beacon

「長友佑都とランニングできる」のは果たして誰だ。2023年のFC東京U-18に巻き起こりつつある意識改革

このエントリーをはてなブックマークに追加

FC東京U-18は新シーズンの初陣を勝利で飾る!

[1.29 東京都CY U-17選手権決勝L FC東京U-18 1-0 横河武蔵野FC U-18 東京ガス武蔵野苑多目的G]

 クラブが、アカデミーが、変化していく過程にあることは、スタッフも選手も共有している。ならば、その中でこのチームがどうなっていくのか、この選手たちが何を目指していくのかも、指揮官の中には明確なイメージが湧き始めているという。

「献身的な姿でお客さんを呼べる選手もいるし、凄くアクロバティックなシュートでお客さんを呼べる選手もいるし、ユニフォームを買ってもらえるような選手にどうやってしていくかというのは、クラブが進んでいく新しい道の中で、要素としては凄く大きくなるのかなと感じているので、そういったところを意識すると、『見ている人の心をどれだけ動かせるか』というところが、今年の1つのキーワードかなと思っています」(FC東京U-18・奥原崇監督)

 『東京が熱狂』を掲げたクラブの礎を担うべき、アカデミーの出口。FC東京U-18にも間違いなく変革の時が今、訪れている。

 始動から約3週間。FC東京U-18は新チームで臨む初めての公式戦の日を迎えていた。3年ぶりに開催されることとなった、東京都クラブユースサッカーU-17選手権大会。ホームの小平グランドで横河武蔵野FC U-18と対峙する一戦は、「何か戦術的に強めの発信をするというよりは、現状をちゃんと見たいと思っていました」と奥原監督も話したように、まずは現在地を把握する意味合いを持ちつつ、ゲームに入る。

 立ち上がりから20分前後までは、横河武蔵野が攻勢に打って出る。ドイスボランチのMF加藤寛大(2年)とMF古谷章太朗(2年)が丁寧にボールを動かしながら、前線に並んだレフティのMF小林蒼叶(2年)、FW米田壮志(2年)、FW田中佑樹(2年)が積極的にゴールへ迫り、ポストを叩く惜しいシュートも。「プレッシャーも速くて、ハードワークや切り替えの面でも全然向こうの方が良かったと思います」とはFC東京U-18の右ウイングに入ったFW山口太陽(1年)。シンプルにアウェイチームが高い実力を発揮する。

 ホームチームのスイッチを入れたのは左サイドだ。サイドバックのDF平澤大河(2年)、インサイドハーフのMF浅田瑠偉(1年)、ウイングのMF渡邊翼(2年)が有機的に関わり出し、決定的なチャンスを創出。34分と40分に左で崩した流れから、ともにMF大越友太波(1年)が放ったシュートは、どちらも横河武蔵野のGK渡邉雄太(2年)のファインセーブに阻まれ、45分にも平澤の完璧な左クロスから山口が合わせたヘディングはGKを破るも、横河武蔵野のキャプテンを務めるDF岡嶋大斗(2年)がスーパークリア。最初の45分間は0-0で推移する。

 後半も先に決定機を作ったのは横河武蔵野。14分には米田の左クロスを小林が収めるも、ここは「自分はキーパーである以上、キャプテンのようにチームをまとめ上げないといけない」と言い切るFC東京U-18の守護神、GK小林将天(2年)が果敢に飛び出してファインセーブ。逆に29分はFC東京U-18。渡邊翼のカットインシュートは、渡邉雄太がビッグセーブ。スコアは動かない。

 試合を決めたのは、途中出場のアタッカーだった。終了間際の43分。MF中野裕唯(1年)の放ったシュートが、エリア内でDFの手に当たったという判定を主審が下し、FC東京U-18にPKが与えられる。これを中野が自ら沈めると、そのまま決勝点に。「準備期間の中で提示してきたモノが形になりつつあるところもあって、最後は押し込んだ状況で、新しい戦力も使った時間帯に、PKでしたけど点が生まれたということは、またこれから競争を促すにはかなり良い材料をもらえたかなと思います」と奥原監督。FC東京U-18が戦った2023年の初陣は、1-0と苦しみながらもきっちり白星を手にする結果となった。



 この日のゲームは、昨シーズンから主力として活躍し、今年のチームの中核を担うことが期待されているMF佐藤龍之介(1年)が欠場していた。なぜなら、“隣のグラウンド”で行われていたプロ選手たちとのトレーニングに参加していたから。沖縄での1次キャンプのパフォーマンスが評価された佐藤は、そのままトップチームでの活動を続けている。

