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確かな歴史を積み重ねた笑顔と涙の戴冠。鳥栖U-18は川崎F U-18に3-2で打ち勝って初のプレミア王者に!

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サガン鳥栖U-18が初のプレミア王者に!

[12.11 高円宮杯プレミアリーグファイナル 川崎F U-18 2-3 鳥栖U-18 国立競技場]

 やっとの想いで昇格した一昨年は、開催自体がなくなった。初めて挑んだ昨年は、手探りでの試行錯誤が続いた。そして、今年だってすべてが順風満帆に進んだわけではない。「もう勝てないんじゃないか」という恐怖に苛まれたことだってある。でも、プレミアリーグという最高のステージで戦ってきた日々は、気付けば彼らを自分たちでも驚くくらいに成長させてくれていたのだ。

「なかなか勝てずに、苦しい時期が続いた中で、『もう優勝が難しいんじゃないか……』と思った時期もチームとしてありました。だけど、僕たちはやるしかなかったので、強い気持ちは常にあって、優勝できた時はもういろいろな想いがこみ上げてきて、本当に良かったなと思いました」(鳥栖U-18・福井太智)

 アカデミーの総力を結集して掴んだ、プレミアリーグの頂点。高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2022 ファイナルが11日、国立競技場で開催。EAST王者の川崎フロンターレU-18(神奈川)とWEST王者のサガン鳥栖U-18(佐賀)が対峙した一戦は、先制された鳥栖U-18が3点を奪って鮮やかに逆転。川崎F U-18も1点差まで追い上げるも、3-2で競り勝った鳥栖U-18がプレミア王者の称号を初めて手中に収めた。

 試合は意外な形で立ち上がる。川崎F U-18はいつも通りに後方からビルドアップを続けるものの、鳥栖U-18は出ていかない。「相手が前からガツガツ来るかなと思っていたんですけど、ミドルゾーンで構えることが多かったですし、相手の矢印を剥がしてから攻めるというよりは、意外と持ててしまって、攻撃がやりにくかったです」と話したのは川崎F U-18の10番を背負うMF大関友翔(3年)。「前半は持たれているというよりは持たせているという感覚でした」と鳥栖U-18のCB竹内諒太郎(3年)の言葉を聞いても、WEST王者は意識的にこの構図を作り出す。

 前半7分は鳥栖U-18。ルーズボールを拾ったキャプテンのMF福井太智(3年)が強烈な枠内ミドル。ここは川崎F U-18の守護神、GK濱崎知康(2年)がファインセーブで凌いだものの、26分にもDF坂井駿也(3年)が鋭いクサビを打ち込み、受けたMF増崎康清(2年)がそのまま運んで放ったシュートは枠を超えるも、「良い守備から良い攻撃といういつも通りのことをやればチャンスはできますから」と竹内も語ったように、手数はボールを持たない鳥栖U-18が繰り出していく。

 だが、先に先制機を手にしたのはEAST王者。右サイドからDF江原叡志(2年)が上げたクロスを、鳥栖U-18のGK栗林颯(3年)がファンブル。拾ったFW五木田季晋(3年)を栗林は倒してしまい、川崎F U-18にPKが与えられる。キッカーは1歳から両親に連れられて等々力に通っていたというトップ昇格内定のDF松長根悠仁(3年)。大胆にど真ん中へ蹴ったボールがゴールネットを揺らす。1-0。44分。均衡は破られた。

 鳥栖U-18は折れない。失点からわずか2分後の45+1分。中盤での攻防から右サイドへ展開すると、DF山本楓大(3年)のクロスを福井がフリック。DFの前に入った増崎は果敢なトラップから、冷静なシュートをゴール右スミへ流し込む。「前半のうちにやられた時に、前半でやり返せれば一番大きいと思っていたので、そこを自分は狙っていました」と笑った2年生アタッカーの同点弾。1-1。タイスコアで最初の45分間は終了する。

 後半はまた少し全体像が変化する。「『守備の部分でも自分たちからしっかり仕掛けよう』と話して後半に入りました」とは福井。鳥栖U-18は前半より全体のラインを高めに設定し、プレスのパワーとスピードを増強。リーグ戦でもよく見られたいつものやり方に近い形で、勝負に打って出る。

 美しい逆転弾は後半16分。左のハイサイドを取ったFW楢原慶輝(3年)が後方へ下げると、福井は完璧なスルーパス。走った楢原がグラウンダーで送ったボールを、フリーになったFW大里皇馬(3年)がきっちりとゴールネットへ送り届ける。「前日の試合形式の練習で、抜け出した時にニアに入るか、ファーに入るかは慶輝と2人で試行錯誤しながら話し合っていたので、信じて待っていて、あとは合わせるだけでした」。今シーズンは志願してFWからCBへのコンバートを経験したものの、終盤は再びストライカー起用が続いた“元FW”の嗅覚。2-1。鳥栖U-18が一歩前に出る。

