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[MOM244]流通経済大GK八巻楽(4年)_流経大の躍進を支える“下手なキーパー”

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[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[8.15 総理大臣杯準決勝 流通経済大1-1(PK5-4)福岡大 長居]

 DF山村和也(現・鹿島)、MF三門雄大(現・新潟)、MF千明聖典(現・岡山)、FW阿部吉朗(現・磐田)、FW船山貴之(現・松本)らこれまで流通経済大を彩ったスターは今年のチームには一人もいない。それでもチームが負けないのは、主将を務めるGK八巻楽(4年=聖望学園高)という男の存在があるからだ。

「はっきり言って下手。3年間見てきて、言い方は悪いけど、“この選手使えないな、レギュラーになれないな”と思っていたキーパー。決してJに行ける選手ではないですよ」。中野雄二監督が並べる彼への評価はどれも辛らつに聞えるようなものばかり。本人も「僕が試合に出させてもらっているのも実力というよりは運がほとんど。キャプテンをやらさせてもらっているのも偶然といえば偶然。周りより優れているから出ているというよりは運を掴んでいるだけ」と評す。

 それでも指揮官は彼の持つキャプテンシーに最大限の愛情を込めて賞賛を送る。「今までサッカーの技術的に上手い子を使ってきたけど、チーム作りって、精神面で軸になる選手も必要だと思って、総理大臣杯関東予選の3位決定戦で初めて使った」。この一戦でしっかりとアピールに成功し、今大会では守護神の座を授かった。

 勢いのまま迎えた今大会でも3試合で2失点と堅い守備を牽引し、この試合でも相手の迫力のある攻撃を何度も弾き返した。「自分たちは上手い選手というよりは気持ちをプレーに前面に出して、泥臭くというのがスタイル。そこだけはブレずにやろうというのを毎試合、徹底している。それが出来ているから、結果が出てきたのかなと思う」。自身が分析するチームスタイルを一番、表現しているのは彼なのは間違いない。

 辛らつに聞こえた中野監督の言葉も彼の話題を進めるにつれ、「八巻が試合に出たことがここまで勝ち上がってきた最大の要因だと思う。前半のヘディングのような物凄く難しいシーンもはじき出した。ああいうプレーも出来る選手なんだと僕もびっくりしています。大学のスポーツだし、気持ちのある選手をピッチに立たせたいと思うようになって、彼を立たせたら、チームが明らかに変わった。応援の雰囲気もああいうキャプテンシーのある人間に対して、俺たちもついていこうという意思の表れだと思う」と変化していった。

 高校時代は埼玉県大会ベスト8進出が精一杯で、今回が初めての全国大会。それでも、「環境だったり、スタッフや仲間は日本一だと思っていたので、その環境でどこまで出来るか試してみたかった」と強豪・流経大の門を叩いた。

「入ってみて、上手い選手ばかりだった。今でも僕より上手いキーパーはいっぱいいますし…。何でここまで来ているのか、勝っているのも運でしかないんで、説明しにくいです(笑)」。最後まで謙虚な言葉を本人は続ける。決して、謙遜ではなく本心なのだろう。ただ、“下手なキーパー”の大きな存在は流経大が頂点に立つためには欠かせないのは間違いない。

(取材・文 森田将義)
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