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[プレミアリーグEAST]「エイプリルフールですから」の笑顔に隠された10年分の覚悟。横浜FMユースを2-0で撃破した旭川実が念願のプレミア初勝利!

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旭川実高は11年ぶりとなるプレミアの開幕戦で念願の初勝利!

[4.1 プレミアリーグEAST第1節 横浜FMユース 0-2 旭川実高 小机]

「今日はエイプリルフールですから」。そう言って笑ったのはチームを率いる富居徹雄監督だが、この結果は嘘でも冗談でも何でもない。昨シーズンのプレミアリーグEASTで2位に入った難敵を向こうに回し、初参戦時には一度も叶わなかった勝利をしっかりと掴み取ったのだ。

「過去に実業は1度プレミアに行っていたんですけど、その時は勝っていなかったと思うので、自分たちはまだ1試合しかやっていないですけど、この試合だけを見れば実業の歴史を変えられたのかなと思います」(旭川実高・萩野琉衣)。

 全員サッカーで粘り強く引き寄せた、11年越しのプレミア初勝利。1日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第1節、横浜F・マリノスユース(神奈川)と旭川実高(北海道)が激突した開幕戦は、ボールを持たれる展開にも焦れずに戦った旭川実が、前半34分にFW柴田龍牙(3年)のゴールで先制すると、後半23分にもCKからFW清水彪雅(2年)が追加点。2-0で力強く勝ち切り、前回プレミアを戦った2012年シーズンに挙げられなかった白星を手にしてみせた。

 ゲームは「おそらくボールを持つ展開になることは予想していた中で、20分ぐらいまでは良かったですね」と大熊裕司監督も話したように、横浜FMユースのリズムで立ち上がる。開始早々にはイージーミスから、旭川実のFW山口寛太(3年)に決定的なシュートを打たれるも、ここをGK福井大次郎(3年)のファインセーブで凌ぐと、DF畑野優真(3年)とDF埜口怜乃(2年)のCBからボールを動かし、右のMF飯村太基(3年)、左のMF白須健斗(2年)のサイドハーフが果敢に仕掛け、相手を自陣に押し込んでいく。

 それでも、アウェイチームは確かな意志を持って戦っていた。「『ベタ引きはしたくない』とは監督も言ってくれていて、自分たちはもう勝ちに行っていたんです」と明かすのはキャプテンのDF庄子羽琉(3年)。最初の20分をDF岡本染太郎(3年)やDF鈴木奏翔(3年)を中心にした粘り強い守備で何とか凌ぐと、少しずつ反撃の手数を。30分には庄子を起点に柴田も絡み、最後は山口が惜しいシュートを放つなど、漂い始めたゴールの雰囲気。

 そんな流れの中で、きっちりゴールを仕留めたのは35分。相手がビルドアップから縦に差し込んだパスを庄子がインターセプトすると、受けたFW和嶋陽佳(3年)は左へ展開。ドリブルで運んだ柴田はマーカーの追走にも、「相手が結構速く来ていたので、『これは切り返したら足を出しそうだな』と思って、切り返してすぐ打って、みたいなイメージでした」と冷静にフィニッシュ。ボールは右スミのゴールネットを鮮やかに揺らす。「試合前から自分がゴールを決めたいと思っていた」という11番の完璧な一撃。耐える時間の長かった旭川実が1点をリードして、最初の45分間は終了した。

 後半もチャンスは追い付きたいホームチームが作り出す。5分には左サイドへドリブルで持ち出したFW大當侑(3年)が、6分にはやはり左から中へ切れ込んだ白須が、12分にも細かい連携から最後はMF上西遥喜(2年)が相次いで枠内シュートを放ったが、いずれも旭川実のGK越後紀一(3年)がファインセーブで回避。守備陣全体の集中力も高く、エリア付近でのピンチには体を投げ出し、ゴールまでシュートを届かせない。

