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目指すは「ちょっと早めのクリスマスプレゼント」。両SBのゴールで興國に逆転勝利を収めた帝京が初のプレミアに王手!

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帝京高は右SB島貫琢土(2番)と左SB入江羚介(3番)のゴールで逆転勝利!

[12.9 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ1回戦 興國高 1-2(延長) 帝京高 バルコムBMW広島総合グランド]

 それは満員の国立競技場ではなかったかもしれない。日本一を懸けた戦いでもなかったかもしれない。でも、この仲間とできる最後の試合に変わりはない。だから、勝ちに行く。全力で勝ちに行って、みんなでいつものように笑い合いたい。それが今の彼らの最大のモチベーションだ。

「本当に自分たちは何回も言い聞かせていたんですけど、このプレーオフは最大でも2試合で、負けたら1試合だけなので、もう楽しもうって。もうやり切るしかないって。自分たちがしっかり全部出し切れるようにということだけ考えていました」(帝京高・入江羚介)。

 2人のサイドバックがゴールで輝いた、延長戦での劇的な勝利。高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2023に参入する権利をかけた高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2022 プレーオフ(広島)が9日、開幕。1回戦6試合が行われた。Eブロックの興國高(関西1/大阪)と帝京高(関東2/東京)が激突した一戦は、前半のうちに興國が先制したものの、後半13分に右サイドバックのDF島貫琢土(3年)が、延長前半9分に左サイドバックのDF入江羚介(3年)が、ともにコーナーキックからゴールを奪った帝京が鮮やかな逆転勝利。因縁の相手、米子北高(中国1/鳥取)の待つ11日の2回戦へと駒を進めている。

 先にチャンスを掴んだのは帝京。前半5分。左サイドでのCKをMF田中遥稀(3年)が蹴り込み、ニアに飛び込んだ入江のヘディングは興國のGK山際壮太(3年)のファインセーブに阻まれるも、あわやというシーンを創出すると、以降もいつも通りの丁寧なビルドアップから、テンポアップのタイミングを図り続ける。

 一方の興國はやや背後をシンプルに狙うアタックが増えていく中で、23分にはCKのチャンス。左からMF千葉大舞(2年)が丁寧なキックを蹴り入れ、ゾーンで構える帝京ディフェンスの中にフリーで突っ込んだDF西岡隼平(2年)のヘディングはクロスバーを越えたが、こちらもセットプレーからゴールを窺う。

 スコアは意外な形で動く。40分。帝京のビルドアップが乱れた隙を見逃さなかったのは、そこまでもハードワークを続けていた興國のMF岡野真拓(3年)。こぼれ球を拾い、GKの位置を確かめると、躊躇なく放ったループシュートは30メートル近い距離をものともせず、完璧な軌道でゴールネットへ吸い込まれる。3年生MFの美しい先制点。興國が1点をリードして、前半の45分間は終了した。

「今までやってきたサッカーを覆してまで、ビルドアップを省略して、裏返しにしてからセカンドボールを拾うようなことはやっていないわけだから、『失点したけど気にするな』と。『1点入ったらどうにかなるぞ』と控え室で言っていましたけど、1人1人の目は死んでいなかったですね」。帝京を率いる日比威監督はハーフタイムの選手たちの様子をこう振り返る。

 後半13分。カナリア軍団の右サイドバックが羽ばたく。右サイドで手にしたFK。「失点は自分のせいだったので、何とか取り返そうと思っていました」と語る田中がニアへ鋭いボールを入れると、「遥稀のボールを信じて走っていきました」という島貫がヘディングで合わせたボールは、ファーサイドのゴールネットへ弾み込む。

「遥稀が凄く良いキックを蹴ってくれて、そこで触れればいいと思って飛んだら、当たって入ったという感じで、本当にいつも遥稀のボールに助けられています(笑)。感謝しかないです」と田中へと感謝しきりの島貫が貴重な同点弾。1-1。試合は振り出しに引き戻された。

 この1点が帝京のアタックを加速させた。左サイドにMF山崎湘太(2年)を、1トップ下にMF土本瑶留(2年)を投入し、ドリブルでの推進力を強化。右サイドに回ったFW伊藤聡太(3年)と最前線のFW齊藤慈斗(3年)が攻撃にアクセントを加える。さらに圧巻のパフォーマンスを見せたのはボランチのMF押川優希(3年)。いつもの優雅なパス捌きはもちろん、鬼気迫るボールキープで前進するシーンもたびたび披露し、この一戦に懸ける執念を前面に打ち出し続ける。

