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[MOM470]東京VユースMF杉本竜士(3年)_U-18代表の“救世主”に

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高円宮杯U-18サッカーリーグ2011 プレミアリーグ イースト
[高校サッカー マン・オブ・ザ・マッチ]
[8・27 高円宮杯プレミアリーグイースト第2節 東京Vユース3-1青森山田高 ヴェルディG]

 東京ヴェルディユースの“魂”がチームを勝利へと導いた。日本クラブユース選手権MVPでトップチーム合流中のMF杉本竜士主将は前日夜に熊本戦(27日、国立)メンバーから外れることが決定。準備期間がほとんどない中での出場となった青森山田戦は、怪我人続出の影響で3年生が2人だけという厳しいゲームだったが、「試合に入るにつれて感じたのは『オレが見せないとダメ』ということ。経験のある選手としてそれに見合ったプレーでチームの気持ちを高めないといけない」とその姿でチームを引っ張り、白星をもたらした。
 
 前線から最終ライン近くまで走り回る杉本の動きにつられるように東京Vユースはボールを追う2人目、3人目の選手たちの動きも鋭さを増した。そして試合の主導権を握った東京Vユースは前半22分、リーダーのゴールによって試合を動かす。PA内ゴール正面左寄りの位置でFKを獲得すると、ポイントに立ったのは杉本主将とMF中島翔哉。守る青森山田は9人で壁を構築したが、杉本にはゴールを奪うことのできる予感があった。

「あの距離のFKだと壁は100パーセント飛び込んでくる。そのタイミングはバラバラでズレるんですよ。だから思い切り振るのではなくて、壁の動きを見て、空いた真ん中を狙って蹴った」。予測していた通り、至近距離のFKということでキッカーとの距離を詰めるために飛び出してきた青森山田の壁には、綻びができていた。杉本は中島が動かしたボールに対してがむしゃらに蹴りこむのでなく、蹴る寸前まで相手DFの動きを見計らい、そして“穴”目掛けて丁寧に右足で押し込む。これがゴールへと吸い込まれて先制ゴールとなった。

 ボールを持てばどんな形からでもドリブルで仕掛け、守備時は身体を張ったスライディングタックルや激しい動きでカードをもらうこともある情熱的な選手だが、この場面では冷静な判断力を活かしてファインゴールを決めた。さらに34分には左サイドからのラストパスでFW高木大輔のゴールをアシスト。絶対的な武器であるドリブルでは確実にファーストDFを仕留め、さらに絶妙なサイドチェンジやスルーパスでもチャンスを演出したMFの存在感は際立っていた。

 AFC U-19選手権予選を控えるU-18日本代表を救う可能性のある人材だ。今季J2デビューも果たしたサイドアタッカーは、先月の日本クラブユース選手権ではMVPを獲得して東京Vユースの日本一獲得に貢献。ただ6月のU-18代表候補静岡合宿メンバーには選出されていたが、今月のSBSカップ、カタール遠征メンバーからは落選した。本人は「やることをやって落ちたのだから仕方ない」と毅然とした態度で話すが、この強烈なキャプテンシーと個で局面を打開できる存在は間違いなく代表チームに必要だ。

 U-18代表は静岡県選抜に敗れて準優勝に終わったSBSカップにおいて、苦しい展開の中でチーム内から声が出ず、中央に偏った攻撃で攻めあぐねた時間帯も多かった。確かに杉本は仕掛ける回数が段違いに多い分、ボールを失う回数も多い。ポゼッションを重要視するU-18代表のコンセプトとのズレもあるが、東京Vのトップチームに帯同することでドリブルを繰り出すタイミングを学ぶなどドリブラーは確実に成長を遂げている。そしてどんな状況でも献身的に身体を張り、チームを鼓舞する姿勢。本人は「ヨーロッパのリーグデータを調べたら年間で一番ボールを失う回数が多かったのはフィーゴだったんです。あんなにうまいフィーゴでも、やっぱり仕掛ける回数が多いからボールを失っている。ボールを取られることにビビッてプレーするのはオレじゃない。だからブレずにやります」とスタイルを変えるつもりはないが、U-18カタール代表にも1-3で敗れるなど苦戦の続くU-18代表がチームを再編する際はその名がメンバーリストに加わるかもしれない。

 杉本は残り半年となった高校生活へ向けて「プレミアでみんなと優勝することが自分とっては一番幸せなことかもしれない。でも一日一日を大切にしてトップで頑張ることが自分ら(ユース選手の)の将来につながる。今、トップでの置かれた状況を理解して、その中で自分の位置をしっかりと刻みたい」。“ブレない”男は置かれた状況の中でがむしゃらに自分の、そしてチームのために戦う決意だ。

(取材・文 吉田太郎)

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