 すると、次の得点も旭川実に。68分にDF渡邊航生(2年)と柴田で発動したカウンターから獲得した左CK。キッカーの庄子が正確な軌道を中央へ送り届け、途中出場の清水が少し後ろに下がりながら頭で叩いたボールは、ゴールネットへ弾み込む。「自分でも良いところに行ったなと思うんですけど、セットプレーは自分たちの武器なので、偶然ではなくて積み重ねたものなんです」とアシストの庄子。轟く雄叫び。弾ける笑顔。両者の点差は2点に開く。

「7割は僕らがボールを持っていたのに、決定機も相手の方が多かったので、最後の質が足りなかったかなと思います」と畑野も振り返った横浜FMユースは、追い掛ける展開の中でU-17日本代表の海外遠征から帰国したばかりのMF望月耕平(2年)やFWエルシャターブブライト海(2年)、MF濱田心太朗(3年)などアタッカーを続々と投入してゴールに迫るものの、最後の一手を出し切れず、43分に濱田のクロスから大當がボレーでゴールネットを揺らすも、オフサイドの判定。どうしても1点が奪えない。

 そして、4分間のアディショナルタイムも消え去ると、タイムアップのホイッスルが鳴り響く。「結構ボールを持たれて、1試合を通して苦しかったんですけど、チームで決めたことをみんなでやれたので、こういう結果になって良かったです」(萩野)。カウンターとセットプレーから2点を叩き出し、守ってもきっちり無失点。旭川実がチームの歴史に新たな一歩を刻む、悲願のプレミア初勝利を飾る結果となった。

 試合後。記者陣に囲まれた富居監督は、「ゲームの内容としては良くないんですよ。もっとアクションしないといけないし、ちょっと動き出しも遅かったし、いろいろな意味でリアクションになっていて、後手後手に回っていたところは、前半の残り10分くらいまでは間違いなくあったので、それはちょっと課題だよなと思っています」と勝利の感想もそこそこに課題が口を衝く。

 それはキャプテンの庄子も同様。「2-0というスコアだけを見れば、もしかしたら良いのかもしれないですけど、内容としてはもっと自分たちのサッカーをレベルアップさせていかないと、ただの偶然での勝利だと思われてしまうかもしれないので、これからはマグレではない勝利を積み重ねていければいいかなと思います」と、もう視線は次に向けられていた。

 勝利が嬉しくないはずがない。旭川実にとって初昇格のシーズンだった2012年のプレミアは、18試合を戦って1分け17敗と無念の未勝利という結果を突き付けられ、1年で降格。選手たちだって、11年前の先輩たちが味わった悔しさも、それを受けて今シーズンを戦う意味も、十分過ぎるほどにわかっている。だが、彼らが見据えているのは、決して短期的に目指す勝敗ではなく、もっと長期的な視座に立った展望なのだ。

「11年前の話も聞いていましたし、その記録と結構比較されることもあるかもしれないですけど、その結果を超えるというのは自分たちの目標でもありますし、勝つことを当たり前にできるように、さらに勝ち点を積み重ねていかなくてはいけないなって思います」。庄子の言葉は間違いなくチームの共通認識。まずは1勝。それをクリアしたら、今度は次の1勝。その先にある残留や上位進出を目指すのであれば、まだまだやらなくてはいけないことは山ほどある。そんな空気感はスタッフからも、選手たちからも、はっきりと伝わってきた。

 ただ、最後に富居監督の本音が滲んだ。「プレミアから降格したこの10年間でずっとやってきた『アクションする』ということを含めて、自分たちのやりたいことをやりたいなと。そうしないと楽しくないなって。楽しくなかったんですよ、前回はやっていて。自分で指導したり、試合で指揮を執っていても楽しくなかったので。まあ、試合はまだ続くので。これで手を抜いてもらえなくなりますよね(笑)」。

 そもそも手なんて抜いてもらえるはずもないことは、指揮官が誰よりもよく知っている。成功と失敗と。歓喜と悔恨と。成長と停滞と。そんなものを日々繰り返し、それでも前に進んでいくことが、このリーグを戦い抜く唯一の方法なのだから。自分たちのやりたいことを、溌溂と、逞しく、堂々と。11年の時を経て、再び旭川実がプレミアリーグの舞台へ帰ってきた。



(取材・文 土屋雅史)

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