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[イギョラ杯]「タイトルなんて全然獲れていない代」の快進撃!岡山U-18は日大藤沢に競り勝って堂々の初優勝!

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ファジアーノ岡山U-18が堂々の初優勝!

[3.21 イギョラ杯決勝 岡山U-18 2-0 日大藤沢高 東京朝鮮G]

 はしゃぐ。カップを掲げて、みんなではしゃぐ。優勝したのだから、もちろん素直に喜んでいい。それがこの代で手繰り寄せた初めてのタイトルだったのであれば、なおさらだ。

「僕たちの世代は今までも本当にタイトルなんて全然獲れていなくて、弱い弱いと言われてきていたので、逆に反骨心も見返したいという想いもみんなにありましたし、それが優勝に繋がったんじゃないかなって。一体感、メチャクチャあると思います」(岡山U-18・勝部陽太)。

 怒涛の6連勝で掴んだ堂々たる戴冠。『第32回イギョラ杯 国際親善ユースサッカー』は21日に最終日が開催。ともに初めての優勝を狙うファジアーノ岡山U-18(岡山)と日大藤沢高(神奈川)が対峙した決勝は、相手の攻撃を力強く抑えた岡山U-18がFW石井秀幸(1年)とMF楢崎光成(2年)のゴールで2-0と勝利。大会初制覇を成し遂げている。

 立ち上がりからペースを掴んだのは日大藤沢。前半2分にはレフティのDF尾野優日(2年)の左クロスから、FW山上大智(2年)が頭で残し、MF安場壮志朗(2年)のボレーは枠を越えるも好トライ。6分にも左からDF宮崎達也(2年)がアウトスイングのCKを蹴り込み、DF片岡大慈(2年)のシュートはゴール左へ外れたものの、以降もDF小川寧大(2年)と宮崎の両センターバックを軸にボールを動かしながら、テンポアップするタイミングを窺い続ける。

「『相手コートで攻守をやりたい』ということは常に言っているんですけど、相手のボールの動かし方も上手くて、なかなかプレッシャーが掛からなくて、自分たちがボールを持った時もなかなか最後の3分の1のところに入って行けなかったですね」と話すのは岡山U-18の梁圭史監督。MF磯本蒼羽(1年)とDF田野辺創(2年)が縦関係を組む左サイドでは時折チャンスの芽を作り掛けながら、フィニッシュにはなかなか至らない。

 20分も日大藤沢。尾野の左クロスをMF會津恒毅(2年)が叩いたシュートは、岡山U-18のGKナジ・ウマル(2年)がファインセーブで凌ぎ、詰めた山上のシュートはゴールネットを揺らすも、オフサイドの判定でノーゴール。28分も日大藤沢。宮崎の左CKから、こぼれを拾った尾野のクロスに再び會津が合わせるも、ボールは枠の左へ。「先制点を獲られたらゲーム自体がキツくなるので、そこは絶対にやらせないことと、チャンスの時間は絶対に来ると思っていたので、そこまで耐えることは考えていました」とは岡山U-18のキャプテンを務めるMF勝部陽太(2年)。日大藤沢ペースの前半は、それでもスコアレスのままで35分間が終了した。

 後半が始まると、いきなりの決定機はまたも日大藤沢。1分。右サイドを抜け出した會津がGKと1対1のシーンを迎えるも、「意識してしっかり止まって、シュートに対応しようと思いました」と振り返るウマルが超ビッグセーブを披露。守護神が絶体絶命のピンチを救ってみせる。

 すると、ワンチャンスを生かしたのは岡山U-18。14分。右サイドでMF三木ヴィトル(1年)がボールを持つと、「いつも『あそこだよね』と共有している狙いがあるので、そこがしっかりうまくハマりました」という石井はパスを引き出し、そのまま右足一閃。ボールは左スミのゴールネットへ到達する。

「昔から自分は勝負強いと思っていて、ビッグマッチになればなるほどできるというのは、自分に言い聞かせていますし、このチームで誰よりもシュート練習をしている自信はあるので、その賜物かなと思います」と胸を張るストライカーの先制弾。岡山U-18が先にスコアを動かす。



 その10番は悔恨を抱えていた。「ずっと頭の中には『申し訳ないな』って想いがありました」。21分にDF田原悠帆(1年)が届けた完璧な右クロスに、フリーで合わせたヘディングを外していたからだ。それゆえにもうやり切るつもりだった。26分。やや右寄り、ほぼ正面でボールを持つと、楢崎はそのままグングンと縦に運んでいく。躊躇なく右足で振り抜いた球体は、右スミのゴールネットを激しく貫く。

「あのヘディングを外した瞬間に『次は絶対に決めんといけんな』と思っていましたし、もう1点決めてチームを勝たせたかったんです。良い形で相手をかわせた時に、もう足を振るタイミングは自分的にあったので、そこで思いきりぶち込みました。あれがあったから『ぶち込もう』という気持ちがもっと増したので、あのシュートミスのおかげです(笑)」。汚名返上。楢崎が奪った大きな、大きな追加点。リードは2点に広がった。

