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[新人戦]「打倒・前橋育英」のもう1つ先のフェーズへ。桐生一が最強のライバル・前橋育英を撃破して群馬決勝進出!

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桐生一高は最強のライバル・前橋育英高を2-1で撃破!

[2.4 群馬県新人大会準決勝 前橋育英高 1-2 桐生一高 アースケア敷島サッカー・ラグビー場]

 もちろん彼らに勝つのはとにかく大変だけれど、そこだけがゴールではないことは、昨年の1年間でよりチームとしてはっきりと共有してきた。だからこそ、負けられなかった。その先を見据えるために、その先へと突き進むために、彼らと対峙するこの試合だけは負けられなかったのだ。

「今週は『簡単じゃないけど、育英に勝って、ファイナルに勝つことを目指してやるよ』というマインドセットはしてきたつもりですし、やっぱり『前橋育英を倒そう』というだけではゴールが手前過ぎるというか、その先もありますし、当然倒すのはメチャメチャ大変で、だからこそ勝ったら達成感も出てしまいますけど、それは違うぞと。それこそいちサッカー選手として見たら、あくまで1つの結果であって、その先の方が長いし、ということは意識させています。でも、やっぱり育英のおかげで我々も強くなっているのは間違いないんですよね」(桐生一高・中村裕幸監督)。

 最後の最後まで身体を張り続けた、意地と執念の粘り勝ち。令和4年度群馬県高校新人大会準決勝が4日に行われ、前橋育英高桐生一高が激突した“新・群馬クラシコ”は、2点を先行した桐生一が前橋育英の反撃を1点に抑え、2-1で勝利。決勝では共愛学園高と優勝を懸けて対戦する。

 スタメン11人の中で、選手権のピッチに立ったのはキャプテンマークを巻いたGK雨野颯真(2年)のみ。「いかんせんまだ新チームが始まって1か月で、メンバーも固定できないので、これからだと思います」と山田耕介監督も話した前橋育英だが、まずは先に決定機を創出する。前半10分。MF山崎勇誠(2年)が右へ振り分け、MF斎藤陽太(2年)はマイナスへ完璧なラストパス。走り込んだMF石井陽(1年)のシュートは、しかし枠の上へ外れてしまう。

 すると、直後に生まれた先制点。11分。今度は桐生一がボールを丁寧に動かしながら前進すると、MF佐藤柊(2年)が左へスルーパス。受けたFW篠原一樹(2年)が思い切りよく右足で振り抜いたシュートは、鮮やかにゴールネットを揺らし、桐生一が1点のアドバンテージを手にする。

 以降も攻勢は上州のブルードラゴン。「今年のチームは能力も去年ほど高くないですけど、グループとしての連携は意識しています」とはDF能崎大我(2年)。前線に篠原を置きながら、その下ではMF小野剛史(2年)、佐藤、MF小林昂立(1年)の3枚が自在に動きつつ、右の能崎、左のDF深澤拓夢(2年)のウイングバックも果敢に攻撃参加。19分にも深澤が左から入れたグラウンダークロスに、篠原が合わせたシュートは雨野のビッグセーブに阻まれるも、好機を生み出す。

 24分は前橋育英。右SBを務める青木蓮人(1年)がカットインからスルーパスを繰り出し、FW中村太一(1年)が抜け出すも、ここは桐生一GK仲居大樹(1年)がファインセーブで応酬すると、35分には桐生一に追加点のチャンス。左サイドを切り裂いた深澤がエリア内で倒され、PKを獲得する。キッカーはプロ注目DF中野力瑠(2年)。だが、左を狙ったキックは「あの場面で決められたら、もっと悪い流れになると思った」という雨野がビッグセーブ。前半は1-0で40分間が終了した。

 後半も勢い良く飛び出したのは桐生一。4分には右サイドで3人のマーカーをぶち抜いた小野がそのままシュートまで持ち込み、ここも雨野のファインセーブに阻まれるも好トライ。さらに13分には左サイドで獲得したCKをレフティの深澤がアウトスイングで蹴り入れると、最後はMF清水大嗣(2年)が力強くゴールへ叩き込む。「昨日は寝る前もイメージトレーニングをしてきて、自分が決めるシーンもイメージしていました」と笑った中盤アンカーが挙げた追加点。スコアは2-0に変わる。

