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[女子W杯]なでしこJAPAN世界一の舞台裏、頂点までの軌跡

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[7.17 女子W杯決勝 日本2-2(PK3-1)アメリカ フランクフルト]

 壇上に登った選手たちの表情に満面の笑みが広がった。MF澤穂希が優勝トロフィーを高々と掲げると、金色の紙吹雪が宙を舞う。日本サッカー史上初の世界大会制覇。前人未到の大偉業を達成したなでしこジャパンが、ついに世界の頂点へ上り詰めた。

「本当に僕もビックリです。ちっちゃな娘たちが本当によく粘り強くやってくれました」。佐々木則夫監督の表情が緩む。五輪を含め、過去の世界大会では08年の北京五輪の4位が最高。W杯に限れば、95年大会のベスト8が最高成績。過去3大会はいずれもグループリーグ敗退に終わっていたなでしこジャパンが快挙に次ぐ快挙を成し遂げ、世界一の栄冠に輝いた。

 頂点までの道のりは、決して順風満帆ではなかった。6月27日のグループリーグ初戦。FIFAランキング24位と、B組では最も与しやすいと思われたニュージーランドとの一戦は思わぬ苦戦を強いられた。FW永里優季のゴールで先制したものの、初戦特有の硬さもあり、思うように試合を運べず、一度は同点に追いつかれた。それでも、途中出場のFW岩渕真奈が流れを変え、決勝点につながるFKを獲得。2-1で競り勝ち、なんとか白星発進した。

 メキシコとの第2戦は澤のハットトリックなどで4-0と快勝し、4大会ぶりのグループリーグ突破が決定。しかし、首位通過を目指し、ベストメンバーで臨んだイングランドとの最終戦は0-2の敗戦。今大会初黒星を喫し、2位通過となった。

 これにより、準々決勝の相手は過去1分7敗と勝ったことのない開催国・ドイツに決まった。地元の後押しを受け、体格差を生かしてパワーを前面に押し出すドイツの猛攻に終始劣勢を強いられたが、チーム全員で耐え抜き、試合は0-0のまま延長戦へ。そして延長後半3分に途中出場のFW丸山桂里奈が決勝点。大会連覇中のドイツから歴史的な1勝を挙げ、W杯史上初となる4強入りを果たした。

 初のメダル獲得をかけて挑んだ準決勝のスウェーデン戦では、今大会初めて先発メンバーを変更。それまで全4試合に先発してきた永里ではなく、MF川澄奈穂美を抜擢した。この采配が的中。2トップの一角で先発した川澄が2得点の活躍を見せ、3-1で快勝した。初のメダルが確定。そして初のファイナル進出。世界一へ王手をかけた。

 スウェーデン戦の後半40分過ぎからはFW高瀬愛実、DF上尾野辺めぐみというこれまで出番のなかった選手も起用した。グループリーグから決勝まで、全6試合で出場機会がなかったのはGK山郷のぞみ、GK福元美穂、そしてフィールドプレイヤーではDF矢野喬子のみ。実に18選手がW杯のピッチに立ち、まさに総力戦で世界の頂点へ上り詰めた。

 約1ヵ月に及ぶ海外遠征にもかかわらず、ストレスなく日常生活を送れたことも、快進撃を支える大きな要因の一つだった。ドイツとの準々決勝を2日後に控えた今月7日、ドイツでプレーする永里の知人から焼肉弁当の差し入れがあった。スウェーデンとの準決勝前日にも、永里がお世話になっているというベルリン在住の知人からあんパンとクリームパン、さらにドイツでパン屋を経営している知人からカツサンドの差し入れを受けた。

 それまでは自分たちで持ち込んだ梅干しやパスタソース、ふりかけなどを使って、ホテルで出る食事にひと工夫を加えていたが、差し入れされる日本食や懐かしい味は、過酷なコンディションの中、プレーを続ける選手たちの大きな活力となった。

 こうした差し入れも、ドイツ女子ブンデスリーガでプレーする永里やFW安藤梢の存在があったからこそだった。永里が「ドイツは第2の故郷」と話せば、安藤も「チームメイトも友人も応援に来てくれる。ホームに帰ってきたよう」と言う。ドイツでプレーする2人は、ピッチ外でもチームに大きく貢献していた。

 選手自身がドイツの文化を積極的に学ぼうとした姿勢もストレスを軽減し、大会自体を楽しむことにつながった。DF熊谷紗希は「社会勉強」と称し、束の間のオフを利用して自ら切符を買い、鉄道に乗って買い物に出かけたこともあった。ドイツではペットボトルを返却すると料金の一部が返金されるため、自分たちでホテル近くのスーパーに返しに行くなど、積極的に現地での生活に溶け込もうと努めた。

 なでしこらしいリフレッシュ方法もあった。メキシコ戦でハットトリックを達成した澤はゴール後のパフォーマンスで胸に手を当てていた。その指に見えたのは、ブルーの爪に施されたサッカーボールと日の丸のネイルアート。試合前日、川澄に描いてもらったものだった。

 澤は大会中にネイルアートを増やしていった。中指のサッカーボール、薬指の日の丸に加え、人差し指には背番号の「10」、小指には勝利を意味する白星を描いた。そして決勝のために取っておいたという親指には「希」の文字。自身の名前である「穂希」と「希望」から取った「希」の文字を、金メダル獲得を誓い、金色で入れた。

 澤だけではない。熊谷の薬指にはサッカーボールとドイツの国旗、丸山の両手にも日の丸や自身の背番号である「18」、永里の右手薬指にも日の丸が描かれていた。いずれも宿舎で川澄が各選手の指にネイルアートを施したもの。ピッチ外では“おしゃれ”を楽しみながらリラックスし、ひとたびピッチに入れば、試合だけに集中していた。

 オンとオフの切り替え。チームの団結力。アメリカとの決勝でも見せた驚異の粘りは、大会中に飛躍的に成長し、結束していったチーム力の賜物だった。ドイツ、アメリカから初勝利を飾っての世界制覇。MF阪口夢穂は「こういう素晴らしい舞台でやっと借りを返すことができて、本当にうれしい」と胸を張る。なでしこジャパンが新女王となったことを結果で証明する優勝となった。

 世界チャンピオンとなったなでしこジャパンの次なる戦いの舞台は9月に行われるロンドン五輪アジア最終予選。今後はアジアだけでなく、世界からも新女王としてマークされることになる。宮間は「これをステップに、また新たななでしこジャパンが次の五輪予選も頑張ると思います」と言った。世界一をステップに目指すは五輪の金メダル。W杯、五輪の“連覇”という新たな夢に向かって、なでしこジャパンは再び歩み始める。

[写真]チームの団結力が初の世界制覇につながった

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