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[MOM4137]鳥栖U-18MF福井太智(3年)_国立に刻んだ伝説のはじまり。バイエルン移籍前のラストマッチで全ゴールに絡んでプレミア制覇!

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サガン鳥栖U-18MF福井太智は日本一を置き土産にドイツへと旅立つ

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.11 高円宮杯プレミアリーグファイナル 川崎F U-18 2-3 鳥栖U-18 国立競技場]

 1万人近い観衆を集めたスタンドもどよめくその一撃は、これから何度もこのスタジアムで奪うであろうゴールの、記念すべき“1点目”だったのかもしれない。それぐらいの未来を期待させるだけの引力が、この10番には間違いなくある。

「やっぱりサッカーをやっている上でこのピッチに立つことは1つの目標ですし、ここで活躍することも目標だったので、それを1つ達成できたのは嬉しいことですけど、ここで満足することなく、これから何度も立って活躍したい気持ちになりました」。

 日本一を懸けたアカデミーラストマッチで、全得点に絡む圧巻のパフォーマンス。ドイツの名門、バイエルン・ミュンヘンへの移籍が決まっているサガン鳥栖U-18(佐賀)の至宝、MF福井太智(3年=サガン鳥栖U-15出身)が日本サッカーの聖地・国立競技場のピッチで眩く輝いた。

 プレミア王者を巡るファイナル。WEST王者の鳥栖U-18が対峙するのは、EAST王者の川崎フロンターレU-18。今年のリーグを牽引し続けてきた両雄の激突は、みなぎる緊張感の中でキックオフされる。

 その10番にボールが入ると、空気が変わる。決して派手なプレーを繰り出すわけではないが、その時に最適な選択を、最適な出力で、微塵の力みもなく下し、確実に、丁寧に、次の味方へと、意志を込めたパスを繋いでいく。

 1点をリードされた前半45+1分。右サイドからDF山本楓大(3年)が上げたクロスを、エリア内まで駆け上がってフリックすると、相手の前に潜ったMF増崎康清(2年)が冷静なフィニッシュで同点弾。後半16分にはワンツーの流れからFW楢原慶輝(3年)へと完璧なスルーパスを通し、FW大里皇馬(3年)の逆転ゴールを演出する。

 そして、その瞬間は18分に訪れる。「前の2人が上手くあそこに誘導してくれて、『来るな』とは思ったので、もう潰しに行くだけでした」。楢原と大里がプレスを掛け、縦に入ってきたボールを奪った福井がドリブルを始めると、ゴールまでの道筋が目の前にはっきりと浮かび上がる。

「持ち運びながらコースがどんどん空いていったので、そこにドリブルをして、仕掛けていくだけでした。奪った瞬間にもう『自分が行かないといけないな』と思いましたし、ボールを持った瞬間にゴールしか見えていなかったです」。右足から振り抜かれたボールが、豪快にゴールネットを揺らす。



「監督も試合後に『あそこで奪えて、決め切れるところが成長したところだな』と言って下さいましたし、自分は今まであそこでなかなか奪い切ることができなかったので、この舞台でこういうプレーが出せて良かったなと思います。今までも『怖い選手になりたい』『チームを勝たせられる選手になりたい』とずっと言ってきて、今日みたいなプレーを毎試合できるようになっていくだけです」。

 このユニフォームを着て戦う、アカデミーで過ごした10年間の総決算となる一戦で、逞しく披露した成長の証。「自分にとってサガン鳥栖はなくてはならないものですし、ここまで育ててくれた“親”でもあって、自分が何で恩返しできるかと言ったら、もうプレーで見せるしかないので、結果として優勝して終われたのは凄く良かったと思います。ホッとしました」。鳥栖U-18のキャプテンは歓喜に沸くチームメイトの中央で、日本一の優勝カップを高々と掲げてみせた。

 昨年の夏。既にトップチームでデビューを飾っていた福井の存在は、チームメイトにも大きな刺激を与えていた。U-18の中核を担い続けてきたMF坂井駿也(3年)が、その当時話していた言葉が印象深い。

「太智がデビューしたことにプレッシャーがあって、ちょっと難しい時期もあったんですけど、『先を越された』と思うのではなく、自分が謙虚になって太智を尊敬する気持ちを持ってからは、プレーがやりやすくなったところはあります。太智がいたからこうやって自分も上を目指せているので、そこはありがたいです」。

 その坂井を筆頭に、楢原、大里、DF竹内諒太郎(3年)と4人の3年生は来季からのトップ昇格が内定している。「トップの練習に参加することは多かったですけど、みんなで寮に一緒に住んでいるので、夜は必ず会いますし、ユースの練習にも必ず顔を出すようにしていました。代表活動を含めて長期でいなくなることはこの1年間は多かったですけど、みんなに『試合どうだった?』というような連絡は常にしていましたし、そういう時は信じることしかできなかったですけど、仲間に感謝したいですね」と口にした福井を中心に切磋琢磨し続けてきた日常が、彼らの成長の輪をより大きくしていったことに、疑いの余地はない。

 年明けからは異国の地で、世界を相手に勝負する環境へ身を投じていく。ワールドカップで目にした“先輩”の雄姿も、情熱を燃やす大きな材料になっている。「クロアチアに負けた時は本当に悔しかったですし、『自分が日本を変えてやるんだ』という気持ちは凄く芽生えたので、『自分も絶対にあのピッチに立たないといけない』という想いになりました」。

 今後の目標を問われると、躊躇なく出てくる言葉が頼もしい、「まずはA代表に入ることが一番近くの目標ですし、ワールドカップで優勝することが夢です」。サガン鳥栖の福井太智から、バイエルン・ミュンヘンの福井太智へ。その先に広がるもっともっとたくさんの希望と夢が、この男のこれからを間違いなく彩っていく。

『自分は福井太智の“1点目”を見た』と、このファイナルの国立に詰め掛けた1万人近い観衆が自慢する日が来るのも、きっとそう遠い未来のことではなさそうだ。



(取材・文 土屋雅史)
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