[デンチャレ]突き付けられた悔しさは確かな成長の糧。日本高校選抜GK鈴木健太郎が手にした新たな仲間との絆
[3.2 デンチャレグループB第3節 日本高校選抜 3-5プレーオフ選抜 ひたちなか市総合運動公園]
試合が終わった瞬間。濡れたグラウンドにヒザを突いて、しばらく動けない。その姿からは言いようのない悔しさが立ち上っていた。
「自分の立ち位置として3番手という中で、この試合でどれだけアピールできるかというのがあった中で5失点してしまったので、不完全燃焼というか、『もっとできたな』という悔しさはあります」。
自分の立場は、誰よりも自分が一番よくわかっている。ゆえに、この90分間に懸けていた。ようやく巡ってきた出場機会に、5失点での敗戦を突き付けられた日本高校選抜GK鈴木健太郎(成立学園高3年)は、とにかく悔しかったのだ。
初日の関東選抜A戦、2日目の東海選抜戦と、どちらも1-3というスコアで敗れ、3日目を迎えた日本高校選抜のデンソーカップ。ここまでベンチを温めていた鈴木に、スタメン出場のチャンスが訪れる。相手はプレーオフ選抜。「チームとしても『予選最後の試合は絶対に勝って終わろう』という気持ちはありました」と鈴木も話したように、大会初勝利を目指して、高校生たちは寒風の吹き付けるピッチへ向かう。
いきなり前半20分、25分と連続失点してしまったが、「耐える時間が長く続いた中で、前半に2失点したんですけど、ボールを回すところは徐々にできていったと思います」と鈴木。ビハインドを負う中でチームはシステムを4-4-2から3-4-2-1に変更すると、少しずつ攻守に安定感を取り戻していく。
23番を背負ったGKも、積極的にビルドアップへ関わり、少し危険にも見えるような縦パスも、事も無げに味方へ正確に届けてみせる。「自分の高校が繋ぐサッカーで、自分の良さもビルドアップだと思いますし、今まで大学生相手にボールを回すことができていなかったんですけど、今日は下も濡れていてボールを進められると思っていたので、チームに上手い選手もいっぱいいる中で、蹴ってしまってはもったいないですし、『どんどんチャレンジして繋ごう』という意識は持ってやれたと思います」。成立学園仕込みの巧みな足元は、このレベルでも十分に通用する代物だ。
後半31分には1点を返し、反撃ムードも高まったが、そこからはアクセルを踏み込んだ相手の攻撃が一気に牙を剥く。「風のことも考えながら、正しい判断や状況を理解してプレーするところが、自分を含めて難しかったと思います」(鈴木)。37分、38分、44分と相次いで失点を重ね、攻撃陣も2点は奪ったものの、ファイナルスコアは3-5。グループリーグ最後の一戦も、結果は大量失点での黒星。鈴木も大きなアピールを成功させるまでには至らなかった。
都内屈指のGKとしての評価を固めていった2022年の最後には、成立学園にとっても17年ぶりとなる選手権での全国出場が待っていた。しかも開幕戦で立ったのは国立競技場のピッチ。
「まさか国立でプレーできるとは思っていなかったですし、都大会と全国大会は全然違うものがあったので、あの舞台に立てたことは人生でも貴重な経験になりました。結局2回戦で負けてしまったんですけど、あの試合も楽しかったですし、今までずっと無観客でやってきましたけど、いろいろな人に応援されながら、高校の代表で出ているという気持ちが凄く楽しかったですし、良い思い出になりましたね」。最後は2回戦で日本文理高に惜敗したが、3年間を過ごしてきた仲間との全国大会はシンプルに楽しかった。
その2試合のパフォーマンスが評価され、成立学園の選手としても初めてとなる日本高校選抜選出は、本人も「呼ばれるとは思っていなかった」とのこと。それでも「高校選抜に入れたことがまず光栄ですし、高校生の代表としてプレーするわけで、『他の高校のキーパーの分までやらないといけないな』という意識もありました」と気持ちも新たに、1月からの選抜活動に取り組んできた。
