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選手も監督も「メチャメチャ面白かった」90分間。鳥栖U-18と広島ユースのハイレベルなドロー劇に滲む”自分たちらしさ”

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サガン鳥栖U-18サンフレッチェ広島ユースの熱戦はドロー決着

[5.14 高円宮杯プレミアリーグWEST第6節 鳥栖U-18 1-1 広島ユース 佐賀市健康運動センターサッカー・ラグビー場]

 ボールを動かし、ボールに食らい付き、ボールを奪い合う。攻守は目まぐるしく入れ替わり、常に双方が得点の可能性を漂わせる。負けられない。負けたくない。絶対に勝ちたい。ここまでの技術と戦術と気持ちのぶつかり合いが、プレミアリーグのレベルで交錯すれば、こんなにも面白い90分間になるのだと、この試合を見ていた多くの人が実感したのではないだろうか。

「やっていてメチャメチャ面白かったですね。攻守が激しく入れ替わったりする部分が楽しかったです」(サガン鳥栖U-18・黒木雄也)「攻守ともに切り替えが激しくて、良い試合だったと思いますし、やっていても楽しかったです」(サンフレッチェ広島ユース・石原未蘭)。

 意地と執念が交錯したハイレベルなドロー劇。14日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第6節、サガン鳥栖U-18(佐賀)とサンフレッチェ広島ユース(広島)が対峙した一戦は、前半15分にFW渡邊翔音(2年)のゴールで鳥栖U-18が先制したものの、後半20分に途中出場のMF中島洋太朗(2年)の同点弾で広島ユースも追い付く展開に。終盤までどちらも次の得点を目指してバチバチやり合った好ゲームは、双方に勝ち点1ずつが振り分けられた。

「最初は守備のところも良くて、攻撃もビルドアップもチャレンジしていましたね」と田中智宗監督が話したように、まずはホームチームの勢いが鋭い。前からFW山崎遥稀(2年)と渡邊がプレッシャーを掛け続け、相手のビルドアップを制限しつつ、後方ではDF黒木雄也(1年)とDF林奏太朗(3年)のセンターバックコンビできっちりボールを動かしながら、長いパスも交えて相手を押し込んでいく。

 すると、15分に主役をさらったのは2年生のスピードスター。林からのフィードに反応した渡邊が、懸命に身体を伸ばして頭に当てたボールは、高く緩やかな軌道を描きながら、ゴールネットへ吸い込まれる。「ボールが結構上に行っていたので、『ラインを出たのかな』と思って自陣に戻ろうと思っていたら、みんなが『入った!』みたいな感じで喜んでいたので、自分も喜びました(笑)」という23番の貴重な先制弾。鳥栖U-18が1点のリードを奪う。



 ビハインドを追い掛ける展開となった広島ユースも、飲水タイムに修正を施す。「最初はこのグラウンドの固さと相手の圧に少し戸惑って、繋げるんだけれども大きいボールが多くなって、相手に主導権を握られてしまったかなと。なので、『右サイドの立ち位置を考えて、ポジションを取りましょう』ということを伝えました」(野田知監督)。

 効果はすぐに現れる。「数的優位を作れるように、1人フリーマンを作った状態に修正しました」と明かした右サイドバックのDF石原未蘭(3年)に加え、右センターバックのDF中光叶多(3年)と右シャドーのMF松本夏寿磨(3年)も状況を察知し、立ち位置を工夫することで相手のプレスをいなしつつ、サイドで勝負する形が頻発する。

 24分にはMF木村侑生(3年)が仕掛け、松本が繋いだボールをFW角掛丈(3年)がフィニッシュまで。36分にFW中川育(3年)が左サイドから枠へ収めたシュートは、鳥栖U-18のGK小池朝陽(3年)がファインセーブで回避したものの、「うまく相手にプレスを逃げられてしまったので、そこを自分たちで修正できれば良かったですよね」とは田中監督。広島ユースが主導権を奪い返した前半は、それでも鳥栖U-18のリードで45分間が終了した。

 後半のゲームは打ち合いの様相を呈していく。7分は鳥栖U-18。林が蹴ったFKの流れから、DF松川隼也(3年)の右クロスに堺屋が合わせたヘディングはゴール左へ。14分は広島ユース。DF山根幹央(3年)を起点に木村が繋ぎ、中川の左クロスから角掛が放ったヘディングは小池が何とかキャッチ。16分は鳥栖U-18。中盤で巧みに前を向いた山崎のドリブルシュートは、枠の左へ外れるも好トライ。「自分たちで攻撃の形をちょっと変えてから良い場面もありましたね」とは堺屋。鳥栖U-18も攻撃の形を微調整しつつ、次の1点を果敢に狙う。

