15歳がプレミアのピッチで痛感した1つのミスの意味。FC東京U-18MF北原槙が見据えるのは明確な結果とたどり着くべき目的地
[9.23 プレミアリーグEAST第15節 横浜FCユース 3-3 FC東京U-18 ニッパツ三ツ沢球技場]
試合に出るだけで満足しているようなメンタルは、もともと持ち合わせていない。日頃から優しく接してくれている先輩たちを差し置いて、ピッチに立っているのだ。求められるのは、結果一択。求めるのも、結果一択。それが叶えられなければ、淘汰されていく。自分がそういう世界に生きていることなんて、この15歳はもうとっくに理解している。
「最近はチームメイトにも認められてきて、信頼してもらえるようになってきていますし、スタメン出場もずっと続いている中で、自分は結果という形で恩返ししないといけないと思っていますし、まだノーゴールということが自分としても悔しいので、これからリーグ戦のあと8試合では、結果を絶対に残さないといけないと思っています」。
高校年代最高峰として知られるプレミアリーグの舞台でも、確かな存在感を放ち始めた驚異の中学3年生。FC東京U-18(東京)で定位置を掴みつつある15歳の新たな才能。MF北原槙(中学3年=FC東京U-15むさし)の視線は、我々が想像するよりも遥かに遠い目的地の景色を、着実に捉えている。
9月23日。プレミアリーグEAST第15節。会場はニッパツ三ツ沢球技場。首位を走る横浜FCユース(神奈川)と対峙するアウェイゲーム。FC東京U-18のスタメンリストには、当然のように45番という大きな番号を背負った北原の名前が書き込まれる。
プレミアデビューは中学3年生になったばかりの4月。それから2か月経った6月の大宮アルディージャU18戦で初スタメンを飾ると、左サイドハーフの位置でとにかくアグレッシブなプレーを連発。両チームの選手で最多となる5本のシュートを記録する。結果的にはノーゴールのまま、後半途中でベンチに下がったが、その際に浮かべていた悔しそうな表情も印象的だった。
そこからのリーグ戦は全試合に先発出場。ここまでの手応えを問われて、「ドリブルでかわすところだったり、左右両足でのキックだったり、サッカーIQみたいなところは通用するかなと思います。でも、点を獲らないといけないと思っています」と言い切るあたりに、頼もしい精神力が滲む。
この日の横浜FCユース戦で解き放たれたのは、それまでの左サイドハーフではなく、MF沼田青瑳(3年)と組むドイスボランチの一角。「試合を落ち着かせるという意味でボランチ起用された中で、まずはボールを展開することにベクトルを向けて試合に入りましたし、ドリブルでかわしてポケットを取りに行くことも意識していました」と明確に果たすべき役割を携えて、ピッチの中央に陣取る。
ところが、前半は10対0というシュート数が表すように、圧倒的なホームチームのペース。北原も懸命にボールを引き出しては、リズム創出に奔走したものの、FC東京U-18は29分に先制点を献上。1-0というスコア以上の差を見せ付けられる格好で、最初の45分間は経過していった。
迎えたハーフタイム。改めて統一し直したのは、アタッカーたちのボールを受けるポジショニングだ。「トップ下の選手とトップの選手と話して、『もう少し自分たちが出しやすい場所へ落ちてくれ』とか、センターバックが当てた後の反応を共通認識として話しました」(北原)。もうやるしかない。巻き返しを誓って、後半のピッチへと走り出す。
後半開始早々の2分。MF高橋裕哉(2年)のゴールで同点に追い付くと、9分には中盤でボールを収めた北原が、右へ丁寧なサイドチェンジをピタリ。受けたMF菅原悠太(2年)のパスからDF田中遥大(1年)が上げたクロスはオウンゴールを誘発する。起点となったのは15歳の視野の広さ。2-1。スコアは引っ繰り返る。
34分にはスペースを見つける才覚を披露する。細かいパス交換から左サイドでボールを持った北原は、半身の状態から相手サイドバックの裏へフワリとした浮き球を供給。走った高橋が中央へ折り返し、FW山口太陽(3年)のシュートはGKに阻まれるも、詰めたFW浅田琉偉(3年)がゴールネットを揺らす。ここも15歳のスルーパスが呼び込んだ追加点。3-1。点差が広がる。
だが、プレミアで首位争いを演じる難敵は一瞬の隙を見逃さない。45+1分。ピッチ中央でボールを持った北原がかわそうとしたマーカーにボールを奪われると、そこから左サイドへと展開され、クロスをヘディングで叩き込まれる。さらに45+4分にも再び左クロスから同じような形で失点。ファイナルスコアは3-3。ほとんど掴みかけていたFC東京U-18の勝利は、するりとその両手からこぼれ落ちた。