切磋琢磨してきたデューフエマニエル凛太朗(流通経済大柏高3年)と上林真斗(昌平高3年)は、ライバルであり、チームメイト。「もともと面識は全然なかったですけど、あの2人と一緒にプレーするのは楽しいですし、その中で自分が勝っている部分もありましたし、彼らから見習う部分もあって、本当にいろいろな課題も見つかったので、良い経験になっているなと思います」。GKというポジション柄、練習も含めてほとんどの活動時間を一緒に過ごしたことで、3人に新たな絆が生まれたことは想像に難くない。
もちろん自チームとは違う練習の中で、鈴木には新鮮な気付きや発見もあったようだ。「どれだけ中盤の選手に付けられるかとか、周りの選手を動かしてボールを回していくかみたいなところは、サッカーIQが高い選手が多いので、いろいろ気付かされる場面がありましたし、キーパーとしてはセットプレーも自分のチームとは違う守り方もあって、『こういうやり方もあるんだな』とは思いましたね。トシさん(平田俊英GKコーチ)に『こういう場面ではこういう守り方をした方がいい』ということを結構ハッキリ言われて、いろいろなパターンのセットプレーの練習もやったので、良い経験になったと思います」。
4月からは順天堂大に進学し、掲げた目標を手繰り寄せるための4年間を積み重ねていく。「この大会では大学生とやって、大学のレベルを痛感させられたというか、『自分はまだまだなんだな』と思わせてもらえたので、もう1回自分の技術やいろいろなところを見直す良い機会になっています。こういう選抜の活動は自分にプラスなことばかりで、大学でも1年から試合にしっかり絡んでいけたら、また次の活動にも呼ばれると思うので、自分の最大の目標でもあるプロサッカー選手に近付くためにも、大学でもこういう活動で吸収したものを生かしていけたらいいなと思います」。
ハイボールへの安定感。正確な技術を生かしたビルドアップ。恐れを知らない果敢なセービング。GKとしての総合値は、間違いなく高い。そこにこの選抜で得られたエッセンスを加えながら、鈴木はプロサッカー選手へと続いていると信じた道を、一歩一歩丁寧に進んでいくはずだ。
(取材・文 土屋雅史)
●第37回デンソーカップチャレンジサッカー茨城大会特集
試合が終わった瞬間。濡れたグラウンドにヒザを突いて、しばらく動けない。その姿からは言いようのない悔しさが立ち上っていた。
「自分の立ち位置として3番手という中で、この試合でどれだけアピールできるかというのがあった中で5失点してしまったので、不完全燃焼というか、『もっとできたな』という悔しさはあります」。
自分の立場は、誰よりも自分が一番よくわかっている。ゆえに、この90分間に懸けていた。ようやく巡ってきた出場機会に、5失点での敗戦を突き付けられた日本高校選抜GK鈴木健太郎(成立学園高3年)は、とにかく悔しかったのだ。
初日の関東選抜A戦、2日目の東海選抜戦と、どちらも1-3というスコアで敗れ、3日目を迎えた日本高校選抜のデンソーカップ。ここまでベンチを温めていた鈴木に、スタメン出場のチャンスが訪れる。相手はプレーオフ選抜。「チームとしても『予選最後の試合は絶対に勝って終わろう』という気持ちはありました」と鈴木も話したように、大会初勝利を目指して、高校生たちは寒風の吹き付けるピッチへ向かう。
いきなり前半20分、25分と連続失点してしまったが、「耐える時間が長く続いた中で、前半に2失点したんですけど、ボールを回すところは徐々にできていったと思います」と鈴木。ビハインドを負う中でチームはシステムを4-4-2から3-4-2-1に変更すると、少しずつ攻守に安定感を取り戻していく。
23番を背負ったGKも、積極的にビルドアップへ関わり、少し危険にも見えるような縦パスも、事も無げに味方へ正確に届けてみせる。「自分の高校が繋ぐサッカーで、自分の良さもビルドアップだと思いますし、今まで大学生相手にボールを回すことができていなかったんですけど、今日は下も濡れていてボールを進められると思っていたので、チームに上手い選手もいっぱいいる中で、蹴ってしまってはもったいないですし、『どんどんチャレンジして繋ごう』という意識は持ってやれたと思います」。成立学園仕込みの巧みな足元は、このレベルでも十分に通用する代物だ。
