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目覚めの2発へ、全3得点演出の香川「ゴールが唯一の救い」

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[1.21 アジア杯準々決勝 日本3-2カタール アルガラファ]

 追い込まれた逆境で頼りになるのは、やはりこの男だった。日本代表MF香川真司が2度の同点弾を含む全3得点を演出。劇的勝利の中心に背番号10がいた。

 「ゴールだけは良かった。他は全然だった。ミスも多かったし、動きも重たかった。ゴールが唯一の救いだった」

 0-1の前半29分、香川が横に流し、MF本田圭佑がダイレクトで前線に浮き球のパスを送る。オフサイドラインをかいくぐった岡崎が右足で浮かすと、ボールはGKの頭上を越え、全速力でゴール前へ詰めていた香川が頭で押し込んだ。

 「ゴール自体は上手く流れの中から取れた。僕はごっつぁんだったけど、人とボールが動いたのはいい形だった。ボールが来ると信じて走る自分のプレーが出た」

 待望の今大会初得点。これでチームは勢い付くかと思われたが、開催国との死闘はここからさらに厳しさを増した。後半18分、DF吉田麻也が2枚目の警告で退場。しかも、このプレーで与えたFKから1-2と勝ち越された。

 10人で1点ビハインド。残りは約30分。「あの判定のあとにすぐに失点したのは精神的にきつかった」。それでも冷静さは失わなかった。「やることがはっきりした。前の3人で崩さない限り、点は生まれないと感じていたので、多少のリスクは背負うという意味で開き直れた」。1トップに本田圭を置き、背後に岡崎と香川。3人での攻撃を余儀なくされたが、まさにこの3人で2度目の同点ゴールを奪った。

 本田圭の縦パスを岡崎が胸でトラップしたボールが相手選手に当たってこぼれる。これを香川が素早く拾い、絶妙なボールコントロールで縦に抜けた。「上手く自分のところにこぼれてきて、ファーストタッチで上手く抜けられた。あとは冷静に枠を狙ってシュートを打てた」。GKとの1対1から落ち着いて左足で流し込む。10人で再び試合を振り出しに戻し、流れを引き寄せた。

 後半45分の決勝点も香川の好プレーから生まれた。MF長谷部誠の縦パスを絶妙なトラップで前に運び、ドリブルでGKもかわす。後方からDFのスライディングタックルを受け、ボールはこぼれたが、ゴール前に詰めていたDF伊野波雅彦につながり、劇的ゴールとなった。

 10番のプレッシャー。不慣れな左サイドでのプレー。スペースを与えてくれないアジアの戦い。悩み、苦しんできた香川に生まれた待望の2得点。長谷部が「点を取ってまた乗ってくれると思う。これまでもいいプレーをしていたけど、ここから爆発してくれると思う」と言えば、岡崎も「あいつが悩んでいたことはみんな分かっていた。(香川のゴールは)チームとして大きかったかなと思う」と力を込めた。

 試合後はチームメイトから「やっと決めてくれた」と冗談まじりにねぎらわれたという香川は「ゴールはみんなの支えがあったから」と感謝する。「10番のプレッシャーから開放された?」。報道陣にそう聞かれると「特に。まだまだ内容を求めていく必要があるし、結果だけでは納得できないところがあった。90分間通して怖さを出せるようになりたい」と貪欲に言った。

 「内容はもっと上げていく必要がある。ゴールは一番うれしいし、もっと大事な局面で決めたい。次で決めないと意味がないと思っている。次の相手はもっと強いから、そのときに自分の力を発揮できれば」。2点は取ったが、この日もトラップやボールコントロールで単純なミスが出るなど“らしくない”プレーもあった。ブンデスリーガ前半戦MVPの実力はまだまだこんなもんじゃない。

 「今日も10人で戦っているし、疲労がきている。(25日の準決勝の相手は)韓国という一番厳しい相手になる可能性が高いので、タフなゲームになるのは間違いない。今できることは精神的な部分とコンディションの部分じゃないかなと思う」

 次は韓国か、イランか。アジア王者を懸けた戦いは、ここからさらに厳しさを増していく。だからこそ、日本が頂点に立つには香川の真の爆発が必要不可欠だ。「これがいい薬になってくれれば」。この日の2得点が、きっかけとなるか。アジア王者奪回へ、その種はまかれた。

[写真]香川はチームメイトに祝福される

(取材・文 西山紘平)

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