試合後。北原は開口一番、2失点目のシーンについての反省を語り出す。「あとはゲームを締めるだけというところで、自分のミスから失点してしまって、その流れから3点目を決められて同点になってしまって……。あの失点に繋がったプレーさえなければ自分の出来も悪くはなかったと思いますし、今日は勝てる試合だったのに、自分のミスで本当につまづいてしまったなと思います。凄く悔しかったです」。
ベクトルはしっかりと自分に向けられる。味わった悔しさは、さらなる成長への糧になる。試合に出ているからには、先輩たちと同様に勝敗の責任を担っている自覚も、十分に自身の中へ刻み込んでいるようだ。
今シーズンのプレミアリーグでは、中学3年生の活躍が目立っている。柏レイソルU-18では長南開史が、鹿島アントラーズユースでは高木瑛人が既にゴールを記録。大宮アルディージャU18でも熊田佳斗、ヴィッセル神戸U-18でも里見汰福が出場時間を伸ばしてきた。
とりわけ目の前で活躍を見せ付けられた長南の存在は、北原も意識せざるを得ないという。「先週の試合では(長南)開史と直接対決をした中で、目の前で点を決められて、凄く悔しい形で試合が終わったので、自分も点を決めないと代表も見えてこないと思っていますし、まず自チームの活動でも点を決めることを意識していきたいと思います」。
何度も口を衝く「ゴールへの欲求」。まだプレミアリーグではゴールを奪えていないが、ここまで結果を求めているのには、確たる理由がある。まっすぐに前を見据えながら発した、15歳の目標と決意が力強く響く。
「まず一番近い目標としては、プレミアリーグで点を獲って、チームの勝利に貢献することです。自分はこの冬のトップチームのキャンプに行きたいと思っていて、そのためにはプレミアの舞台でどう結果を残すかが大事だと思っていますし、3年生のみんなから凄く優しくしてもらって、居心地の良い環境を作ってもらっている中で、あと3か月で3年生に自分の結果や勝利という形で恩返ししたいと思っています」。
この世界で生き抜いていこうとするならば、たどり着きたいと願う目的地なんて、遠ければ遠いほどやりがいがあるに決まっている。秘めているその大きなポテンシャルに、疑いを挟み込む余地はない。ブレない自分の軸を持ったFC東京U-18の中学3年生。北原槙は理解ある周囲への恩返しを誓いつつ、自らの未来を切り拓くために、次の試合も、また次の試合も、チームと自身の結果を求め続ける。
(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2024特集
試合に出るだけで満足しているようなメンタルは、もともと持ち合わせていない。日頃から優しく接してくれている先輩たちを差し置いて、ピッチに立っているのだ。求められるのは、結果一択。求めるのも、結果一択。それが叶えられなければ、淘汰されていく。自分がそういう世界に生きていることなんて、この15歳はもうとっくに理解している。
「最近はチームメイトにも認められてきて、信頼してもらえるようになってきていますし、スタメン出場もずっと続いている中で、自分は結果という形で恩返ししないといけないと思っていますし、まだノーゴールということが自分としても悔しいので、これからリーグ戦のあと8試合では、結果を絶対に残さないといけないと思っています」。
高校年代最高峰として知られるプレミアリーグの舞台でも、確かな存在感を放ち始めた驚異の中学3年生。FC東京U-18(東京)で定位置を掴みつつある15歳の新たな才能。MF北原槙(中学3年=FC東京U-15むさし)の視線は、我々が想像するよりも遥かに遠い目的地の景色を、着実に捉えている。
9月23日。プレミアリーグEAST第15節。会場はニッパツ三ツ沢球技場。首位を走る横浜FCユース(神奈川)と対峙するアウェイゲーム。FC東京U-18のスタメンリストには、当然のように45番という大きな番号を背負った北原の名前が書き込まれる。
プレミアデビューは中学3年生になったばかりの4月。それから2か月経った6月の大宮アルディージャU18戦で初スタメンを飾ると、左サイドハーフの位置でとにかくアグレッシブなプレーを連発。両チームの選手で最多となる5本のシュートを記録する。結果的にはノーゴールのまま、後半途中でベンチに下がったが、その際に浮かべていた悔しそうな表情も印象的だった。
そこからのリーグ戦は全試合に先発出場。ここまでの手応えを問われて、「ドリブルでかわすところだったり、左右両足でのキックだったり、サッカーIQみたいなところは通用するかなと思います。でも、点を獲らないといけないと思っています」と言い切るあたりに、頼もしい精神力が滲む。
