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[総体]「弱虫はいらない」走り、戦い、気持ちで勝った市立船橋、攻めて4発で日本一!!

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平成25年度全国高校総体
「2013 未来をつなぐ 北部九州総体」サッカー競技

[8.7 全国高校総体決勝 市立船橋4-2流通経済大柏 レベスタ]

 市立船橋、8度目となる夏の覇者に――。平成25年度全国高校総体「2013 未来をつなぐ 北部九州総体」サッカー競技は7日、福岡市のレベルファイブスタジアムで決勝を行い、市立船橋(千葉1)と流通経済大柏(千葉2)の千葉県勢同士が激突。市立船橋が4-2で勝ち、最多記録を更新する8回目(3年ぶり)の優勝を果たした。

 全国決勝の舞台で実現した千葉ライバル対決は前半から激しい打ち合いとなった。前半14分、市立船橋はオープンスペースへ飛び出した右MF篠原良介(3年)が相手GK、DFと交錯。主審の笛は吹かれず、3者が倒れこんでいる中でいち早くボールに駆け寄ったFW横前裕大(3年)が右足で先制ゴールを流し込む。アンラッキーな形で失点した流経大柏だが、19分に同点に追いつく。5戦連発中のFW立花歩夢(3年)が中央から出したスルーパスは通らなかったが、こぼれ球を右サイドへ展開すると、右SB入江勇樹(3年)の右クロスをファーサイドのFW森永卓(3年)がヘディングシュート。登録152cm、両チームで最も小柄なFWの一撃で1-1となった。

 ややゆっくりと攻撃をつくり合っていた序盤から一気にテンションの上がった試合は、さらに加速する。MF室伏航(3年)を頂点に横前とエースFW石田雅俊(3年)がシャドーの位置に構える市立船橋は、室伏がボールを収め、横前がタイミング良く飛び出すなど連動性のある攻撃。28分には正面左寄りの位置でボールを受けた石田がターンでDFを外して足先でスルーパスを送る。室伏がDFと競りながら左足を振りぬくと、ボールはゴール右隅へ突き刺さった。

 2度目のリード。それでも流経大柏は再び追いつく。31分、MF秋山陽介(3年)が敵陣左サイドでインターセプトすると、中央の立花へスルーパス。立花の突破は阻まれたものの、こぼれ球を拾った森永が右への動きでDFを外してから右足シュートを叩き込んだ。高校サッカー界を代表する両雄の激しい「点取り合戦」。6月の県大会決勝で2-3のスコアで敗れている流経大柏が雪辱へ闘争心を持って襲い掛かれば、日本高校選抜DF磐瀬剛主将(3年)、MF藤井拓(2年)と主力2人を出場停止で欠く市立船橋も、「自分が今までやってきたことを信じて。(磐瀬)剛がいなくてもできるところを見せることができたと思います。厳しく行くところはチームのコンセプト。流経相手だからと言って引くことなく、しっかりと勝負しました」というゲーム主将のCB柴戸海(3年)らが期待に応えて厳しい守りで対抗するなど、白熱した展開となった。

 後半立ち上がりは2度の同点弾で勢いづく流経大柏がプッシュ。U-18日本代表候補MF青木亮太(3年)が仕掛けからドリブルシュートへ持ち込むなど、攻撃のダイナミックさがやや欠けていた市立船橋を押し込んだ。だが11分、流経大柏DF陣が最終ラインで痛恨のクリアミス。インターセプトした室伏がDFのスライディングタックルをかわしてPAへ侵入すると、GKとの1対1から左横へパスを送る。これに走りこんだ石田が難なく右足でゴールヘ沈めて市立船橋が三度勝ち越した。

 この日、流経大柏は珍しく非常にミスが多く、中盤、最終ライン、GKの対応の遅れや、ボールコントロール、キックの乱れが目立つ展開。競り負けてバイタルエリアを突破した相手を後方から追うようなシーンも見られた。一方、勝ち越した市立船橋は3バック中心に相手のミスを誘い、セカンドボールを拾うと、幅を使いながらスペースへボールを運んでゲームをコントロールしていく。終盤、流経大柏は今大会得点ランキング首位の立花、秋山をベンチへ下げて、U-18日本代表候補の左SB石田和希主将(3年)を中盤へ移動。そして投入した183cmFW星野秀平(3年)目掛けたロングボールで相手を押し下げようとする。

