beacon

得意の左足で華麗な「ゴール・オリンピコ」も。帝京長岡DF渡辺陽翔が力強く発するリーダー宣言

このエントリーをはてなブックマークに追加

帝京長岡高の新リーダー候補、DF渡辺陽翔

 その腕にキャプテンマークが巻かれていても、巻かれていなくても、やることは変わらない。チームのために、仲間のために、先頭に立って、誰よりも真摯に、毎日の練習から全力を出し尽くしてみせる。

「自分がリーダーだというふうに考えてやろうと思っています。練習中でも人一倍声を出したり、チームに気を配って、その中でも自分が最高のパフォーマンスを発揮できるように、毎日自主練にも取り組んで、最高の状態でシーズンを迎えられるようにしたいです」。

 日本一を目指す越後の実力派軍団。帝京長岡高(新潟)の中で頭角を現しつつある新リーダー候補。DF渡辺陽翔(2年=F-THREE U-15出身)はチームを牽引する存在へのチャレンジを、自分自身に課している。

 最終ラインから放つ冷静な指示の声と、時折浮かべる笑顔が印象的だった。前橋育英高校高崎グラウンドで行われている『2023プーマカップ群馬』。帝京長岡のセンターバックに入った渡辺は、チームメイトへポジティブな空気を伝染させていく。

 飯塚高戦でも帝京高戦でもセンターバックで奮闘。「みんなが助けてくれて、自分のミスで失点しそうなところもちゃんとカバーしてもらえて、ありがたかったです」とは言いながらも、最後の局面で身体を投げ出して相手の攻撃を食い止めれば、得意の左足を駆使してビルドアップの起点も作り出す。

 飯塚とのゲームでは、CKからいわゆる『ゴール・オリンピコ』も沈めてみせる。「みんなが『密集!』と言ったので、とりあえず大きい小嶌(剛流)を目掛けて蹴ったら、入っちゃいました。ゴールに向かっていくボールは狙っていたので、それが結果的に入って良かったです」とは本人だが、「直接コーナーで点を獲るのは中学生以来でしたけど、久々のゴールだったので嬉しかったです」とサラリ。もともと左足のキックは大きな武器なのだ。

 この大会ではセンターバックを任されていたものの、本来の主戦場はボランチ。だが、ここ最近は左サイドバックへトライしているという。「始めたのは2月ぐらいからですね。サイドバックがみんなケガしているので、出してもらっている感じです。まずは目の前の相手には絶対に負けないというところと、自分がチャンスを作って、1点でも多く関わって、チームの勝利に貢献することは考えています」という“新米サイドバック”は、それでもこのポジションの新たな魅力に気付き始めている。

「相手のプレスはサイドバックに誘導してくることが多いので、アプローチのスピードはサイドバックの方が速く受けますけど、ボランチも来た選手を剥がせばチャンスになりますし、自分もサイドバックで目の前の選手を剥がすことができればチャンスが作れると思っています」。

「自分は足が速いとか、身体が強いとか、ずば抜けた能力があるわけではないですけど、細かい局面だったり、1つのパスでチャンスを作り出せるのが特徴だと思うので、そういうところは誰にも負けたくないですし、そこで人と違いを見せられたら、これからも通用していくのかなと思います」。穏やかな口調の中にも、負けず嫌いなメンタルが滲む。

 昨シーズンはなかなかトップチームでの出場機会は得られなかったものの、10月には新潟県選抜の一員として国体にも参加。2年生だった渡辺はキャプテンの指名を受ける。「早生まれの2年生は5人いたんですけど、『キャプテンは自分しかいないかな』とは思っていて、『自分がまとめてやらないと』という気持ちでやっていたので、そのあたりから責任感は人一倍付いたかなと思います」。

 チームをまとめる役割を託されたことで、貴重な経験を積むことはできたが、渡辺には心残りがある。「最後の試合は自分のミスで負けてしまったので、今でも忘れられないですし、やっぱり負けてしまえば悔いは残ってしまうので、常に勝ち続けられるチームにするために、毎日のトレーニングから全員で求め合ってやっていきたいと思っています」。苦い失敗を教訓に、勝負にこだわる姿勢も人一倍意識しながら、高校最後の1年に向かっていく。

 川上健コーチから贈られた一言も、自身の中に刻み込んでいる。「今年は堀(颯汰)がキャプテンをやるんですけど、健さんと話した時に『キャプテンに選ばなくてもやってくれるのはわかっているから』と信頼してくれていたので、自分がやらないとなという気持ちはあります」。どんな立場であっても、グループを引っ張っていく意欲は揺るがない。

 新潟県で生まれ育ったからこそ、2023年の最後に成し遂げたい目標も、自分の中でハッキリとその光景を思い浮かべている。「やっぱりずっと支えてくれてきている人たちが新潟県の中にいっぱいいるので、そういう面でも自分があのビッグスワンのピッチに立って、試合に出て、活躍している姿を1人でも多くの人に見てもらいたいなと思います」。

 帝京長岡がビッグスワンで戦うことが想定されるのは、シーズンの最後に待っている1試合だけ。そのピッチを夢見て、渡辺は2年間で味わってきたすべてのことを糧にして、チームの中核を担えるように自分を磨き続けていく。



(取材・文 土屋雅史)

TOP