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太陽王子を束ねる左利きのコンダクター。柏U-18MF田村心太郎はアカデミーラストイヤーを「走り切る」1年に

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柏レイソルU-18を束ねるコンダクター、MF田村心太郎

 自分に掛けられている期待は、十分に感じている。だからこそ、そのプレッシャーを楽しむぐらいの余裕を持ちながら、この1年は戦い抜こうと心に決めた。だって、もうこの仲間と一緒に戦える最後の年だし、何よりサッカーが大好きだから。

 「1年生から試合に出ているので、期待されている部分は感じてきましたし、自分がもっとボールに関わって、チームを動かしていければなって。アカデミーのラスト1年、走り切りたいなと思っています」。

 技術自慢の精鋭が揃う柏レイソルU-18を中盤で操るコンダクター。MF田村心太郎(新3年=柏レイソルU-15出身)はその左足を振るい、チームをさらなる高みへと導いていく。

 サニックス杯国際ユースサッカー大会2023(福岡)の2日目。同じプレミアリーグを主戦場とする大津高との一戦。柏U-18は前半から多彩なアタックを繰り出し続け、FW戸田晶斗(新2年)、MF黒沢偲道(新2年)、FW吉原楓人(新2年)が相次いでゴール。前半だけで4-1と大量リードを手にしてみせる。

 だが、後半のピッチにスタメンで出場していた田村の姿はなかった。「彼はマイペースなところもありますし、チームに乗れない時間も多かったりするので、そういうところも含めて『油断していたら代わるよ』『期待しているからこそみんな一緒だよ』ということは強調しています。だから、今日は代えちゃいました。もっとひっちゃきになってほしい選手なので」と明かしたのは酒井直樹監督。期待しているからこそ、厳しい決断を下したのだ。

「昨日の初戦でも足元にボールが吸い付かなくて、今日もパスが引っ掛かったりすることが多かったので、それで代えられたんだろうなとは思いました。外への展開という攻撃の部分でも納得の行くプレーではなかったので、もっとボールに関わって、パスミスを減らしていきたいと思います」。自分に課せられているハードルが高いがゆえの交代だと、本人も指揮官の意図とそこに隠された大きな信頼は、もちろんわかっていた。

 今年はより自分がチームを引っ張っていく必要があることも、強く自覚しているという。「去年は引っ張ってくれる先輩たちが結構いたので、付いていくだけだったんですけど、今年の3年生は例年より少なくて10人しかいないので、3年生が全員で頑張ろうという想いでやっています。いつも静かな選手が本当に声を出してやってくれているので助かっていますし、自分もキャプテンではないですけど、中心になってゲームを動かしていきたいです」。

 1年時から3バックの左センターバックで起用され、プレミアの舞台も経験。昨シーズンは中盤アンカーやドイスボランチの一角を任され、中央でチームのバランスを取り続けた。とりわけベスト4まで勝ち上がったクラブユース選手権では、“勝つ集団”の空気感を肌で感じたという。

「クラブユース選手権の時は、正直内容的な部分はまだまだだったんですけど、とにかく負けなくて、『強いチームの人たちの雰囲気ってこういうことなのかな』と思えたんですよね」。最後は抽選という割り切れない形での敗退を突き付けられたが、あの大会で味わった雰囲気を、今年のチームにも還元したいという想いは人一倍強い。

 プレー面で参考にしている選手は「あまりいなくて困っているんです(笑)」という田村だが、サッカー選手としての存在感という意味で、1つの理想としてイメージするのは、U-15時代の1つ上の“先輩”だ。

「前も取材の時に言ったと思うんですけど、前橋育英の徳永涼選手は元レイソルということもあってずっと意識していました。プレミアリーグのハイライトも前育の試合は必ず見ていましたし、本当に上手くて、味方も動かせるし、声を出せるし、守備もできるし、なんか隙がないというか、どの試合もゲームの流れに関わっているし、プレーの質が常に変わらないのが凄いなって」。

「自分は波があるので、とにかくそれをなくして、毎試合プレーが安定していると言われたいんです」。昨年の高校年代屈指のボランチだった徳永のように、絶対的なチームの中心として、90分間変わらない安定感を打ち出し続けるのも、今年の大きな目標に掲げている。

 アカデミーラストイヤーを目前に控えた時期に開催されていたカタールワールドカップは、改めてモチベーションを高めるには格好の機会だった。「ワールドカップは全試合を見たんですけど、その時に『やっぱりサッカーっていいな』と思ったんです」。いつかは自分も、あの舞台へ。世界最高峰の戦いを目にすることで、明日へと向かう活力が自身の中にみなぎった。

 左足に秘めたそのポテンシャルには、多くの人がさらなる飛躍を望まざるを得ない。サッカーのできる日常に感謝しつつ、自分自身にも期待を懸ける田村の2023年が、いよいよ本格的に幕を開ける。



(取材・文 土屋雅史)

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