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[MOM4130]C大阪U-18MF伊藤翼(3年)_もう涙は必要ない。桜の元気印が大一番で披露した変化と成長と最高の笑顔

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チームメイトのゴールに最高の笑顔を見せるセレッソ大阪U-18MF伊藤翼

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.4 高円宮杯プレミアリーグWEST第22節 清水ユース 1-4 C大阪U-18 アイスタ]

 もちろん2ゴールを決めたMF木實快斗(1年)の勝負強さは際立った。圧巻の3アシストを記録したMF清水大翔(2年)の煌めきも凄まじかった。ただ、実に13試合ぶりの勝利を掴んだ90分間をトータルで考えると、やはりこの男の存在を忘れるわけにはいかない。

「プレミアの後期が始まってから全然勝てなくて、自分たちのサッカーはやり続けていたんですけど、だいぶ苦しい状況でしたね。でも、本当にサポーターの皆さんの声援が力になっていたし、最終節でプレーオフに繋げられたのは良かったです」。

 持ち前の明るさとたゆまぬ努力で、仲間にいつでもエネルギーを注入し続けるセレッソ大阪U-18(大阪)の元気印。MF伊藤翼(3年=セレッソ大阪 西U-15出身)の攻守に渡る献身が、苦しみ続けたチームに歓喜を引き寄せた。

 夏のクラブユース選手権で勝ち獲った日本一から4か月。プレミアの日常に戻ったC大阪U-18には、1つの白星も付いてこなかった。「先制点は獲れるんですけど、追加点を決め切れることがなかなかなくて、自分たちが崩されたわけではないのに、セットプレー一発でやられて負けるようなことが多かったですね」。伊藤がそう振り返ったように、試合は支配していても、終わってみれば結果は出ない。

 自動降格圏の11位で迎えた最終節。チームは全員でのミーティングを行い、覚悟を決めてアウェイのIAIスタジアム日本平へ乗り込んできた。相手はプレーオフ圏にいる10位の清水エスパルスユース。勝てば順位は引っ繰り返る。前半戦はいろいろなポジションで出場することも多かったが、今や不動のボランチの地位を築き、この重要な一戦でも当然のようにスタメンに指名された伊藤の中で、為すべき仕事はしっかりと整理されていた。

「自分は前にどんどんボールを付けていくことが役割ですし、守備も全体をうまく戻すところは求められていると思います」。つまりは攻守の中心を担うということ。舞台は整っている。やるしかない。16番が勝負のピッチに駆け出していく。

 とにかく攻守に効いていた。「今日も前を向いてリツや誓梧にどんどん付けていけたと思います」。攻撃ではビルドアップに加わるのはもちろん、右のMF皿良立輝(2年)、左のFW末谷誓梧(3年)へきっちり展開。時にはエリア付近まで駆け上がり、ゴールへ直結する局面を窺うシーンも作り出す。

「大翔は前に行った方が長所も発揮されると思いますし、攻撃に専念してもらえるようにというのは心がけているので、そういうところは出せたかなと」。守備では大きな声で巧みに周囲を使いつつ、シビアなゾーンでは身体を張り続ける。清水との関係性も抜群。ピッチのど真ん中でチームのバランスを保ち続ける。



 開始早々に先制されたものの、前半のうちに追い付くと、後半の45分間はC大阪U-18のゲーム。2点目。3点目。4点目。得点を重ねるたびに、あるいはゴールを挙げた選手以上に大喜びしながら、伊藤はチームメイトの歓喜の輪に突っ込んでいく。

「自分たちの技術を発揮できたことはもちろんですけど、1年生も本当にチームを盛り上げてくれましたし、そういうところが今日の試合は今まで以上にあったので、本当にチームが1つになってやれたことが大きいと思います。ピッチサイドから『ナイス!』とか言ってくれるのが嬉しかったです」(伊藤)。一体感を纏ったチームは、崖っぷちから生還した。

 忘れられない記憶がある。昨年のシーズン終盤。チームが結果を出し始めたものの、その輪に加われていない現状にポジティブな感情を持てなかった。そのことを見抜いていた島岡健太監督は、タイミングを見て伊藤と話し合う機会を持つ。

「『いつになったら変われるんや?』って言われたんです。チームは勝てていたんですけど、自分が結果を出すことも、チームに貢献することもできていない中で、自分に対して本気になれていなかったというか、周りに流されてやっていたところがあったんです。監督はそれをわかっていて、だからこそ自分に言ってくれたんですけど、それが悔しくて……」。自分でも薄々は感じていた部分への厳しい指摘。気付けば、伊藤は泣いていた。

 島岡監督もその時を懐かしそうに振り返る。「昔から翼を知っているスタッフも『翼が泣くなんて考えられない』と言っていましたけど、アイツの中では大きなことだったんじゃないかなって。あれから翼は変わりましたよ。ウチのチームは(川合)陽がお父さんみたいな感じで、そこを助ける役割として、翼がちょっとした周りのできない部分も補うようなプレーもできるようにはなってきていますし、ちょっと他人行儀だったような部分が自分事のようになって、自分のことのように味方のことをプレーでサポートしてあげられるようになっていることも、見ていて成長やなとは思いますね」。

 関西大を率いていた頃から、選手の気持ちを過不足なくすくい上げることに長けていた指揮官らしいエピソードだが、伊藤本人も自身の変化を感じている。「今年は3年生にもなりましたし、ボランチをやるようになってから、より最高学年としての自覚みたいなものを持つようになって、そこからプレーが変わっていったと思います」。

 このチームで積み上げてきた3年間の集大成のような一戦で、伊藤がこれだけのパフォーマンスを披露できたことは、あの涙を流した出来事を経て、着実に心身両面で成長を続けてきたことの、何よりの証明だったではないだろうか。

 だからこそ、最後は笑って終わりたい。正真正銘のラストバトル。プレミアリーグ残留を懸けたプレーオフに、すべてを出し尽くす決意だって、もうとっくに定まっている。「今の1,2年生のためにも、今まで先輩が残してきてくれたこの舞台を次に繋げるためにも絶対に勝って、残留したいと思います」。

 もう涙は必要ない。伊藤は最高の仲間と、最高の笑顔で1年間を締め括るため、翼を纏ったかのような軽やかさで、広島でも90分間ピッチを駆け抜け続ける。



(取材・文 土屋雅史)
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