている彼らが『冬の主役候補』であることに、疑いの余地はない。



(取材・文 土屋雅史)
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