beacon

突き付けられる悔しさはいつだって次へのエネルギー。桐生一を背負うFW諏訪晃大はプレミアで得た自信を胸に高校選抜入りを誓う

このエントリーをはてなブックマークに追加

得意のドリブルで仕掛ける日本高校選抜候補FW諏訪晃大(桐生一高3年)

[1.22 練習試合 日本高校選抜候補 1-0 日本体育大 時之栖G]

「いや、もう全然ダメでした……」。少し頭を抱えながら悔しがる姿に、1年間の成長の跡が見て取れる。何しろ去年の今頃は、それこそまだ何の注目を集めることもない、ごくごく普通の高校生だったのだから。

「ダメだった」と自身が感じた舞台は、日本中から厳選された39人が集まる日本高校選抜の選考合宿。インターハイにも、選手権にも出ていない、FW諏訪晃大(桐生一高3年)は自分の力で、この場へと挑戦する機会を勝ち獲ったのだ。

「ビックリしましたね。冬休みに入る前に、中村(裕幸)先生から高校選抜のことを言われたんですけど、選手権に出ている人が選ばれると思っていたので、『何で自分が呼ばれたのかな?』とは正直感じました。でも、『こんな経験はなかなかないな』と思って、楽しみな気持ちが大きかったです」。

 そう話した諏訪を擁する桐生一の選手権予選は、初戦に当たる準々決勝で、PK戦の末にまさかの敗退。インターハイ予選も決勝で前橋育英高に0-4と完敗を喫しており、結果的にこの3年間で一度も全国大会へと出場することは叶わなかった。

 そんな彼が一躍脚光を浴びることになったのは、プレミアリーグの舞台。チームとしても初めて挑んだ世代最高峰の場で、10番を背負ったキャプテンは躍動し、20試合に出場して8ゴールを記録。3試合連続得点をマークした時期もあり、個としてのクオリティをしっかりと発揮する。

「相手のCBもプロに行く選手が多くて、自分よりも身長が大きくて、スピードも速くて、対人も強くて、という相手と戦う中で『どうやったらコイツを攻略できるか』ということを自分でずっと考えてプレミアをやってきましたし、その中で通用する部分もあったので、『自分のプレーを見てくれていた人がいたんだな』と思って、素直に嬉しかったです」。桐生一の看板を背負い、諏訪は1人で今回の合宿へ乗り込んできた。

 1日目のゲーム形式のトレーニングでも、同じ群馬県内のライバルとしてしのぎを削る前橋育英の3人と中盤を組んだ、2日目の流通経済大との練習試合でも、一定の手応えは積み重なっていた。ゆえにこの日の日本体育大との練習試合は、何もできなかった自分に腹が立ったのだ。

「2日間は自分の長所が全然通用していたので、自信が付いたんですけど、そこで過信してしまったのかなって。今日は判断も含めてすべてのスキルが劣っているなと思って、自分としてもプレミアでやってきたので、これぐらいしか通用しないのは不甲斐ないですね」。うつむき加減に言葉を紡ぐ姿からも、隠し切れない感情が滲む。

 ただ、高校最後の1年間も、常に前進する糧になってきたのは、突き付けられた悔しさだった。プレミアリーグの開幕戦は0-7の大敗。初勝利を挙げるまでには6試合を要している。前述したように全国に繋がる2つの大会も、揃って県予選を勝ち抜けず、そのたびに言いようのない想いを抱えてきた。

「今日は本当に何もやっていないぐらい不甲斐ないプレーをしてしまったので、ここから結果を残すしかないですし、『二度とこんなプレーをしてはいけないな』って。自分なりの覚悟がまだまだ足りなかったんだと感じていますし、ああいうプレー中の屈辱は二度と味わいたくないので、そこはもうがむしゃらにやるしかないなと思います」。

 思えば、昨シーズンの桐生一もゆっくりと、着実に成長を遂げていった。プレミアリーグへの昇格を決めた、一昨年末のプレーオフに登録されていたメンバーは全員が当時の3年生。ほとんどトップチームの公式戦に出場した経験のない選手たちは、それでも最高のステージで一つずつ、一つずつ、できることを増やしていく。

 結果的には1年での降格を味わったものの、「もう1回やりたいなというのが素直な感想です。自分たちが足りていないということを痛感して、その今年痛感した部分をやれることから、半歩、いや、3分の1歩ずつでも、上っていくしかないかなって思っています」と話したのは中村監督。高いレベルに身を置くことの大事さを改めて実感したことは、桐生一の大きな財産になっている。

 諏訪もそのことはもちろん十分に理解している。高校卒業後は地元でもある関西の大学へと進学するが、その前に自分が為すべきことは明確だ。「しっかりこの合宿をバネにできれば、今後にも繋がると思いますし、もう誰にも負けたくないので、最終日も結果を出して、選抜にもちゃんと選ばれて、その活動の中で試合をやるごとにレベルアップできたらいいなと考えています」。

 できない時に生まれた「次こそは」と思える感情は、前へと進むための大きなエネルギー。少しの手応えと、大きな悔しさを味わいながら幕を開けた諏訪の2023年も、今からとにかく楽しみだ。

(取材・文 土屋雅史)
▼関連リンク
●【特設】高校選手権2022

TOP