 底力を見せる流経大柏は27分に3度目の同点かと思わせる絶好機。上手く左中間のスペースを突いた森永とのワンツーから星野がGKと1対1になる。だが、決定的な右足シュートは市立船橋のU-18日本代表候補GK志村滉(2年)が左手ワンハンドでビッグセーブ。逆に市立船橋は直後、カウンターからボールを運ぶと、横前が左サイドの石田へスルーパスを通す。石田はPAでの切り返しで相手SBをかわすと、GKの股間を射抜く右足シュート。大きな、大きな4点目を奪った。あきらめない流経大柏は35分にMF上田将寛(3年)、39分にはFWジャーメイン良(3年)がいずれも抜けだしてGKと1対1となったが、市立船橋GK志村が執念のセーブで得点を許さない。試合最終盤でチームの危機を救った2年生守護神の好守が決勝のハイライト。そして試合終了の笛が鳴り響くと、青いユニフォームは両手を空へ突き上げて勝利を喜んだ。

 今大会、初戦から順調に白星を重ねてきた市立船橋だったが、正智深谷との準決勝(6日)では球際の厳しさ、ハードワークを欠いて薄氷のPK戦勝利。決勝を控えたミーティングで朝岡隆蔵監督が口にしたのは「市船とはどういうチームであるか」ということだった。室伏は「自分たちの代のプレースタイルを抜きにして、市船の球際や気持ちの強さについて言われました。それで勝ってきているので、それがないと普通のチームになるぞ、と」。今年は攻撃力のある選手が揃っているが、あくまでチームのベースは市船の伝統でもある球際の激しさであり、ハードワークすること。指揮官は「戦うということはベースですし、切り替えと局面の戦いと精神的にも優位を取る。『弱虫はいらない』と。戦える選手がチームであってほしい。あとは劣勢でも耐え忍んで優勝した代もある。彼ら(流経大柏)はウチを圧倒したかったと思うんですよね。プライドもあって。ウチはじゃあ、結果をちゃんと取るだけの準備をしようということで、ある意味でゲームの内容については甘んじて受け入れようと。でも勝負だけは外さないようにしようという戦いに持っていけたのは良かったと思います」。個々の技術は流経大柏の方が上だったかもしれない。ただ、勝負にこだわり、走って、戦った市立船橋の戴冠だった。

 昨年は総体、選手権予選でいずれもPK戦で敗れた。またゴールを目指す姿勢を前面に表現することができずに肝心なところでゴールを奪えなかった。ただ、今大会では0-0でPK戦へもつれ込んだ準決勝を10-9で勝利。そして決勝では最後までゴールを狙い続けて4ゴールをもぎ取った。朝岡監督は「きょうの試合も最後まで点を獲りにいく姿勢を忘れなかった。昨年は1点を守りきろうというネガティブな思想があったので、それは絶対にやめたいとスタートからずっと言ってきたことなので、4点しっかりと取り切って勝てたことは良かった」と昨年壁となっていた課題を乗り越えた選手たちに目を細めていた。次は“ジンクス”の打破だ。過去3年はいずれも全国高校総体優勝校が同年の全国高校選手権予選で敗れ、全国大会出場を阻まれている。また千葉県では近年、市立船橋、流経大柏、そして八千代が3年周期で高校選手権の全国切符を勝ち取っており、今年は順番で言うと流経大柏の番という悪い“ジンクス”がある。ただ磐瀬は「次は選手権に向けていく。いつもインターハイ優勝校が行けていないのでジンクス破りたい。3年周期で今年流経だということを考えると、全部崩していきたいと思います」と宣言。千葉県勢対決となった決勝でライバルを撃破した市立船橋が、新たな目標をクリアして選手権で全国2冠に挑戦する。

(取材・文 吉田太郎)
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