[9.9 天皇杯2回戦 FC東京 0-1 横河武蔵野 味スタ]

　後半ロスタイム、90分に渡って守備に奔走し、疲労困憊だったはずの横河武蔵野のMF岩田啓佑は、極めて冷静だった。自身が倒されてFKを得ると、ボールを置き、ゴール前に視線を送った。最終ラインからDF金守貴紀らも攻め上がっていく中で、彼が選択したのはシュートだった。チームメイトのMF加藤正樹が「ゴールを越えるか、GKにキャッチされるかなと思った」と振り返る弾道は、しかし、美しい放物線を描いてゴールネットを揺らした。このゴールが決勝点となり、横河武蔵野はJ1のFC東京を下している。

「気持ちを込めて蹴りました」と、劇的な決勝ゴールを決めた岩田は振り返る。「ファウルをもらった瞬間に、時間帯もロスタイムに入っていましたし、なかなかシュートまで行けていなかったので『ここは思い切ってシュートを打とう』と思っていました。僕としては延長戦に入るつもりでもいたのですが…。もちろん、千載一遇のチャンスだったので、気持ちを入れて込めて蹴りました。試合中からF東京のGKは前に出ていたので、速いボールを蹴ろうと。点を取れればラッキーという感じでしたが、そういった相手の隙を突けました」

　チームの戦い方がハマった形の勝利だった。試合後、依田博樹監督は「普段とは違う形で戦った」と語ったが、実際に5-4-1で守りを固め、延長を含めた120分を無失点で終えようとする決意は明確だった。これほど守備的に戦うことはなかったと岩田自身も言う。「前回王者ですし、J1でやっている名が知れた選手たちを相手でした。僕らは昼間に仕事をして、夜に練習するアマチュアチーム。その僕たちが、こうしてJ1を相手に勝てたことは、僕らも嬉しいですが、サッカーをやっているすべての人たちに夢や希望を与えられたと思います。明日、会社に行ったら大変なことになるかもしれませんね」と笑顔を見せた。

　試合後、チームメイトたちには「オレ、持ってるなぁ」と冗談を飛ばした岩田だが、あのゴールは一人で取れたものではないとも語る。「僕が結果的には点を取りましたけど、スタンドにユースやジュニアユースの子達、メンバー外の選手たちも応援してくれた。横河武蔵野の全体で取ったゴールだと思います」と、声援を送ったアカデミーの選手やチームメイトへの感謝を忘れなかった。

　横河武蔵野は3回戦で同じJFLの長野パルセイロと対戦する。「ここまで来たからには、一つでも多く勝ちたい。武蔵野のみなさんに良い報告ができたと思いますが、僕らはアマチュアなので、ひたむきに、一生懸命サッカーをしていきたいと思います」と今後への意気込みを語った。

(取材・文　河合拓)

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