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[選手権]前半3分の大アクシデント!V候補・流経大柏後半2発も苦難の船出

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[1.2 全国高校選手権2回戦 流通経済大柏 2-0 明徳義塾 フクアリ]

 第89回全国高校サッカー選手権は2日、関東各地で2回戦を行った。フクダ電子アリーナ(千葉)の第1試合では優勝候補筆頭の流通経済大柏(千葉)が登場。明徳義塾(高知)に2-0で勝利した。流通経済大柏はあす3日の3回戦で09年全国高校総体優勝の前橋育英(群馬)と対戦する。

 後半24分まで0-0。地元・千葉の会場に集まった6,000人超の観客の期待と視線を一身に浴びていた流経大柏だったが、その初戦は決して楽な展開ではなかった。エースMF吉田眞紀人(3年)がコンディション不良で先発を外れたことに加え、試合開始わずか3分で大アクシデント。相手アタッカーと交錯したSB中西孝太(3年)が転倒した際に左大腿部骨折の重傷を負ってしまい、全国での進撃開始とともにチーム一声を出して鼓舞する貴重な存在を失ってしまう。

 立ち上がりから相手ゴールに押し寄せるなど上手く試合に入っていた流経大柏だったが、中西交代でリズムを崩したか、ここから失速した。やや長く、また荒れた芝によりボールが足につかずにトラップやドリブルでのミスを多発し、CB増田繁人主将(3年)も「パスも雑なところがあった」と振り返った前半は吉田不在ということもあり、前線でボールがおさまらない。加えて本来ならば圧倒的なハイプレッシャーにより相手を敵陣に釘付けにする流経大柏だが、明徳のクリアボールが上手くDF間やDFラインの背後へ飛んできていたこともあり、波状攻撃を繰り出すことができずチーム全体がどこか落ち着かないまま。18分にMF高橋翔也(3年)のインターセプトからFW田宮諒(3年)がドリブルシュートを放ち、前半終了間際にはCB本橋託人(3年)の無回転FKがゴール右ポストを叩いたが無得点で前半を終えてしまった。

 より大きなチャンスを迎えていたのはむしろ明徳の方だった。「チャンスは必ず来るから」と菊地功監督に送り出されていた明徳は激しく相手に体をぶつけてボールコントロールを乱すなどしぶとい守りで食い下がると前半19分、自陣右サイドからの一本のパスによってDFと1対1となったエースFW小松大夢(3年)がDFを切れ味鋭いドリブルでDFをかわして決定的なシュートへ持ち込む。このシュートは中西に代わって投入されていた流経大柏DF鈴木翔登(3年)がスライディングでクリアしたが、明徳は直後にも左CKのこぼれ球を拾ったCB岡村庸生(3年)がGK不在のゴールへとシュートを蹴りこむ。流経大柏はゴールライン上でこれをかき出し何とか失点を免れたが、立て続けに冷や汗をかかされるかのような危機があった。

 ただ本田裕一郎監督が「(警告など)カードが心配だったけど、『10人になっても大丈夫だ』と話していた」と明かし、増田主将が「元々きょうは1-0とか2-0の試合になる、と言っていた」という優勝候補は慌てない。後半開始から吉田と2年生FW宮本拓弥を同時投入。吉田が抜群のキープ力で起点になると、前半は必ずどこかで途切れていたボールがスムーズに動き出した。それでもラストパスの前の段階で意思が合わなかったり、ミスやセカンドボールが相手にこぼれるなど完全に流れを傾けることができなかった。一度ボールを失うと相手の大きなクリアで攻め直しを強いられるという繰り返し。残り時間は20分弱、チームは確かに冷静に戦っていたが、明徳とかみ合わないまま時間は確実に削りとられていた。

 だが、この苦しい展開から「(負傷した)中西のためにも全力で戦おうと思っていた」というエースが一撃で救う。後半25分、田宮とのワンツーでボールを敵陣中央左寄りで受けた吉田が飛び込んできたDF2人をかわしゴールへ迫るとそのまま左足で“ゴラッソ”な先制弾。決定的に崩される場面はわずかだった明徳義塾だったが、この場面ではひとりにDFが剥がされてしまった。一方、ようやくリードを奪った流経大柏は27分にも吉田のインターセプトでボールを奪うと、右サイドから切れ込んだ宮本がドリブルシュートを決めて2点目。この後怒涛の猛攻を受けながら2点差を保った明徳は37分、小松が右サイドゴールライン際での1対1を突破しファーサイドへ絶妙なクロス。1点差に迫る絶好のチャンスだったが、フリーで飛び込んだMF城前貴大主将(3年)の決定的なヘディングシュートはゴール左へわずかに外れ、そのまま0-2で試合終了を迎えた。

 流経大柏にとっては決して素晴らしいスタートではなかった。FW大前元紀(現清水)らを擁し全日本ユース選手権と全国高校選手権の2冠に輝いた07年度のチームと比較される今年のチームは、全国大会進出を懸けた千葉県大会決勝で全国高校総体優勝の市立船橋を圧巻の内容で下すなど指揮官から「いい時はあの時(07年度)よりいい」と評価されるものの、「悪い時はダメ。無駄な動きが多くなってしまう」と指摘されるようにまだ力を発揮できない試合がある。この試合も本領発揮とはいかなかった。
 
 ただ増田主将が「自分たちは市船に勝ったから評価されているだけ」と話すように選手たちに奢りはない。今年全国大会での最高成績は8強と結果を出している訳でもない。周囲から常に「優勝」という声をかけられるなど大きな期待を背負うが、まずは一戦一戦を全力で戦うだけ。そして、この日戦線離脱した「中西のためにも優勝する」という新たな誓いを持ってあす3日、前橋育英との大一番に臨む。

[写真]後半25分、流通経済大柏MF吉田(下)が先制ゴール。(写真協力 『高校サッカー年鑑』) 
(取材・文 吉田太郎)
【特設】高校選手権2010

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