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青森から単身でやってきた頼れるキャプテンが家族の前で躍動!浦和ユースDF阿部慎太朗は確かな結果で「このクラブに来た意味」を証明する!

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浦和レッズユースを束ねるキャプテン、DF阿部慎太朗(3年=リベロ津軽SC U-15出身)

[10.12 プリンスリーグ関東1部第16節 帝京高 1-2 浦和ユース 帝京科学大学千住総合グラウンド]

 押し込まれる時間が続く展開の中で、必死に耐える。止まりかけている自分の足を何とか動かし、チームメイトにも声を掛け続け、1点のリードを守り切るべく、懸命にボールを弾き返す。そんな中でようやく聞いたタイムアップのホイッスルは、また格別だった。遠方から駆け付けた家族の前で、キャプテンとしてチームを勝利に導いたのだから。

「『やっと終わった』というのは素直に思いましたね。自分のサイドの角に時計があったんですけど、ずっとチラチラ見ても『まだ3分しか経ってない……』みたいな感じで(笑)、ちょっと長かったですけど、自分も少し足が攣り掛けていて、『これ以上攻められたら嫌だな』と思っていたので、そこで終わってホッとしました」。

 後半戦に入って6連勝と好調をキープしている、浦和レッズユース(埼玉)を率いてきた不動のキャプテン。DF阿部慎太朗(3年=リベロ津軽SC U-15出身)はこのクラブで重ねてきた3年間の成長を証明すべく、最後の2か月を望んだ結果で締めくくるための覚悟を定めている。


「前期は0-1で負けている相手で、後期のこのゲームも絶対に勝たないといけない中で、スカウティングでしっかり映像を分析して、相手が繋ぐことが上手いのはわかっていたので、奪いに行くのはもちろんですけど、少し引いて守ることも全員で共有してやろうというのは練習でもしっかり話していました」(阿部)。プリンスリーグ関東1部第16節。技術の高い選手を揃えた帝京高(東京)とアウェイで対峙する一戦に向けて、浦和ユースの選手たちは綿密なゲームプランを携えて、試合の日を迎えていた。

 チームを率いる平川忠亮監督が、こんなことを教えてくれる。「実は分析も彼らにやらせているので、対戦相手がどういうシステムで、どういう守備をしてくる、じゃあ自分たちはどういうふうに戦うかというところを、彼らでミーティングさせています」。指揮官の信頼を受け、主体的に考えた戦い方を遂行するのは阿部の“同級生”たちだ。

 2日後にU-17年代で行われるJユースカップの公式戦を控えていることもあって、この日のスタメンには普段出場機会の限られている選手も含めて、9人の3年生が名を連ねていた。大事なゲームのピッチに立つ権利を与えられた彼らが、意気に感じないはずがない。

「トシ(照内)はトップ昇格するんですけど、他の選手はみんな大学に進学して4年間鍛えることになるので、残り試合をプリンスの“3試合”にするのか、それとも3位までに入って“5試合”にするのかというところで、自分たちの試合の結果でこのエンブレムを付けられる時間も変わってくるという意味で、やっぱり3年生としてはもっと長くプレーしたいとみんなが思っています」(阿部)。この仲間で一緒にサッカーできる時間を、少しでも長くしたい。いつも通りの明るい雰囲気で、11人が勝負のグラウンドに足を踏み入れる。


「自分たちも決定的なチャンスをカウンターで作れたとはいえ、崩されるシーンが多かったので、内容で言ったら相手の方が良かったと思います」。阿部がそう振り返るように、試合の大半は帝京の迫力あるアタックに押し込まれる時間が続いていた中で、GK吉澤匠真(3年)のビッグセーブや時にはゴールポストにも助けられつつ、何とかピンチを1つ1つ凌いでいく。

 すると、前半終了間際の44分にはトップ昇格内定のエース、FW照内利和(3年)が豪快なゴールを叩き込んで先制に成功。さらに後半9分にもMF井上大輝(3年)のCKからDF田中義峯(1年)が追加点をゲット。厳しい展開の中で浦和ユースが2点を先行する。

 粘る帝京も27分に1点を返すと、その後はギアを上げて猛攻を繰り返す。それでもアウェイチームは、スタメンで奮闘した3年生から交代のバトンを受け取った2年生たちも、自分たちのやるべきタスクをまっとう。少しずつ、少しずつ、時計の針を確実に進めていく。

 足は限界に近付いていたが、自分が戦わないわけにはいかない。気力で相手の攻撃に立ち向かっていた阿部は、試合終了の笛の音を聞くと、ガッツポーズを繰り出しながら、そのままピッチに倒れ込む。「途中から入ってきた選手もしっかり試合に入れましたし、『戦い方を全員で共有してやろう』というのは練習でもしっかり話していたので、そこが一体感として出たのかなと思います」。チーム全員で掴んだ勝利の意味を、じっくりと噛み締めた。



 阿部の前所属チームには、青森のリベロ津軽SC U-15というクラブ名が記されている。「スカウトの田畑(昭宏)さんが練習を見に来てくださって、中3の夏にレッズのユースに練習参加したんですけど、その時に『本当に凄いクラブだな』と率直に思って、『このクラブでプレーしたい』という気持ちがどんどん高まっていったんです」。さらに15歳の決断を“先輩”が後押しする。

「1回リベロの練習にOBの藤原優大さんが来てくださった時に、自分がレッズから声が掛かっていることを知っていて、『浦和に来いよ』と言っていただいたのも、ここに来る理由になったかなと思います」。熟考を重ねた末、憧れの先輩もプレーしている日本有数のビッグクラブで自分を磨くために、単身で埼玉へとやってきた。

 この日の試合には、どうしても負けられない理由があったという。「今日はたまたま家族が全員来ていたんです。お母さんは何回か見に来ているんですけど、お父さんは仕事の都合もあって3年間で初めて試合を見にきてくれたので、本当はもっと良い内容で勝ちたかったんですけど、自分が3年間成長した姿を見せられたのは嬉しかったですね」。

 試合後にはチームスタッフから「慎太朗!そこで“阿部一族”が待ってるぞ!」と声を掛けられる一幕も。自分の選択を快く後押ししてくれている家族の前で、懸命に戦った末に手にした白星は、間違いなく阿部のさらなるモチベーションに繋がっていくことだろう。


 もうこのチームで戦える時間も限られていることは、自分たちが一番よくわかっている。大学進学が決まっている阿部も、この残された2か月あまりの時間を、3年間をともにした仲間たちと最後まで駆け抜ける準備は、とっくに整っている。

「レッズに加入させていただけたことは誇らしいことですし、入ったからにはレッズのプライドや誇りというものを絶対に持たないといけないですし、浦和を背負う責任があるのは理解しています。少しプレッシャーではありますけど、ここに来た意味を証明したいなという想いは強く持っています」。

「去年のプレーオフは2回戦で負けてしまったんですけど、そのピッチで戦っていた選手が自分たちの代は多くいて、あそこで流した涙の悔しさは今でも強く持っているので、今年こそは広島に行くだけではなくて、そこで2回勝ってプレミアに行くという気持ちをブラさずに、ここからもやっていきたいと思います」。

 埼玉スタジアム2002のスタンドから見つめたアレクサンダー・ショルツに衝撃を受け、背番号28のユニフォームを3年間纏い続けてきた浦和の漢。今年こそはプレーオフを勝ち抜いて、みんなでプレミアリーグ昇格を引き寄せる。レッズの選手であるという誇りを胸に、阿部慎太朗はこのクラブに来た意味を、最高のフィナーレで示してみせる。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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