 終盤はとにかく守る。MF南稜大(1年)と勝部が中盤でルーズボールを拾い、DF服部航大(2年)とDF繁定蒼(1年)のCBコンビは、強さのある相手フォワードにも懸命に食らい付いてエリアへの侵入を許さず、22分から登場したGK近藤陸翔(2年)もCKから迎えたピンチにも冷静に対応。時間を確実に消し去っていく。

「ファジアーノ岡山の粘り強さはクラブのDNAとしてあるので、諦めない部分はユースも絶対に続けていこうよとは伝えているんです」という指揮官の言葉を証明するかのように、粘り強く、諦めず、最後まで戦い抜いた岡山U-18の選手たちに届いたタイムアップのホイッスル。「優勝という結果は凄く嬉しくて、選手たちが本当に成長しましたし、頑張ったなという想いです」と梁監督も笑顔を見せた岡山U-18が、終わってみれば2-0できっちり勝ち切り、遠く東京まで駆け付けた保護者の方々とともに優勝の歓喜を味わう結果となった。

「選手にもよく言うんですけど、試合ではトレーニングでやったことしか出ないので、トレーニングから常にいろいろなことができるようにはしていますけど、もちろん相手が強ければそこまで行かないこともあるので、1試合で狙ったことが10回できることもあれば、1回しかできないこともありますし、今回はトレーニングでやっているような考え方ができたというところだと思います」。

 そう梁監督が強調した部分を、楢崎がほとんどなぞったような話をしたことも興味深い。「日頃の練習からみんな本当にマジメで、謙虚にひたむきに、全力でサッカーをやっている中で、今回の大会も自分たちは日頃の練習でやってきたことしか出していないので、その練習が試合で実るんだなと思いました」。つまりはトレーニングがすべて。トレーニングはウソをつかない。その自分たちの信念は、イギョラカップの優勝という確かな成果によって、間違いなく今シーズンの彼らを後押ししてくれることになるだろう。

 キャプテンを務める勝部は、さらに今年のチームの特徴になっていきそうな部分をこう捉えている。「アグレッシブに前から取りに行って、相手コートでサッカーを続けるというのがファジアーノの1つのコンセプトとしてある中で、相手が来ていなかったら、しっかり自分たちで主導権を握ってボールを回して、相手が来ていたら背後のスペースを見たりと、相手のことを見て、自分たちでサッカーを変えるのが今年のスタイルなので、『ここが特徴』というものがあるわけではないんですけど、相手をしっかり見てプレーできることという自分たちの強みは、この大会でしっかり証明できたかなと思います」。

 確かにこの日の決勝も、苦しい時間帯が続く中で、選手たちは焦らず、騒がず、自分の役割をきっちりとこなしていく印象があった。梁監督も勝部も口にした『相手コートでサッカーを続ける』という基本コンセプトが実行できなくても、やるべきことを丁寧にやり続けた結果が、強豪相手の6連勝であり、弱いと目されていたという世代の逆襲とも言うべきタイトル獲得に繋がったことも、小さくない自信になったはずだ。

 10歳からこのクラブに所属してきたという勝部は、ファジアーノを取り巻く環境に、今までにない盛り上がりを感じているという。「僕は今年でファジに入って9年目になりますが、だいぶいろいろなことが変わってきていますね。試合の入場者数だけではなくて、商店街に行ってもファジのポスターも貼ってありますし、のぼりもメチャクチャあって、サポーターの人たちも熱がある方が多いので、トップの試合のスタジアムも良い雰囲気で、街全体も凄く良い雰囲気になってきています」。

 だからこそ、アカデミーもこの機運を一緒に掴みたい。そのために為すべきことも明確だ。

「個人としてはもちろんトップ昇格が大きな目標なので、そこに向かって進みたいですし、チームとしては参入戦で勝ち上がってプレミアに昇格することが大きな目標なので、しっかり1個ずつ勝っていって、プレミアに昇格したいと思います」(勝部)。

 キャプテンが紡いだ言葉は、言うまでもなく選手全員の共通認識。「イギョラカップという凄く歴史のある大会でこういう結果が出たことは嬉しいですけど、ここからシーズンが始まりますし、9か月間はリーグ戦が続くわけで、その中で成長のために何ができるかが大事なので、ここからが本当に大切なところですね」と気を引き締めた指揮官の想いも、きっと選手みんながわかっている。

 羽ばたくべき舞台を引き寄せるための、勇敢なチャレンジを貫く1年。プレシーズンに味わった優勝という最高の歓喜を大きな糧に、今シーズンの岡山U-18はさらなる飛躍を期す。



(取材・文 土屋雅史)

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