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アジアでの戦いで再認識したのは「サッカーを楽しむ気持ち」の大切さ。鹿島ユースDF元砂晏翔仁ウデンバが191センチの体躯に詰め込む圧倒的ポテンシャル

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鹿島アントラーズユースDF元砂晏翔仁ウデンバ(2年=FCフレスカ神戸出身)は完封勝利に大きく貢献

[5.6 プレミアリーグEAST第6節 市立船橋高 0-1 鹿島ユース 船橋市法典公園(グラスポ) 球技場]

 一番シビアな最後の局面で、無理が利く。身体を当てる。足が伸びる。ボールを掻き出す。それを実にしなやかに、鮮やかにこなしてしまうのだから、相手のフォワードからしてみれば、厄介極まりない。

「サッカーを楽しんでいる時は一番調子が良いんですけど、(U17)アジアカップでは相手が外国の選手ということもあって、試合でもサッカーを楽しむ気持ちというのを持てたので、これからも楽しんで試合をしていきたいと思っています」。

 高いレベルで柔と剛を兼ね備えた鹿島アントラーズユース(茨城)の大型センターバック。DF元砂晏翔仁ウデンバ(2年=FCフレスカ神戸出身)は実戦経験を重ねるごとに、そのピッチ上での存在感を高め続けている。


 ディフェンダーとしては悔しい90分間を強いられた。5月3日。プレミアリーグEAST第5節。東京ヴェルディユースを“クラハ”で迎え撃った一戦は、失点を重ねる格好で0-3の完敗。ホーム連敗を喫してしまう。

「ああいう試合は年間通して少ないと思うんですけど、少し雰囲気も悪かったですし、1つになり切れていない感じがありました。全体的に集中し切れていなかったですね」と話す元砂は、もう3日後に迫っていた次のゲームに向けて、センターバックでコンビを組むキャプテンのDF大川佑梧(3年)と、改めて自分たちのやるべきことを再確認する。

「ヴェルディ戦はラインコントロールが合っていなかったところがあったので、どっちも声を掛け合ってしっかりラインの上げ下げをすることと、ネガティブな声が多かったので、『ポジティブな声を出そう』というのは2人で話していました」。お互いの意識を合わせて、市立船橋高校(千葉)とのアウェイゲームへ準備を重ねてきた。

 雨が降りしきる中でキックオフを迎えたゲームは、立ち上がりから鹿島ユースがリズムを引き寄せると、前半21分にはFW吉田湊海(2年)が先制ゴールを奪い、1点のリードを手にする。

「前半はずっと押し込んでいましたし、自分的にもリスク管理の部分で相手をしっかり潰せていたと思います」(元砂)。とにかく、何もやらせない。ほとんどの空中戦で競り勝つのは言うに及ばず、時折発動する市立船橋のカウンターにも素早く対応し、涼しい顔でチャンスの芽を潰しまくる。

 さらにやや体勢が厳しくなっても、その長い足で相手ボールを粘り強く絡め取る。「今日はピッチが濡れていたので、スライディングも楽しんでできました。前節で負けていたので、『この相手には勝つ』『絶対にやらせない』という気持ちもあって、足を伸ばすことができました」。この日は大川との連携も抜群。鉄壁のカーテンを敷き続ける。

スムーズな連携でボールを奪い取る元砂と大川


 後半の終盤にはインターセプトからそのままドリブルを開始し、相手と激しく競り合いながら駆け上がるシーンも。「自分的には引っ張られていたので、ファウルだと思ったんですけど、そのまま自分でプレーをやめないで行きたかったですね」とは本人だが、そのダイナミックなプレーにスタンドからもどよめきが巻き起こる。

 試合はそのまま1-0でタイムアップ。「後半は結構押し込まれたんですけど、僕も含めて4バックが集中してできましたし、自分も結構球際にも行けたと思うので、良かったです」と笑顔を見せた元砂のパフォーマンスには、チームを率いる中野洋司監督も「本当に頼りになるというか、大川と2人は今日も最後のところで頑張ってくれたかなと思います」と納得の表情。完封勝利に背番号3が果たした貢献度は、極めて高かったと言っていいだろう。


 中学時代は兵庫の強豪クラブ・FCフレスカ神戸でプレーしていた元砂には、複数のJクラブユースや高体連の強豪から声が掛かっていたが、本人はその中からアントラーズを選んだ理由をこう明かす。

「結構スカウトも来たんですけど、最初に来てくれたのがアントラーズで、一番最初に練習会に行ってみたら、環境もメッチャ良かったですし、サッカーに集中できるなと思ったのと、自分がプロを目指すうえではユースの方が早いかなと思って、決めました」。

 関西から単身で鹿島へとやってきたユース1年目は、同級生の吉田やMF大貫琉偉(2年)、MF福岡勇和(2年)らが開幕から定位置を確保したのに対し、なかなかプレミアのメンバー入りを果たすことも叶わなかったが、9月の流通経済大柏高戦で初スタメンを勝ち獲ると、以降は少しずつ出場機会を重ね、ゴールも記録。「1年生のうちにプレミアにもちょっと絡んでいけて、この1年間で自分の思っている以上にアントラーズで成長できたなと。最初の方はキツかったですけど、今は来て良かったと思っています」と自身の成長にも手応えを感じているようだ。



 4月にはU-17ワールドカップの出場権を懸け、U17アジアカップを戦うU-17日本代表に追加招集され、シビアな国際舞台の雰囲気を味わってきたが、元砂はサウジアラビアの地から収穫と課題を同時に持ち帰ってきたという。

「全部で4試合あったんですけど、最初の3試合は出れなかったので、(準々決勝の)サウジアラビア戦に全部ぶつける気持ちでやりました。自分的には結構良いプレーができたので、絶対に勝ちたかったんですけど、負けてしまいましたし、ロングボールへの対応や相手をマークする時に首を振るところも指摘されたので、あの悔しさをバネに、そういう課題を潰していけたらと思います」。

 出場権を掴んだU-17ワールドカップの本大会は11月にカタールで開催される。ここから半年近い時間は、ある意味でメンバー入りを巡るサバイバルの日々でもある。「ワールドカップまで結構時間がありますけど、絶対に行きたいですし、スタメンで出れるように準備していきたいと思っています」。元砂はより自分にベクトルを向けて、世界との邂逅を見据えながら、成長速度を速めていく。

 そのためにも、まず求められるのは自チームでの躍動。ただ、そんなことは本人が一番よくわかっている。16歳の決意が力強く響く。「アントラーズはメンバーも揃っていて、周囲からも期待されていると思うので、クラブユースもプレミアも優勝して、二冠を獲れるように頑張りたいと思います」。

 191センチの立派な体躯に詰め込まれたのは、世界を驚かせ得る無限のポテンシャル。鹿島ユースの最終ラインを引き締める、背番号3の護り人。元砂晏翔仁ウデンバは、これからのキャリアを大きく揺り動かす可能性を秘めた2025年を、全速力で駆け抜ける。



(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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