もうゴールマウスを守り続ける準備は整った。強烈な先輩たちと2年間に渡って切磋琢磨し続けてきた日々は、間違いなく自分の血肉になっている。あとは、それを実戦の場で証明するだけだ。

「去年は『1年ってあっという間だな』と感じたんです。その“あっという間”という想いを、この3年生になった年でしたくないので、1試合1試合負けたら終わりだという気持ちも持ってやりたいですし、1日1日を無駄にせずに頑張りたいと思います」。

　ハイクオリティなゴールキーパーを育成し続けている名古屋グランパスU-18(愛知)の新守護神。GKピサノアレクサンドレ幸冬堀尾(2年=FC.フェルボール愛知出身)が躍動するための時間が、いよいよやってくる。

　中学時代は街クラブのFC.フェルボール愛知でプレーしていたピサノの、新たな世界が開けたのは中学校2年生の時だ。「初めてグランパスに練習参加させてもらった時に(三井)大輝くんと(東)ジョンくんがいて、大輝くんはケガしていたんですけど、ジョンくんのプレーを見て、『こんな選手がいるんだ』と思ったぐらい本当に凄くて、『こういう選手になりたい』と思ったんです」。ともにトップチームへと昇格した三井大輝と東ジョン、とりわけ東の圧倒的なパフォーマンスに惹かれ、グランパスのU-18へと進路を決める。

　2つ上には宮本流維(関西学院大)と川上翼(名古屋オーシャンズ)、1つ上には北橋将治と、世代屈指の先輩GKとトレーニングを重ねる日々は常に学びにあふれていた。「試合の時も後ろでの存在感が凄かったですし、『あの人たちを超える』という気持ちはずっと持って練習に取り組んでいたんですけど、超えるどころか流維くんとかマサくん(北橋)の良いところをうまく自分にも当てはめてやっていかないと、1つや2つぐらいの武器では絶対に勝てなかったので、そこは意識してやってきましたし、自分が2年生の時に公式戦のピッチに何回か立たせてもらったからこそ、緊張感とかプレッシャーの中でああやって堂々と自信を持ってプレーしている姿を見て、改めて『先輩って凄いんだな』と思えました」。

「特にマサくんはハイボールの時の迫力も凄かったですし、キャッチした後のフォワードへのフィードとか、パントキックも普通のキックも精度が高くて、自分はもともとキックが凄く苦手だったので、グランパスに入ってマサくんの低弾道の速いキックとか、綺麗なパントキックを見せてもらって、凄く刺激をもらいました。1年生の時は練習後の自主練に付き合ってもらったりして、そういうことは自分も真似したいなと思いましたね」。人間性も抜群だった先輩たちからの教えを、後輩たちへと受け継いでいく覚悟も定まっている。

　自身の特徴を尋ねると「ビルドアップの時のキックで速さを出すとか、あまりフィールドに背の高い選手がいない中で、身長が高い自分がハイボールやクロスに対しては全部守るぐらいの気持ちでやっています」と言い切るピサノ。キックは苦手だったはずだが、それもこのチームで求められる役割と真摯に向き合ううちに、そこへの自信も身に付けてきた。

「結構キックは蹴り込みましたし、自分がうまくパスを通せた時に『ああ、サッカー楽しいな』と思ったんですよね。たぶん嫌なことは続けられないはずですし、マサくんも明るい性格で嫌な顔1つせずに教えてくれましたし、そこが大きかったなと思います」。やはり“マサくん”の影響力は実に大きいようだ。

　『2023アスレカップ群馬』に参加していたこの日の試合前も、ウォーミングアップするチームの輪からは大きな声がこだまする。昨年のチームも基本的に元気な選手たちが揃っていたが、今年もその雰囲気やテンションはよりグレードアップしているような気すらしてしまう。

「本当に盛り上げ役みたいなキャラが多いので、その雰囲気もこのチームの良いところだと思います。自分も結構盛り上げるタイプなので、そこは一緒に盛り上がっちゃいますね(笑)。チームの中だと(貴田)遼河とか(鈴木)陽人とか、2年の(松嶋)好誠も結構盛り上げてくれます」(ピサノ)。グループの一体感は名古屋U-18が代々紡いできた大きな武器だ。

　187センチの体躯を誇るピサノは父親がカナダ人で、母親が日本人。ただ、生まれたのも育ってきたのも日本ということで、既に年代別代表にも選出されている日本代表でさらに上を目指すとのこと。その礎を固めるためにも、アカデミーラストイヤーの2023年はとにかく重要だという自覚も十分に持ち合わせている。

「今の1,2年生は本当に技術も高くて、普段の練習でも『3年生ももっとやらないとな』と感じさせられる部分もありますし、逆にそれを見せてくれたからこそ、自分たちが3年生として引っ張っていかないといけないなというのは凄く感じています。目標としてはチームとして掲げている『三冠を獲る』というところで、そこで自分がキーパーとして毎試合失点をゼロで抑える気持ちを持って、シーズンに入っていきたいと思います」。

　秘めてきたポテンシャルは、言うまでもなく高い。あとは、それをプレミアリーグという世代最高峰のステージで解き放つだけ。ピサノの大いなる挑戦のスタートは、もうすぐそこまで迫っている。

(取材・文　土屋雅史)