 1次キャンプには他にも小林とMF永野修都(1年)が参加。その3人が帰京したタイミングで、奥原監督はあるミーティングを開いたという。「『森重さんの何が凄いのか』『長友さんの何が凄いのか』という話だったり、『昇格した熊田(直紀)や俵積田(晃太)たちは、何ができていて、逆に何が足りないのか』みたいなことを、3人にユース全体のミーティングで話してもらったんです。そうすると龍之介が“生き続けている”理由がわかってくるんじゃないかなって」

「それは先輩たちにサッカーの技量だけではなくて、私生活だったり食事だったり、準備のところでいろいろなものを認められたので、活動期間を重ねるたびにボールがどんどん来るようになったり、試合中にちゃんと同じ目線で会話してくれる先輩たちが増えてきたからで、それを獲得できたので龍之介がまだトップに行っていると。じゃあ、その能力は他の選手の現状でどうなのか。長友さんが練習後にしているランニングに、自分から行く勇気が本当にあるヤツがこの中に何人いるのかとか、そういう話は凄くしました。刺激としては強かったかなと」。

 佐藤と永野と同学年に当たる山口は、こう話している。「去年からあの2人はずっとプレミアもスタメンで出ていたので、そこは悔しい想いもありますし、自分もそこに行きたいという想いはあるんですけど、まだまだ足りないものがあるので、練習するしかないなと思います」。

 “ミーティング以降”のチームに見え始めている“兆候”を、指揮官は実感しつつある。「もうだいぶ取り組みも変わってきて、早く出てきて練習する子の人数もかなり増えてきましたし、おとなしかった子が後輩の面倒を見たりとか、サッカーの時だけではなくて、仕事の時に指示を出せるヤツが出てきたりとか、コミュニケーション能力も意識する中で、それぞれに変化が出始めているのかなと思いますね」。この日のキャプテンマークを巻いていたMF伊藤ロミオ(2年)が、積極的に周囲へ指示を送っていた姿も印象深い。

 ポジティブな意識の変化は、このクラブと四半世紀近い時間をともにしてきた奥原監督が、とりわけこの2023年という新たな1年で企図するものだ。それにはクラブが掲げたスローガンが、小さくない影響を与えているという。

「今はクラブが変化していく過程にいると思うので、そこにトライし続ける部分と、FC東京が根底で失ってはいけないものの両立が去年は難しかったんですけど、それを今年も改めて突き詰めているんだろうなとは思っています。やっぱり首都の東京で、『東京を熱狂させるようなチームに、クラブに』というスローガンが出てきたからには、それをユースでどう体現していくかというところは考えていますね」。

「やはりお客さんが喜んでくださって、そのチームを応援したくなってくれるからこそ、そこに投資をしてくれるのであって、黙々と『僕は頑張ります』では、この先のFC東京の一員としては難しいんじゃないかなと。要は献身的に、地味にやっている子も、周りが見てくれていることをどれだけ意識できるかということも大事で、自分としては今までそういう感覚はほとんどなく、選手を育て上げて、という感じだったんですけど、献身的な姿でお客さんを呼べる選手もいるわけです」。

「それこそ他の人が聞いていて応援したくなるような発信ができることに、サッカー選手としての資質を追求していく上でも、マイナスなことはほとんどないのかなと思うので、今年はそういう観点でも考えながら指導していきたいなとは思っています。そのための努力を、自分の範囲内で黙々とやるのではなくて、他の人が見ていても『それって凄いね』って言ってもらえるのかというところで、それはお客さんもそうなんですけど、やっている仲間からも認めてもらえるような選手になることが、見ている人の心を動かすことに繋がっていけばいいなと」。

「そこが去年と大きく変わることだと思います。日常でやることは大きく変わらないですけど、トップチームですぐコアメンバーに肉薄できるかというところで、今までの我々に何が足りないかと考えた時に、たとえば表現力の向上も必要なんじゃないかなって。久保建英も武藤嘉紀もそうですけど、世界に出て行った選手がトップですぐ馴染めた能力は、サッカー以外のところも大きかったんじゃないかなと思うんです。それはもちろん長友さんもそうですよね」。

 それはプロサッカー選手として生きていくための、明確な武器を自分で見定めることとイコールだ。そして、その武器を自ら周囲に発信していき、周囲に理解してもらう。もちろん“お客さん”に対しても、“チームメイト”に対しても。

 確かな自信を携えながら、『長友佑都とランニングできる選手』が彼らの中からどれぐらい出てくるか。クラブを知り尽くす奥原監督が促したことで、2023年のFC東京U-18に巻き起こりつつある意識改革。近い未来に東京を熱狂させるのは、果たして誰だ。



(取材・文 土屋雅史)

TOP