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[MOM4249]FC東京U-18MF佐藤龍之介(2年)_ルヴァン杯でJデビュー済みの10番は1G1Aの活躍も「勝ちも負けも自分の責任だと思っている」

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FC東京U-18MF佐藤龍之介(2年=FC東京U-15むさし出身)は自らゴールを沈めて歓喜のダッシュ

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.9 高円宮杯プレミアリーグEAST第2節 市立船橋高 2-2 FC東京U-18 第一カッターフィールド]

 勝敗の責任を一身に担うことだって、もちろん受け入れている。自分が築き上げてきた立場と、その上で為すべきことのバランスを考えたら、それぐらいやらないといけないことは、もうとっくにわかっている。ただ、その理由はトップチームでデビューしたからとか、10番を背負っているからとか、そういう類のことではない。もっと自分が成長するため。その一択だ。

「今年は勝ちも負けも自分の責任だと思っているので、そういう良い責任というのはちょうど良い緊張感にも繋がりますし、監督にもそのぐらい言ってもらった方が責任を持ってプレーできるかなと思います。そういうの、楽しいです」。

 既にルヴァンカップでJリーグデビューを果たしている16歳。FC東京U-18(東京)のナンバー10。MF佐藤龍之介(2年=FC東京U-15むさし出身)はちょっとずつ、ちょっとずつ、過去最高の自分を目指して、歩みを進め続けている。

 前半はチームも、個人も、思ったようなプレーはできなかった。市立船橋高と対峙したプレミアEAST第2節。先週の開幕節はミッドウィークのルヴァンカップを考慮されてか、後半からの途中出場だった佐藤も、この日はスタートからピッチに解き放たれたものの、開始3分で先制点を許し、以降もなかなか攻撃のリズムが出てこないまま、前半は0-1で終了する。

 ところが、ハーフタイムを経るとチームは息を吹き返す。「『みんな本当にボールを受けたがってるか?』って。『みんなで主体的にプレーしないと前へ進めないぞ』と言われました」(佐藤)。奥原崇監督のシンプルな言葉を受け、チームの矢印が前へと向き始める。その中で“結果”という意味で躍動したのが、この10番だ。

 1点のビハインドを追う後半12分。左サイドのハーフレーンでMF川村陸空(2年)のパスを受けた佐藤は、視野の中にストライカーの動きを捉える。「顔が上がった時に太陽がプルアウェイみたいな感じで離れていたのが見えたので、左足ですけどしっかり自信を持って、太陽を信じてそこに合わせるだけでした」。左足で入れた柔らかいクロスを、胸トラップからFW山口太陽(2年)が豪快なボレーでゴールを陥れる。まずは、1アシスト。

 自ら引き寄せた次の歓喜は、わずか2分後の14分。高い位置でルーズボールを収めると、瞬時に周囲の状況を見極める。「右の方にスペースが空いていたので、そこにドリブルしたら(渡邊)翼が良い斜めの動きで相手をちょっと動かしてくれたので、そこでコースが空きましたし、あとはゴールが見えたので落ち着いて流し込みました。点がメッチャ欲しかったので嬉しかったです」。右足で打ち込んだシュートは、完璧な軌道で左スミのゴールネットへ突き刺さる。佐藤の1ゴール1アシスト。一気にスコアは引っ繰り返った。

 だが、試合後の佐藤の第一声は「悔し過ぎますね」だった。後半終了間際に失点を許し、結果は2-2のドロー決着。2つのゴールに関わりながら、勝利をチームに持って来ることが叶わなかった悔しさが、短い言葉に滲んだ。

 彼に求めていることを奥原監督に聞けば、その感情にも納得だ。「サッカーのところは本人が決めればいいと思うんですけど、もう彼にしているのは『勝ち点3を持って来られるかどうかの責任を負ってくれ』という話ぐらいですかね。トップに行って戻ってきて、今年だと後輩もいる中でどう振る舞って、それをどうチームの勝ちに結び付けられるかを考えてプレーしないといけない選手だと思うので、ゲームに入ったら最終的には結果をどう持って来られるかというところは、90分間彼に委ねていると思っています」。

 その上で、指揮官はこうも語っている。「結果は求めないといけないですけど、周りの選手と一緒にへこまれても困りますし、その責任を背負うようになれば、細かい1つ1つのプレーの重みのようなものは自然に出てくると僕は考えていて、龍之介はそれができるんじゃないかなと思っています」。

 確かに悔しさを一瞬口にした佐藤は、すぐに次のように語っている。「確かに試合が終わった後は悔しいと思うんですけど、内容を見たら結構自分たちの成長は感じていて、後半はみんな前向きなプレーが多くなって、連動もしていましたし、もうちょっと畳み掛けられたら良かったなと思います」。試合直後でも冷静にチームを分析していたというわけだ。

 今シーズンは1月の沖縄キャンプからトップチームに帯同。「自分を知ってもらわないとU-18の選手に相手も興味を持ってくれないですし、まずは自己紹介をしたり、練習の準備をしている時にサッカーと関係ない話をして、ベテランも含めてたくさんの選手に自分をアピールしていきました」と積極的に周囲の選手とコミュニケーションを取ったという。

 特に長友佑都との会話は、とにかく刺激的だった。「ワールドカップの話をしてくれて、『ワールドカップは特別な場所だし、サッカー選手であれば目指さなくてはいけない場所だ』とおっしゃっていましたし、メンタルの部分の話は1つも残さず聞きました」。一見おとなしそうに見えるが、いわゆる“コミュ力”はかなり高め。そういう話を聞くと、今のトップチームでの立ち位置にも頷ける。

 ルヴァンカップで体感したプロの2試合には、大きな気付きがあった。「トップの試合に出ると、とてつもない経験値を得られると思いました。まだ2試合出ただけですけど、勝つために試合に出ているので、自分のプレーだけではなくて、チームの勝利のために戦うという部分では、練習試合でももちろんありますけど、公式戦はまた特別だなと感じています」。

「あとは『生活が懸かっている』というか、この世界で生き残るために選手たちも特別な想いでやっている試合の中で、自分がどれだけボールを受けられるかというのはまだまだなのかなと思います」。勝利のみを追求する姿勢と、この世界で生き残っていくための覚悟。プロサッカー選手が携える矜持が、16歳の柔らかい心には確かに響いたようだ。

 シーズン前に掲げた目標は、言うまでもなくはっきりと変化している。「最初は『トップの試合に出ること』が目標だったんですけど、今は『トップの試合で結果を出すこと』を考えていて、今のところ自分が出た試合は2連敗してしまっていて、それではサッカー選手として評価されないと思うので、『トップの試合に出たらチームの勝利という結果を絶対に持ってくること』を一番の目標にしています」。

 おそらく今シーズンは、U-18とトップチームを行き来する1年になるはずだ。それでも、この男の目の前の試合に対する価値観は揺るがない。「U-18でやる時は少しはホッとしますけど、逆にU-18でプレーする時の方が『自分がやらなきゃ』という想いも強いので、このプレミアの1試合に懸ける想いも、ルヴァンに懸ける想いも、自分の中では変わらないと思います」。

 自身の軸に据えた基準は明確。もっと自分が成長するため。その一択。昨日より今日。今日より明日。想像以上に速いスピードで進み始めた未来への歩みも、緩めるなんて発想は佐藤の中に、きっと微塵もない。



(取材・文 土屋雅史)

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