 20分に飛び出したのは“ジョーカー”の一振り。広島ユースは左サイドから中川が斜めにパスを打ち込むと、FW井上愛簾(2年)が残して、松本が優しく後方へ。待っていた中島が右足で打ち切ったボールは、右スミのゴールネットへ鮮やかに飛び込む。「中島は『立ち位置で相手を困らせろ』という役割で入れたら、点を獲ってくれました」と笑ったのは、得点のわずか2分前にその中島と井上を同時投入していた野田監督。1-1。采配ズバリ。スコアは振り出しに引き戻された。



「相手も繋ぐというよりはロングボール主体になってきたので、相手に拾われた時はキツくなりますし、拾った時にはチャンスになるという、そこのせめぎ合いというところでしたね」と野田監督がそう振り返った終盤も、双方に負けるつもりなんて微塵もない。

 31分は鳥栖U-18。山崎が左へ振り分け、FW増崎康清(3年)がカットインから狙ったシュートは枠の右へ。37分は広島ユース。中川、井上とパスを回し、松本が叩いたシュートはゴール左へ。40分は鳥栖U-18。高い位置でのボールカットから、MF鈴木大馳(2年)が丁寧に左クロスを上げると、これがケガからの復帰戦となったFW赤崎陵治郎(3年)のヘディングはわずかに枠を越え、頭を抱えるピッチとベンチ。42分は広島ユース。松本のパスから中川が枠へ収めたシュートは、小池がファインセーブで応酬。スリリングな時間が続く。

 44分。鳥栖U-18は左サイドで押し込み、増崎が後方に戻したボールを林は躊躇なくクロス。突っ込んだ赤崎のシュートは、しかしクロスバーを越えると、これがこのゲーム最後の決定機。「たぶん逆転できる試合だったので、そこはもったいなかったと思います」(石原)「勝てた試合かなとは、終わった後にみんなと話していました」(堺屋)。皐月の激闘は両者譲らず。勝ち点1を分け合う結果となった。

 今年の広島ユースも、率直に言って面白い。ボールを握りたい意志は十分に窺えるが、決してポゼッション一辺倒にはならず、右の木村や左の中川のような単騎で剥がせるタレントも居並び、攻撃のバリエーションも非常に豊富だ。「それぞれ個人の特徴があるので、それがうまく出るような配置を考えながら選手を起用しています」とは野田監督。個々の“顔”が見えるようなスタイルが興味深い。

 傍から見れば大きく変えたように映る戦い方にも、「やっていてみんな楽しいと思いますし、技術面も高い選手が多いので、このスタイルが今のチームに合っているかなと思います」と石原も話した通り、選手たちもポジティブに取り組んでいる様子。「今までのスタイルと全然違うので、最初は選手たちも『これで大丈夫かな?』と戸惑いながらやっていたと思うんですけど、これで勝ち点を拾えていることで、顔を見ているとこのスタイルに自信を持ってきているので、たぶんやっていくうちにもっともっと良くなっていくと思います」という野田監督の言葉も今後への期待を増幅させる。

 ただ、続けた指揮官の言葉に本来の“彼ららしさ”が滲む。「今日も引き分けで勝ち点1は積み上げましたけど、この子たちの終わった後の表情を見ていると、負けたかのような顔をしているので、『悔しいんだろうな』って。それもいいですよね」。それでこそ広島ユース。若熊たちの新たなチャレンジは着々と進行中だ。

 2節、3節と喫した連敗から一転、現在は3戦負けなしと調子も上向いている感のある鳥栖U-18。「今シーズンは終盤に防戦一方になることが多かったんですけど、あの時間帯に相手を押し込めたことは収穫ですね。勝ち越せれば良かったですけど、あれは今までのゲームの中にはなかったことなので、そこは交代選手の活躍も含めて、1つ成長できたところかなと思います」と田中監督も引き分けの中で手にした収穫を口にする。

 プレミアリーグの頂点に立った昨シーズンのチームと比較されるのはどうしても避けられない中で、「プレッシャーはありますけど、自分たちは自分たちらしく戦っていかないといけないと思いますし、手応えは掴みつつあります」と話した堺屋は、続けて「ここまで勝てた試合もたくさんありましたけど、失点も少なくなってきていますし、本当に自分たちにはのびしろしかないなと感じています」とこれまた前向きな発言。選手たちも着実に成長を実感しているようだ。

 大阪のRIP ACE SCから加入したばかりの1年生で、U-17日本代表候補にも選ばれている黒木は、笑顔を浮かべながらこう言った。「プレミア、メチャクチャ楽しいです」。恐れを知らない下級生と、昨年のチームを熟知する上級生が溶け合い始めた鳥栖U-18は、6試合を終えて2勝2分け2敗の9得点9失点と、まったくのイーブン。ここからが腕の見せ所。前年王者も少しずつ自分たちの色を纏い始めている。



(取材・文 土屋雅史) 
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