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[MOM667]山形中央MF鈴木翔太(3年)_右足一閃で3年越しの夢実現

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[10.27 全国高校選手権山形県大会決勝 山形中央1-0日大山形 NDスタ]

 強烈な一撃が歓喜の雄たけびを生んだ。山形中央が得意のサイドアタックを仕掛けた前半13分だった。右サイドから俊足MF竹田陽が前に仕掛けた。同時にボランチの鈴木翔太がポジションを上げる。鈴木は「竹田に入ったら絶対、縦に行く。だから前に行けばこぼれ球が来ると思った」と狙いを明かした。竹田からゴール前へグラウンダーのクロスが入った。相手DFと競り合ったFW小嶋惇也が残したボールに真っ先に反応したのは、小嶋とツートップを組む2年生FW山口和輝だった。しかし、右足をスイングした瞬間、後方から鈴木の大きな声が飛んだ――「スルーしろ!」。前につんのめるように急ブレーキをかけた山口が壁になり、正面から迫る相手DFのブロックは間に合わなかった。バイタルエリアにできたエアポケットから鈴木が自慢の右足を振ると、ボールは勢いよく飛んで左のゴールポストに跳ね返り、ネットを揺らした。双方にチャンスがあった立ち上がりの攻防、その中から価値ある先制点を奪った瞬間だった。

 鈴木は精度の高いキックで試合を操るボランチだ。チームの中心選手であり、セットプレーでは指揮官も彼の右足に運命を託す。主将の菅原優大が「心の支えになる存在」と話すなどチームメートの信頼も厚い、貴重な戦力だ。しかし、役割が大きいからこそ反省しなければいけない点もある。山形中央は後半のシュート数がわずかに1本。まだ決勝戦を経験したことがなかったためにプレッシャーを感じた面もある。それでもボランチとしては展開を変える力が欲しいところだ。鈴木は「相手はロングボールを蹴って来るので、こちらはつなごうと思ってやっていたけど、僕と須藤(翔太)のところで落ち着かせられなかった。もう少し余裕を持つところを作らないといけない」と反省点を挙げた。

 それでも再挑戦の場があるということに、やはり意味がある。鈴木が山形中央に進学したのは、3年前に全国大会をテレビで見たのがきっかけだった。「それまでは地元(米沢)の学校へ行こうと思っていた。楽だろうと思ったし。でも、3年前に(当時2年の)宍戸(隆典)さんたちが出た全国大会を見て、自分もここでやりたいと思った」と一念発起。山形中央の門をたたいた。1年、2年と全国大会には出られなかったが、ついに憧れの舞台にたどり着いた。成長過程を見守った木村雅善監督は「真面目で、こちらが言うことをやろうとする姿勢が強い」と向上心を評価した。山形中央は、先制点を守り切って県大会を優勝。鈴木がテレビで見ていた大会以来となる3年ぶりの全国切符を手に入れた。自らのゴールでその切符を手繰り寄せた鈴木は、ヒーローインタビューのお立ち台でこう言った――「この日のためにやってきた。全国でもまた一つひとつ、(応援してくれる)みんなに感動を与えられるようにしっかりとやりたい」。全国の舞台を見据え、真面目な主軸はまた一つ歩を進める。

(取材・文 平野貴也)
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