 ただ、興國にも意地がある。DF常藤奏(3年)とDF西川楓人(3年)のCBコンビが最後の局面で身体を張れば、キャプテンマークを巻く横浜FC内定のMF宇田光史朗(3年)はセカンド回収に奔走しつつ、攻撃へと切り替える瞬間を冷静に狙う。45+4分は帝京に決定機。左サイドを切り裂いた山崎のシュートは、山際がファインセーブで回避。90分間では決着付かず。勝敗の行方は10分ハーフの延長戦へ委ねられる。

 延長前半9分。カナリア軍団の左サイドバックが咆哮する。左サイドで獲得したCK。不動のプレースキッカー、田中が丁寧なキックを打ち込むと、「正直に言うと、自分の中では逸らしたところに誰かが入ってきてというイメージだったんですけど」と笑った入江がニアで頭に当てたボールは、フワリとした軌道を描いてゴールネットへ吸い込まれる。

「ボールを逸らした後に後ろを振り返っても見えなくて、みんなが叫んでいたので、とりあえず自分も叫んでおこうと思って、流れに任せて『うわ~!』と言った感じでした。そうしたら、みんなが自分の方に向かってきて、『ああ、オレだな』って。それで喜んだんです。え?自分のゴールですよね?(笑)。でも、本当に気持ちがこもったゴールだったと思います」(入江)。

 無念の負傷で5か月間の悔しい戦線離脱を強いられた入江が、大一番で叩き出した魂の決勝ゴール。「やっぱり選手権に負けてから凄く悔しい想いをして、もうあと自分たちに残っているのはこのプレミア昇格という目標だけだったので、自分たちのことを信じ切れたことが勝てた要因かなと思っています」(島貫)。執念で逆転勝利を飾った帝京が、2回戦への挑戦権を逞しくもぎ取る結果となった。

「今日は入江と島貫だろうね。両サイドバックに尽きますよ」。試合後、日比監督はハッキリとこう言い切った。入江と島貫、DF並木雄飛(3年)は1年生からカナリア軍団のサイドバックのポジション争いを繰り広げてきた3人だ。今年のインターハイは右サイドバックを並木、左サイドバックを島貫が務め、チームは全国準優勝まで駆け上がったが、ケガに苦しむ姿を近くで見てきたからこそ、島貫はこの日の入江の活躍が何よりも嬉しかった。

「今は並木がケガをして、ここに来れていないんですけど、サイドバックは凄く層が厚くて、激しいポジション争いを3年間やってきて、凄くお互いに高め合ってきましたし、今日は両サイドバックで結果を出せたので、入江と抱き合って喜びを分かち合えて良かったです。凄く濃い3年間の競争だったなと思っています」。

 キャプテンの伊藤が、こう明かしてくれた。「両サイドバックに感謝です。山下先生がセットプレーはやってくれるんですけど、2点とも1年間ずっと練習していた形だったので、山下先生も『ようやく練習通りに行ったな』と凄く嬉しそうでした(笑)」。島貫と、入江と、田中と、山下先生と。積み重ねてきたトレーニングは、この大舞台でついに実を結んだのだ。

 2回戦で対戦するのは、昨年のインターハイ初戦でもぶつかった米子北。そのゲームは終了間際に同点ゴールを許し、PK戦の末に敗退したが、彼らがそのまま決勝まで駆け上がっただけに、なおさらその負けは帝京の選手たちに割り切れない想いを突き付けてきた。因縁の相手とのリターンマッチは、勝った方がプレミアへと昇格する。これ以上のシチュエーションはないだろう。

 伊藤はいつもの軽快さで、決戦への意気込みを口にする。「ここまで来て負けるのが一番寒いですよね。ここで勝たなきゃ“モブキャラ”で終わってしまいますし、噛ませ犬感も出てしまって、それだけは勘弁してほしいので、本当に出せる力を全部出して勝ちたいです。もう高校最後の試合なので、楽しみます。それで、後輩にちょっと早めのクリスマスプレゼントをサンタさんから贈りたいと思います(笑)」。

『ちょっと早めのクリスマスプレゼント』を勝ち獲るためのラストダンス。笑顔の結末を手繰り寄せるべく、帝京は最後の90分間へと力強く歩み出す。



(取材・文 土屋雅史)
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