 圧巻の追加点は18分。相手陣内でボールを奪い切った福井は、「持ち運びながら、ドリブルのコースがどんどん空いていったので、そこに仕掛けていくだけでした」と“花道”を突き進むと右足一閃。軌道は豪快にゴールへ突き刺さる。「奪った瞬間にもう『自分が行かないといけないな』と思いましたし、ボールを持った瞬間にゴールしか見えていなかったです」。バイエルン・ミュンヘンへの移籍が決まっている鳥栖の至宝が国立での初得点。3-1。さらに点差が開く。

 2点のビハインドに川崎F U-18を率いる長橋康弘監督も動く。失点直後に奮闘したMF大瀧螢(3年)とMF志村海里(2年)に代えて、FW岡崎寅太郎(2年)とDF柴田翔太郎(1年)を送り込む積極的な采配を振るうと、その狙いはすぐさま奏功する。

 24分。高い位置でプレスを掛けた岡崎が相手からボールをかっさらい、五木田のリターンを引き出して、そのままフィニッシュ。シュートはゴールネットを確実に捉える。スタメンを外れた悔しさをぶつけるかのような2年生ストライカーの一撃。3-2。再びスコアは1点差に引き戻された。

 川崎F U-18は攻める。193センチのCB高井幸大(3年)と途中出場のDF浅岡飛夢(3年)を前線に上げ、長いボールも辞さずにゴール前へ殺到する。鳥栖U-18は守る。「自分たちとしても強さはストロングだと思っていますから」(竹内)。弾いて、拾って、時間を確実に潰していく。45+3分。右サイドからMF尾川丈(2年)が入れたクロスに、高い打点で合わせた高井のヘディングは、わずかに枠の左へ逸れていく。

 6分間のアディショナルタイムが消えると、国立の空に吸い込まれたのはタイムアップのホイッスル。「この1年、本当に順風満帆に来たわけではなくて、2か月ぐらい勝てなかった時期もありましたけど、そういう時に選手もスタッフも下を向かずにやってきたことが良かったのかなと思っています」と田中智宗監督。大願成就。鳥栖U-18がとうとうプレミアリーグの日本一を堂々と手繰り寄せる結果となった。

 福井も田中監督も言及したように、鳥栖U-18は10月から我慢の時を強いられていた。先制しても、終わってみれば逆転負けという試合が続き、アウェイのガンバ大阪ユース戦ではラスト10分で3点差を引っ繰り返される、悪夢のような黒星を突き付けられる。

 引き離していたはずの2位以下との勝点差も詰まり出し、大きな危機感が漂う中、チーム全員である映像を見る機会が設けられる。「プレミアリーグ参入決定戦のゲームを40人全員で見たんです。やっぱり僕も改めてあの映像を見て感じるものがありましたし、この3年間の積み重ねとプレミアリーグを勝ち獲った参入戦が持つ意味の大きさは、僕だけじゃなくて選手にも全員に共有されたと思います」(田中監督)。

 2019年末のプレミアプレーオフ(参入戦)。鳥栖U-18は決定戦で後半アディショナルタイムに追い付き、延長戦の末に掴んだ勝利で悲願のプレミア昇格を決める。だが、翌2020年シーズンはコロナ禍の影響でリーグ自体の開催が中止に。年末のクラブユース選手権では日本一に輝くほどの実力を有したチームも、プレミアの舞台に立つことは叶わなかった。

 自分たちがこのステージで戦うことができているのは、クラブが辿ってきた歴史があるから。改めてその事実を再確認したチームは、ようやく最後の2試合で連勝を収め、得失点差で何とかリーグ優勝を成し遂げたことで、このファイナルの舞台へと駒を進めてきたのだ。

 U-12からサガン鳥栖で育ち、この試合を最後にドイツへ旅立つ福井は、アカデミーへの想いをこう口にする。「僕自身も入った頃は『いずれ全国優勝したい』とは思っていましたけど、ここまでうまくというか、どの年代もタイトルを獲れるようになるとはまったく思っていなかったので、その世代に加わることができて本当に光栄です」。

 田中監督も「カップ戦を優勝することも難しいですけど、リーグ戦というのは1年を通して優勝したチームが一番強いと思っているので、それが嬉しいんです」と笑顔を見せる。とうとう辿り着いた、正真正銘の日本一。鳥栖U-18の日常には、このクラブを、このアカデミーを強くしたいと願い続けてきた、多くの人によって紡がれた確かな歴史が、力強く積み重ねられていた。



(取材・文 土屋雅史)
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