beacon

[MOM679]東海大五DF山村欣也(3年)_恩師胴上げのため決めた「えげつない」決勝FK

このエントリーをはてなブックマークに追加

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.11 全国高校選手権福岡県大会決勝 筑陽学園1-2東海大五 レベスタ]

 優勝旗はもちろん欲しかった。ただ、それよりも強く望んだ物があった。福岡県大会の決勝、延長戦の末に勝利した東海大五のイレブンは輪になると、DF山村欣也(3年)が真っ先に平清孝総監督の元へ駆け寄った。笑顔を見せる山村に平総監督は「監督が先だろう」と言って照れ隠しをした。

 大丸忠監督がテレビのインタビューを終えると、胴上げが始まった。次は総監督の番だ。山村は再び駆け寄った。それでも「オレはいいよ」とためらう恩師をどうにかみんなのところへ連れていきたかった。チームメートも援護した。勝った勢いと集団で得られる強気から、誰かが「逃げるな!」と言った。山村にうながされて選手の輪に向かう平総監督は帽子を取り「お前ら! オレを落としたら、お前らもこうだぞ!」とキレイにそり上げた頭を見せて笑わせた。平総監督は3年前にガンを患った身体で無理な負担はかけられない。胴上げが始まった。少し遠慮がちにそうっと、しかし何度も上げた。心からの恩返しだった。

 試合は後半終了間際に追いつかれる難しい展開だった。しかし、延長前半に山村が直接FKを決めて勝利を手繰り寄せた。記者が質問を投げかけると、山村は「えげつないなと。自分でもビックリしました」と少し表情を崩した。

 試合中は常に冷静に守備の指示を出した。筑陽学園のエース金森健志にゴールを脅かされる場面もあったが、東海大五は山村を中心に耐え抜いた。相手にボールが入ってくるところで山村は体を張って弾き返した。勝利目前となった終了間際に追いつかれても慌てなかったのは、信頼する恩師の言葉が背景にあった。山村は「想定内だったので、延長に入るときも『楽しく余裕を持って頑張ろう』と話しました。平(清志)総監督が『どんなことが起きても想定内』と言っていたから」と淡々とした表情で振り返った。

 延長前半、ゴールやや右寄りの位置で獲得したFK。東海大五は、ほかのキッカーを置かず、山村だけがボールの前に立った。しっかりとした踏み込みから右足を振ると、無駄のない弾道の先にゴールがあった。左のサイドネットが揺れた。ゴール前に構えていたチームメートたちが歓喜を爆発させた。山村は得点になったことを確認して仲間より一瞬遅れて喜び、すぐさま走り寄った仲間に囲まれた。「練習通り。決められて良かった」と喜ぶ山村は、優勝の感想を聞かれると「優勝はしたかったんですけど、それより大丸監督、平総監督にとてもお世話になったので、勝って絶対に胴上げがしたかったんです」と答えた。

 守備でチームを支え、自らの一振りで試合を決めてみせた。最高の恩返しを終えて、次は夢の舞台で飛躍する。「全国大会に出てくるチームは強豪ばかりだと思う。でも目標は全国優勝。東海らしい、つなぐサッカーで勝ちたい」。もちろん、最大の希望は国立での胴上げだ。

(取材・文 平野貴也)
▼関連リンク
【特設】高校選手権2012

TOP