beacon

[MOM4136]帝京DF入江羚介(3年)_5か月の負傷離脱から帰ってきた頼れる左SBが大舞台で感謝の延長決勝弾!

このエントリーをはてなブックマークに追加

ケガに苦しんできた帝京高DF入江羚介が魂の決勝ゴール!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.9 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ1回戦 興國高 1-2(延長) 帝京高 バルコムBMW広島総合グランド]

「本当に頑張ってきて良かったなって、マジで思います」。

 この日の逆転ゴールを叩き出した殊勲者は、実感を込めてこう語っている。それもそのはずだ。勝負を懸けた3年生の1年間のうち、5か月近い時間をケガで棒に振ってきたのだから。それでも諦めなかった。諦められなかった。いつか自分がチームを救う日が来ると信じて、苦しい毎日に立ち向かってきたのだ。

「選手権は自分がスタメンでは出られなくて、正直凄く悔しかったですし、久我山戦も途中で出てチームを救ってやろうと思っていたのに、結果は逆転負けで、自分としても不甲斐ない気持ちでいっぱいで、正直『何のためにリハビリを頑張ったんだろう……』って、報われない感じが凄くあって、苦しかったです。でも、みんながリーグ戦を頑張ってくれたことがこういうプレーオフに繋がって、そこに出させてもらっているので、『みんなのおかげで自分がサッカーできているんだな』という気持ちは凄くあって、そこでどうにか結果で恩返しできれば、関わってくれた方々に伝えられればと思っていたので、ゴールを決められて本当に良かったです」。

 帝京高(東京)のエレガントな左サイドバック。DF入江羚介(3年=FC東京U-15むさし出身)のどん底から這い上がってきた不断の努力が、ゴールという形でチームを力強く救ってみせた。

 それは3年生になったばかりの頃。4月の練習試合だった。試合中に負った足首のケガの診断は脱臼骨折と三角靱帯断裂で、それに腓骨の骨折まで加わる重傷。長期離脱を余儀なくされる。その間にチームはインターハイで全国準優勝を経験。その輪の中に加われない悔しさと寂しさがなかったと言ったら嘘になる。

 ようやく9月末に戦線復帰したものの、すぐに思うようなパフォーマンスを発揮できたわけではない。「ケガから復帰した当初は全然試合勘も戻っていなくて、足首の痛みもうまく治らなかったですし、自分の思うようなプレーもできなくて、100パーセントでやろうとしても痛みが出て、痛みが出ないように80パーセントぐらいでやってもベストパフォーマンスは出せないですし、凄く苦しい時期でしたね」。

 少しずつ実戦を積み重ね、感覚は取り戻しつつあったが、スタメン復帰には至らず。前述の選手権予選では準決勝で國學院久我山高に2-3で敗退。試合後。交代出場したピッチでタイムアップの瞬間を味わった入江は、悔し涙に暮れた。

 だが、立ち止まっている時間はない。彼らには次の目標があった。プリンスリーグ関東で2位以内に入り、プレミアリーグプレーオフへと進出すること。勝てばプレーオフが決まる東京ヴェルディユースとの大事な一戦にスタメン起用された入江は、気合のパフォーマンスを披露。チームも4-0で快勝を収め、広島行きの切符を逞しく勝ち獲った。

 迎えたプレーオフ1回戦の相手は、プリンス関西王者の興國高。いきなりの難敵だが、彼らの考えは至ってシンプル。「このプレーオフは最大でも2試合で、負けたら1試合だけなので、もう楽しもうって。もうやり切るしかないって。自分たちがしっかり全部出し切れるようにということだけ考えていました」。入江の言葉はチームの共通認識。まずは目の前の試合をやり切ること。カナリア軍団の意志は貫かれる。

 とにかく、走った。前半で先制を許したものの、DF島貫琢土(3年)のゴールで同点に追い付くと、試合は延長戦へ突入する。「延長もキツかったですけど、攣るような感じもしなくて、体力的には戻ってきているなって。練習が終わった後もリハビリ施設に行かせてもらったりして、やれることはやったという気持ちなので、自信にあふれている感じです」。まるでこの大一番を誰よりも楽しむかのように、入江は左サイドで躍動し続ける。

 延長前半9分。それは1年間を掛けて積み重ねてきた形だった。左サイドで得たCK。キッカーのMF田中遥稀(3年)はニアに蹴ってくるはずだ。そこに飛び込んで、コースを変える。それだけを念じて、いつも通りのポイントに走ると、予想していた通りの軌道へ懸命に頭を伸ばす。

「ボールを逸らした後に後ろを振り返っても見えなくて、みんなが叫んでいたので、とりあえず自分も叫んでおこうと思って、流れに任せて『うわ~!』と言った感じでした。そうしたら、みんなが自分の方に向かってきて、『ああ、オレだな』って。それで喜んだんです。え?自分のゴールですよね?(笑)。でも、本当に気持ちがこもったゴールだったと思います」。殊勲の3番は、あっという間に仲間の輪の中に飲み込まれ、見えなくなった。



 キャプテンのFW伊藤聡太(3年)の言葉が印象深い。「『入江が決めたよ』と思ったら泣きそうになりました。入江もずっとリハビリを頑張っていましたし、『早く復帰するぞ』という気持ちが本当に強かったと思うので、そういう選手だからこそ、こういう重要な試合で点を獲るべくして獲ったのかなと」。苦しんできた男の、魂の決勝ゴール。帝京はプレミア昇格へ王手を懸けた。

 最後の1試合。入江には絶対に負けられない理由がある。中学時代から6年間一緒にプレーしてきたDF藤本優翔(3年)が、大学受験のために一足早く帰京することになった。昨年のインターハイ直前に大ケガを負い、以降はなかなか本調子を取り戻せなかったものの、常にチームを鼓舞し続けてきた盟友のためにも、最高の報告を必ず届けると固く心に誓っている。

「自分は5か月だったんですけど、アイツは10か月ぐらい離脱していて、アイツが先にケガしていた時の自分は、そんなに長期離脱したことがなかったので、ケガの苦しさは全然わかってやれていなかったと思うんですけど、自分がケガをしてみて、『長期離脱って本当に苦しいんだな』って。それはたぶんケガした人にしかわからないんです。ケガしている時もツラいですし、治った後も自分の思い通りにできない悔しさやツラさが、今の自分は人一倍わかるんじゃないかなって感じているので、ちゃんと復帰できて試合に出られている自分が、優翔の分もしっかり頑張りたいなと思っています」。

 もちろんケガをして良かったとは思わない。でも、ケガをしたからこそ、気付いたことはたくさんある。苦しい時期を支えてくれた家族のため。いつも寄り添ってくれたチームメイトやスタッフのため。そして、ここまで這い上がってきた自分のため。入江にとって帝京の一員として戦うラストマッチが、いよいよ幕を開ける。



(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●高円宮杯プリンスリーグ2022特集
●高円宮杯プレミアリーグ2022特集

TOP