この日の横浜FCユース戦で解き放たれたのは、それまでの左サイドハーフではなく、MF沼田青瑳(3年)と組むドイスボランチの一角。「試合を落ち着かせるという意味でボランチ起用された中で、まずはボールを展開することにベクトルを向けて試合に入りましたし、ドリブルでかわしてポケットを取りに行くことも意識していました」と明確に果たすべき役割を携えて、ピッチの中央に陣取る。
ところが、前半は10対0というシュート数が表すように、圧倒的なホームチームのペース。北原も懸命にボールを引き出しては、リズム創出に奔走したものの、FC東京U-18は29分に先制点を献上。1-0というスコア以上の差を見せ付けられる格好で、最初の45分間は経過していった。
迎えたハーフタイム。改めて統一し直したのは、アタッカーたちのボールを受けるポジショニングだ。「トップ下の選手とトップの選手と話して、『もう少し自分たちが出しやすい場所へ落ちてくれ』とか、センターバックが当てた後の反応を共通認識として話しました」(北原)。もうやるしかない。巻き返しを誓って、後半のピッチへと走り出す。
後半開始早々の2分。MF高橋裕哉(2年)のゴールで同点に追い付くと、9分には中盤でボールを収めた北原が、右へ丁寧なサイドチェンジをピタリ。受けたMF菅原悠太(2年)のパスからDF田中遥大(1年)が上げたクロスはオウンゴールを誘発する。起点となったのは15歳の視野の広さ。2-1。スコアは引っ繰り返る。
34分にはスペースを見つける才覚を披露する。細かいパス交換から左サイドでボールを持った北原は、半身の状態から相手サイドバックの裏へフワリとした浮き球を供給。走った高橋が中央へ折り返し、FW山口太陽(3年)のシュートはGKに阻まれるも、詰めたFW浅田琉偉(3年)がゴールネットを揺らす。ここも15歳のスルーパスが呼び込んだ追加点。3-1。点差が広がる。
だが、プレミアで首位争いを演じる難敵は一瞬の隙を見逃さない。45+1分。ピッチ中央でボールを持った北原がかわそうとしたマーカーにボールを奪われると、そこから左サイドへと展開され、クロスをヘディングで叩き込まれる。さらに45+4分にも再び左クロスから同じような形で失点。ファイナルスコアは3-3。ほとんど掴みかけていたFC東京U-18の勝利は、するりとその両手からこぼれ落ちた。
試合後。北原は開口一番、2失点目のシーンについての反省を語り出す。「あとはゲームを締めるだけというところで、自分のミスから失点してしまって、その流れから3点目を決められて同点になってしまって……。あの失点に繋がったプレーさえなければ自分の出来も悪くはなかったと思いますし、今日は勝てる試合だったのに、自分のミスで本当につまづいてしまったなと思います。凄く悔しかったです」。
ベクトルはしっかりと自分に向けられる。味わった悔しさは、さらなる成長への糧になる。試合に出ているからには、先輩たちと同様に勝敗の責任を担っている自覚も、十分に自身の中へ刻み込んでいるようだ。
今シーズンのプレミアリーグでは、中学3年生の活躍が目立っている。柏レイソルU-18では長南開史が、鹿島アントラーズユースでは高木瑛人が既にゴールを記録。大宮アルディージャU18でも熊田佳斗、ヴィッセル神戸U-18でも里見汰福が出場時間を伸ばしてきた。
とりわけ目の前で活躍を見せ付けられた長南の存在は、北原も意識せざるを得ないという。「先週の試合では(長南)開史と直接対決をした中で、目の前で点を決められて、凄く悔しい形で試合が終わったので、自分も点を決めないと代表も見えてこないと思っていますし、まず自チームの活動でも点を決めることを意識していきたいと思います」。
何度も口を衝く「ゴールへの欲求」。まだプレミアリーグではゴールを奪えていないが、ここまで結果を求めているのには、確たる理由がある。まっすぐに前を見据えながら発した、15歳の目標と決意が力強く響く。
「まず一番近い目標としては、プレミアリーグで点を獲って、チームの勝利に貢献することです。自分はこの冬のトップチームのキャンプに行きたいと思っていて、そのためにはプレミアの舞台でどう結果を残すかが大事だと思っていますし、3年生のみんなから凄く優しくしてもらって、居心地の良い環境を作ってもらっている中で、あと3か月で3年生に自分の結果や勝利という形で恩返ししたいと思っています」。
この世界で生き抜いていこうとするならば、たどり着きたいと願う目的地なんて、遠ければ遠いほどやりがいがあるに決まっている。秘めているその大きなポテンシャルに、疑いを挟み込む余地はない。ブレない自分の軸を持ったFC東京U-18の中学3年生。北原槙は理解ある周囲への恩返しを誓いつつ、自らの未来を切り拓くために、次の試合も、また次の試合も、チームと自身の結果を求め続ける。
(取材・文 土屋雅史)
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