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5年半に渡ってポジション争いを続けてきたライバルは年代別代表に。昌平GK白根翼がようやく掴んだプレミアデビューのピッチで感じたこと

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プレミアデビューを勝利で飾った昌平高GK白根翼(3年=FC LAVIDA出身)

[9.14 プレミアリーグEAST第14節 昌平高 2-1 尚志高 昌平高グラウンド]

 いつかは自分にもチャンスが巡ってくると信じて、日々のトレーニングを積み上げてきた。ようやく訪れたプレミアデビューにも、怯むつもりなんて毛頭ない。ただ無失点に抑えることを、ただ勝利を手繰り寄せることだけを考えて、目の前のやるべきことを淡々と、的確に、こなし続けるだけだ。

「自分が出たこの試合を勝利で飾れたのは本当にホッとしています。僕たちはプレミア優勝を目指しているので、今週は水曜にも試合があって、この3試合は本当に大事だった中で、ここから良い波に乗れていけるんじゃないかなと思っています」。

 昇格2年目のシーズンも後半戦に差し掛かったタイミングで、とうとうプレミアリーグの舞台に立った昌平高(埼玉)の実力派GK。白根翼(3年=FC LAVIDA出身)は楽しく充実した90分間の先で、歓喜の瞬間をチームメイトたちと共有することに成功した。


「良い緊張感はありましたけど、怖いとか出たくないとか、そういう気持ちはなくて、いつも通り練習して、いつも通り試合に行くだけという感じでした。試合が楽しみでしたね」。ホームに尚志高(福島)を迎えて行われたプレミアリーグEAST第13節。昌平のスタメンリストの一番上。“GK”の欄には白根の名前が書き込まれる。

 プレミア初昇格となった昨シーズンはGK佐々木智太郎が全22試合にフル出場。今季も前節までの12試合はいずれも佐々木がスタメン起用されていたが、『国際ユースサッカーin新潟』を戦うU-17日本代表に選出されたため、今節は欠場。この2シーズンで初めて白根に出場機会が回ってきた。



 佐々木と白根はともにFC LAVIDA出身。中学時代は白根が正守護神を務めていたものの、高校に入ってから急成長を遂げた佐々木が定位置を確保し、2年生になってからはほとんどの公式戦で昌平のゴールマウスを託されてきた。

「本当に悔しい気持ちはありますけど、こうなったのもトモ(佐々木)の努力があったからで、自分の努力が足りなかった部分もありますから。トモにレギュラーを獲られていることに対しての不満は全然ないです。僕も信頼しているので、嫌な感情とかは全然ないですね」。あくまでもベクトルを向けるのは自分。再びレギュラーの座を奪い取るため、必死に努力を重ねている。

 予想外の形でやってきたプレミアリーグのデビュー戦。ただ、玉田圭司監督は白根への信頼を隠さない。「普段はトモが出ていますけど、翼に関しては毎日練習でも見ていますし、他のキーパーも含めて切磋琢磨してくれている中で、翼の方が良い部分もあるので、まったく心配なくピッチに送り出せました」。

 それはFC LAVIDA時代から短くない時間を共に過ごしてきたチームメイトも同様。センターバックの2人も似たようなフレーズを口にする。「翼もLAVIDAの時から試合に出ていて、自分もセンターバックで翼と一緒にプレーしていましたけど、智太郎ぐらいやれるキーパーなので、不安はまったくなかったです」(DF坂本航大)「中学からずっと一緒にやっていたので、もう何も言わなくてもカバーのところとか、ボールを下げるところも普通にできる感じです」(DF鈴木翔)。

 もともとS1(埼玉県1部)リーグではキャプテンとしてチームを牽引しているため、試合勘は十分。「昨日は普通に寝れました。全然緊張していなかったです(笑)」という白根は堂々とした足取りで、慣れ親しんだいつものグラウンドで行われる、デビュー戦の舞台へと歩みを進めていく。


 前半8分には相手のシュートが枠内へ飛んできたものの、冷静にキャッチ。以降は昌平がボールを握る展開が続く中で、少しずつかつての感覚が呼び覚まされていく。「自分は中学の頃は試合に出ていたので、その頃のメンバーとまた一緒の試合に出れたというのが楽しかったですね」。

 ただ、39分には一瞬の隙を突かれ、シンプルなフィードから裏を取った相手フォワードに先制点を決められてしまう。「自分とバックラインの連係ミスですね。自分の判断が悪かったかなと。ボールの回転も無回転だったので、軌道が伸びることを予測していれば対応できたかなと思います」。だが、すぐさま切り替えて、ポジティブな声をチームメイトへと届けていく。

 すると、前半終了間際には坂本がセットプレーから同点ゴールをゲット。攻勢を強めた後半はなかなか1点を奪い切れなかったが、終盤の37分にスムーズな連携からキャプテンのMF大谷湊斗(3年)が決勝ゴール。試合は2-1で昌平が勝利。タイムアップの直後には16番の表情にも歓喜が弾ける。

「1失点こそしてしまいましたけど、彼のミスだけでもないですし、そこから学べばいいわけで、その中で勝ち切ったことは翼にとっても大きいですよね」とは玉田監督。試合後には加藤大地GKコーチと笑顔を交えながら、すぐに試合で気になったところをディスカッションする姿も印象的だった。

加藤大地GKコーチと笑顔でディスカッションする白根


 ライバルであり、友人でもある佐々木との関係性がより濃いものになった経験として、白根はこの夏のインターハイを挙げている。「初戦はトモのミスで失点してしまったんですけど、そういうのも慰めるんじゃなくて、ちゃんとダメなところは指摘してあげたいと思っていましたし、トモから『今のどうだった?』とか聞かれた時に、自分の意見をしっかり伝えることで『じゃあオレもこうしてみるわ』となることもあって、インターハイで優勝したいという気持ちがさらに関係を良くしたのかなと思っています」。

「普段も『ああ、今日は身体がダルそうだな』とか、『今日は調子が良さそうだな』とか、そういうことは顔を見たりとか、喋っていたら全然わかりますね。あっちはどう思っているかわからないですけど(笑)、自分は良いライバルだなと思っていますし、良い関係性だなと思っています」。5年以上も同じトレーニングをこなし、1つのイスを争ってきたのだ。お互いのことは、それぞれが一番よくわかっている。

 今度の水曜(18日)には台風の影響で延期になっていた、プレミア第12節の横浜FCユース戦がホームで開催。そこには佐々木も年代別代表の活動から帰ってくる。再び始まる熾烈なポジション争い。どんどん短くなっていく残りの高校生活。それでも、やるべきことは今までと何1つ変わらない。

「もちろんスタメンを獲ることは現状では難しいですけど、これから自分がさらにスタメンを獲りに行けば、トモ(佐々木)も僕と一緒に成長できて、冬の日本一とプレミア優勝もできるんじゃないかなと思っていますし、自分はS1リーグにキャプテンとして出ているので、そこも優勝してプリンスに昇格して、後輩に良いものを残せるように日々練習していきたいです」。

 手繰り寄せたプレミアデビューは、あくまでもさらなる成長のための1つのステップ。どんなタイミングであっても自分にやってきたチャンスで躍動するため、最強のライバルと切磋琢磨し続ける日常の中で、白根はこれからも最高の準備を続けていくに違いない。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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