 苦しくなった前橋育英も、このままでは終わらない。20分。右サイドで得たCKをDF山田佳(1年)が蹴り込み、こぼれを中村が右へ流すと、後半開始から登場したMF松下拓夢(2年)のクロスが相手のハンドを誘い、PKをもぎ取る。キッカーの山崎は冷静にゴールへグサリ。「PKは練習が終わった後に必ず毎日蹴っているので、ちゃんと落ち着いて練習通りに決められました」と語った14番の反撃弾。2-1。点差はたちまち1点に。

 牙を剥いた虎の猛攻。23分。左サイドからDF立木堯斗(1年)が上げたクロスに、DF斉藤希明(2年)が合わせたヘディングはクロスバーにヒット。31分。左サイドをスムーズなパスワークで崩し、山崎が思い切って狙ったミドルは枠を越えるも、踏み込んだアクセル。耐える桐生一は足を攣らせる選手が続出し、交代カードを切りながら守備の立て直しに腐心する。

「最後はみんな足が攣っていてしんどかったんですけど、クロスに対してもしっかり跳ね返したり、シュートを打たれても身体を投げ出したり、勝利への貪欲さという部分は出せたと思います」(能崎)「結構しんどかったんですけど、これで負けてしまうと明日がないということで、みんな死ぬ気で走っていましたし、『絶対勝つぞ』とかプラスの声が出ていて、雰囲気は良かったと思います」(清水)。

 6分が掲示されたアディショナルタイムが過ぎると、ようやく勝利を告げるホイッスルが耳に届く。「笛が鳴った時に、『ああ、このチームに勝つには、どの大会でもこんなにしんどいんだな』ということは再確認しました」とは中村監督。前橋育英の追撃を何とか振り切った桐生一が、明日のファイナルへと勝ち上がる結果となった。

 昨シーズンのプレミアリーグでも、桐生一は前橋育英相手に1点をリードして、後半へと折り返したゲームがあった。ところが、最終的なスコアは1-6。45分間で6点をぶち込まれる大敗を喫している。

「それがあったので、『これは後半の最初で獲られたらそうなるかな』と思ったんですけど、去年はそういうことを口にしたら実際にそうなったこともあって、今日は『ウチのやることはこうだよ』ということだけ言って送り出したので、『ああ、そういう方がいいのかな』って」。リードにも油断せずに追加点を奪ったのは、間違いなく前述の試合からの進歩と言っていいだろう。

 それでも、一筋縄では行かないのが彼らとの試合。『2-0になった時に『たぶんちょっと落ちるだろうな』と思ったら、やっぱりちょっと出足も遅くなって、『そこが遅くなるとこうなるよ』ということもわかったと思うので、本当に良い勉強になりました。そういう意味では前橋育英のおかげで『ここを超えよう』ということを、新人戦で突き付けられたのは良かったですよね」(中村監督)。いつだって最強のライバルからは、学ぶことが少なくない。

 だが、ここで大会は終わりではない。能崎が「勝った瞬間はムチャクチャ嬉しかったんですけど、明日決勝があるので、すぐ切り替えようと思いました」と話せば、清水も「試合が終わった時はやり切った感じがありましたし、ライバル相手の勝利は本当に嬉しかったですけど、明日があるので、決勝も絶対に勝ちたいと思います」と言い切っている。ここに指揮官の“マインドセット”が現れている。

「県のファイナルでウチが育英に勝って優勝することは何回かありましたけど、ファイナルじゃないところでウチが育英を倒した大会は、僕がこのチームに来てから全部そのあとで負けているんです。それは結局育英を倒して、お腹いっぱいになった証拠じゃないですか。だから、生徒たちがここで1つ掴んだので、明日もなりふり構わず勝ちに行きはしないですし、ちゃんとやることをやってではありますけど、しっかり優勝しないといけないなと」(中村監督)。

 『打倒・前橋育英』のもう1つ先のフェーズへ。まずはその挑戦権を自ら手に入れた桐生一は、新チームの初タイトルを奪い取るため、全力でファイナルを戦い抜く。



(取材・文 土屋雅史)

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