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横河武蔵野の速攻を支えたMF加藤「こんなことが、あるのかな」

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[9.9 天皇杯2回戦 FC東京 0-1 横河武蔵野 味スタ]

 奔放なアタッカーが、懸命に体を張り、守備でチームに貢献した。5-4-1の左SHで先発した横河武蔵野のMF加藤正樹は、本来の4-4-2でも中盤の左SHを務める。「普段は攻撃ばかり」と自身のプレーについて語る加藤だが、この試合では対面するFC東京の右サイドのMF石川直宏、DF椋原健太に食らい付き、懸命にボールを奪おうとした。「こんなに守備したことはありませんね。守備をし過ぎて疲れました」と笑顔を見せた。

 なぜ、彼は守ることができたのか。そこにはF東京へのリスペクトがあった。「相手は格上だったので、引いてカウンターに徹する気持ちで試合に臨みました。練習からそういう形でやっていて、それがすごくはまったなと感じました」と言う。対面した石川や椋原についても「両サイドとも速いことは分かっていたので、(縦に行かせないように)サイドでフタをして、前で守ることに徹しました。今日は守備をやるしかないと割り切ってやりました」と話す。

 そして、ボールを奪ってからは、持ち味のスピードを生かしたドリブルでゴールを目指した。「1人で2人をかわせるくらいの勢いでいけたら良かったなと思います」。実際、前半28分には、処理の難しそうな浮き球をコントロールし、ドリブルからシュートを放った。「普段からチームがあまりシュートを積極的に打てていないので、とにかく自分でシュートを打とうという意識でした」と振り返る。

 前半は2本のシュートを放った加藤だが、後半はMF梶山陽平、FWルーカスを投入したF東京に、さらに押し込まれた。その中で延長戦に入ることも覚悟していたと明かす。「最初から前半は『0-0で良い』と話していました。延長戦にもつれることも覚悟はしていましたが、体力的には多分もたなかったでしょうね」と明かす。

 延長戦を回避できたのは、後半ロスタイムにMF岩田啓佑のFKが決まったからだ。岩田が蹴ったボールを見て「ゴールキックになるかな、GKに取られるかな」と思ったという加藤は、入った瞬間も「時間帯もロスタイムだったし、ビックリした」と喜ぶより、驚いたと言う。

 さらに驚いたのは試合後だった。バックスタンドに挨拶に行った横河武蔵野のイレブンは、F東京のゴール裏に行くことを躊躇した。その姿を見たF東京のサポーターは、大きな拍手を送った。この拍手に促されるように、横河武蔵野の選手たちは、F東京のサポーターの前まで行き、挨拶をした。青赤のゴール裏からは「武蔵野!!」コールが響いていた。「こんなことあるのかなって、信じられなかったし、すごく嬉しいですね」。

 勝利だけでなく「いつもよりはチャンスをつくれた」と自分のプレーにも手応えを実感した加藤だが「まだシュートまで行くことが少なかった。チームとしては4本しか打てなかったので、もっと打っていきたいです」と課題も口にする。普段は横河電機の売店で、販売員をしているという加藤。「自分の売る新聞に、名前が出るようになったら嬉しいですね」と、笑顔を見せるアタッカーは、確かな手ごたえと課題を胸に、3回戦の長野パルセイロ戦に挑む。

(取材・文 河合拓)

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