後半31分には1点を返し、反撃ムードも高まったが、そこからはアクセルを踏み込んだ相手の攻撃が一気に牙を剥く。「風のことも考えながら、正しい判断や状況を理解してプレーするところが、自分を含めて難しかったと思います」(鈴木)。37分、38分、44分と相次いで失点を重ね、攻撃陣も2点は奪ったものの、ファイナルスコアは3-5。グループリーグ最後の一戦も、結果は大量失点での黒星。鈴木も大きなアピールを成功させるまでには至らなかった。
都内屈指のGKとしての評価を固めていった2022年の最後には、成立学園にとっても17年ぶりとなる選手権での全国出場が待っていた。しかも開幕戦で立ったのは国立競技場のピッチ。
「まさか国立でプレーできるとは思っていなかったですし、都大会と全国大会は全然違うものがあったので、あの舞台に立てたことは人生でも貴重な経験になりました。結局2回戦で負けてしまったんですけど、あの試合も楽しかったですし、今までずっと無観客でやってきましたけど、いろいろな人に応援されながら、高校の代表で出ているという気持ちが凄く楽しかったですし、良い思い出になりましたね」。最後は2回戦で日本文理高に惜敗したが、3年間を過ごしてきた仲間との全国大会はシンプルに楽しかった。
その2試合のパフォーマンスが評価され、成立学園の選手としても初めてとなる日本高校選抜選出は、本人も「呼ばれるとは思っていなかった」とのこと。それでも「高校選抜に入れたことがまず光栄ですし、高校生の代表としてプレーするわけで、『他の高校のキーパーの分までやらないといけないな』という意識もありました」と気持ちも新たに、1月からの選抜活動に取り組んできた。
切磋琢磨してきたデューフエマニエル凛太朗(流通経済大柏高3年)と上林真斗(昌平高3年)は、ライバルであり、チームメイト。「もともと面識は全然なかったですけど、あの2人と一緒にプレーするのは楽しいですし、その中で自分が勝っている部分もありましたし、彼らから見習う部分もあって、本当にいろいろな課題も見つかったので、良い経験になっているなと思います」。GKというポジション柄、練習も含めてほとんどの活動時間を一緒に過ごしたことで、3人に新たな絆が生まれたことは想像に難くない。
もちろん自チームとは違う練習の中で、鈴木には新鮮な気付きや発見もあったようだ。「どれだけ中盤の選手に付けられるかとか、周りの選手を動かしてボールを回していくかみたいなところは、サッカーIQが高い選手が多いので、いろいろ気付かされる場面がありましたし、キーパーとしてはセットプレーも自分のチームとは違う守り方もあって、『こういうやり方もあるんだな』とは思いましたね。トシさん(平田俊英GKコーチ)に『こういう場面ではこういう守り方をした方がいい』ということを結構ハッキリ言われて、いろいろなパターンのセットプレーの練習もやったので、良い経験になったと思います」。
4月からは順天堂大に進学し、掲げた目標を手繰り寄せるための4年間を積み重ねていく。「この大会では大学生とやって、大学のレベルを痛感させられたというか、『自分はまだまだなんだな』と思わせてもらえたので、もう1回自分の技術やいろいろなところを見直す良い機会になっています。こういう選抜の活動は自分にプラスなことばかりで、大学でも1年から試合にしっかり絡んでいけたら、また次の活動にも呼ばれると思うので、自分の最大の目標でもあるプロサッカー選手に近付くためにも、大学でもこういう活動で吸収したものを生かしていけたらいいなと思います」。
ハイボールへの安定感。正確な技術を生かしたビルドアップ。恐れを知らない果敢なセービング。GKとしての総合値は、間違いなく高い。そこにこの選抜で得られたエッセンスを加えながら、鈴木はプロサッカー選手へと続いていると信じた道を、一歩一歩丁寧に進んでいくはずだ。
(取材・文 土屋雅史)
●第37回デンソーカップチャレンジサッカー茨城大会特集