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[MOM966]四日市中央工DF後藤凌太(3年)_名門を救ったロスタイムの高校生活初ゴール

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[1.5 全国高校選手権準々決勝 履正社1-1(PK5-6)四日市中央工 駒場]

 何かが起こることは、予感していた。ただし、何かを起こすのがDF後藤凌太(3年)になるとは、チームメイトでさえも思っていなかった。5日に行われた高校選手権の準々決勝で、四日市中央工業(三重)は、履正社(大阪)と対戦。後半ロスタイムに突入した時点でも、1点を追いかける状況だった。それでも、諦めてはいなかった。「2年前に決勝まで進んだときも、ドラマを起こしていたので、イメージはありました」と、キャプテンのDF坂圭祐(3年)は胸を張る。

 20年ぶりの国立進出を決めた2年前の準々決勝、中京大中京(愛知)と対戦した四日市中央工は1-2で迎えた後半ロスタイム、FW浅野拓磨(当時2年)のゴールで試合を振り出しに戻し、PK戦の末に4-1で国立に勝ち進んだ。この日も後半ロスタイム、直接FKからのパワープレーで、相手GK安川魁(2年)がファンブルしたボールを、後藤が泥臭くゴールに押し込み、土壇場で試合を振り出しに戻した。この展開を予見していた坂は、「でも、ゴールを決めるのが後藤だとは思いませんでした」と、破顔した。

 後藤自身も「僕も『まさか』と思いましたからね」と笑う。「FKのときは、自分のところに来ればいいなと思っていました。それがああいう形でゴールになって。県予選のときもゴールを決めていませんし、公式戦でゴールを決めたのは3年間で初めてです」と、起死回生のゴールを振り返った。

 決めた瞬間「頭の中が真っ白だった」と話す後藤だが、体は真っ先にベンチへと向かっていた。「僕は夏にトップチームに上がったのですが、そのときに一緒に上がった選手がベンチにもいたので。それと1年、2年とレギュラーだったGKの中村もベンチにいたから、彼らのところに行きたかったというのはあります」。

 PK戦の末に履正社を振り切り、2大会ぶりの国立進出を決めた四中工だが、チーム内で後藤が果たしている役割は大きい。ロングボールを放り込んでくる相手との試合が続いたが、最終ラインを高く設定できるのは後藤のおかげなのだと、樋口士郎監督は認める。「彼はスピードがある。背後を取られても、そのおかげで守り切れるという安心感があるから、ラインを押し上げることができている」と、50メートルを6秒2で駆けるCBを評価する。

 また、1年生と2年生が3人ずつ先発出場している若いチームを、精神的にも支えている。「失点したとき『まだ時間がある。じっくり、落ち着いて1点ずつ返そう』と、声を掛けていました。ああいうときは僕ら3年が盛り上げて、鼓舞しないといけません」と、自身に求められている役割を理解している。

 11日の準決勝では、プレミアリーグに所属する富山第一(富山)と対戦する。2年前はスタンドから見ていたピッチに立つ瞬間が、近づいてきているが「今日の試合では国立で勝てない」と、気を引き締めた。

「もっと練習して、調整して、自分たちの良さを出せるように準備していきたいです。富山一とは今シーズン、一度も試合をしていませんが、プレミアリーグなので、強いと思うから、チャレンジャーの気持ちでやりたいです。スタンドで見ていた時も、2年前の準優勝は悔しかったので。今回、国立の舞台に立てるので先輩たちの想いも背負って、絶対に優勝したいです」

 PK戦で3番手を務めた後藤は、ど真ん中に思いきりのいいシュートを決めている。「これまで苦しい思いをしてきたことを思い返したら、自然と力が抜けて、軽い気持ちで蹴ることができました」。雌伏のときを経て、つかんだ国立への切符。これまでの努力は、きっと国立の大舞台でも、彼の背中を押してくれるはずだ。

(取材・文 河合拓)
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