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[イギョラ杯]アカデミー9年目でより高まっている「夢の降る場所」へとたどり着く覚悟。甲府U-18MF楠彪が期すプロサッカー選手へのラストスパート

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ヴァンフォーレ甲府U-18のキャプテンを務めるMF楠彪(2年=ヴァンフォーレ甲府U-15出身)

[3.20 イギョラ杯予選リーグ 甲府U-18 0-1 神戸弘陵高 赤羽の森G]

 小学校4年生で初めてこの青と赤のユニフォームに袖を通してから、ずっと目指してきたステージが目の前まで迫っている。それを手繰り寄せられるか否かは、ここからの自分次第。スタンドから見つめてきた憧れのピッチに立つためのラストスパート。もう、やり切るしかない。

「今年でアカデミーも9年目で、やっぱり小さいころからヴァンフォーレのトップの選手として試合に出ることを目標にしていたので、今年中には2種登録を勝ち獲って、J2のリーグ戦の試合とかルヴァンカップに少しでも絡めるようにしたいなと思っています」。

 ヴァンフォーレ甲府U-18(山梨)の中心にそびえ立つ、しなやかなコントロールタワー。MF楠彪(2年=ヴァンフォーレ甲府U-15出身)が攻守に繰り出す効果的なプレーは、いつでもチームに大きなプラスアルファをもたらしていく。


 全国から30チームが集って行われている『第34回イギョラ杯国際親善ユースサッカー』の初日。甲府U-18は神戸弘陵高(兵庫)の幅を使った攻撃にやや押し込まれる展開が長く、なかなか自分たちの時間を作り出すまでには至らない。

「相手はうまくまとまっていて、守備も難しかったですね。1点獲られた後にも結構時間があったんですけど、攻撃のところでも距離感がちょっと遠くて、なかなか後ろから組み立てることができなくて、相手の時間が多かったと思います」。

 そう話す楠はキャプテンマークを巻きながら、ボランチの位置でゲームの流れを見極めていた。「守備の面では結構個人で奪えたところもあったんですけど、攻撃のところももうちょっと違いが見せられたらなと思いました」とは本人だが、決して屈強なタイプというわけではないものの、自分のエリアに入ってきた相手からボールを奪い切る球際の強さも見せつつ、自身もパスを受けるとロングボールで大きな展開へとトライ。チームの中心としての存在感を色濃く放っていく。

 ただ、後半開始早々に奪われた1点を返せず、甲府U-18は0-1で敗戦。「もうちょっと全体の距離感が近ければ、もっと前にボールを運べたかなという印象はあります。相手をもうちょっと動かして、コート全体を使って相手を広げて、そこから中にくさびを入れて、相手を崩していくのが理想的だったんですけど、ちょっと相手が前から来てハメられたので、うまく繋げなかった部分はあります」。終わったばかりの80分間を冷静に、的確に振り返る口調に、この人のサッカーIQの高さが滲む。



 今冬にはトップチームのキャンプにも帯同。「シュート1つにしても、トラップ1つにしても、そこにはまだ差があるかなと感じました」とプロ選手との違いを肌で体感しながら、一方で今まで自分が培ってきたものが通用する手応えも掴んできた。

「攻撃のところでは、自分より身体の大きい選手に身体を当てられても、簡単にボールを奪われないところはできましたし、守備のところでも同様に大きな選手に対して、身体の当て方や予測でボールを奪えるシーンもあったので、そこは自分の武器を出せたかなと思います」。

 キャンプ参加中にはトレーニングマッチにもトップ下のポジションで45分間出場。最初はゲームの強度に圧倒されながらも、少しずつスピード感に慣れてからは、持ち味を出せるシーンもあったとのこと。「守備でも攻撃でも全然できるところも多かったです」と一定の自信を手にすることに成功した。

 自身が務めることの多いトップ下とボランチのポジションでは、それぞれ参考にすべき選手が見つかったという。「トップ下だったら鳥海(芳樹)選手は間で受けて、相手の嫌がるようなプレーをしていましたし、ボランチだったら林田(滉也)選手は守備でも相手ボールを奪えますし、判断が速くてボールを奪われないなと思いました」。

 ヴァンフォーレのトップチームは雰囲気の良さが印象的だが、年上のプロ選手たちを前に緊張を隠せなかった高校2年生に対して、優しく声を掛けてくれた“先輩”たちについても、楠は少し嬉しそうに言及する。

「ユース出身の選手でもある内藤大和選手や井上樹選手は、プレーの面でも進路のことでもいろいろ話ができました。あとは大島康樹選手や田中雄大選手は、練習試合でも一緒に出させてもらって、プレーの部分で助けてもらいましたし、いろいろアドバイスしてもらいました」。挙がった名前には何となく納得できる気もするが、高校生の柔らかな視点も面白い。


 小学校4年生でヴァンフォーレに加入した楠は、6年時に『ダノンネーションズカップ2019 in JAPAN』で日本一に輝き、スペインで行われた世界大会にもキャプテンとして出場するなど、青と赤のユニフォームを纏って数々の得難い経験を重ねてきた。

 在籍9年目となる今年はアカデミーラストイヤー。気の置けない仲間と過ごす時間もタイムリミットが近付いてきている中で、このクラブで成し遂げたいことを、楠は力強く口にする。

「チームとしては次の世代のためにもプリンスリーグで1部に昇格しないといけないと思いますし、夏の全国大会に今年も出場できるように、まずは関東予選をしっかり勝っていきたいです。個人としてはトップチーム昇格を目指して日々頑張りたいと思います」。

 『夢の降る場所』へとたどり着くための覚悟は、もうとっくに整っている。このクラブで、このエンブレムを背負って戦う意味を、過不足なく理解している17歳。輝く小瀬のピッチに立つ日を夢見る楠彪の大いなるチャレンジは、楽しみな可能性で鮮やかに彩られている。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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